銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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067『氷室との出会い』

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銀河太平記

067『氷室との出会い』 加藤 恵  




 眉毛剃ったら人相変わるよ。


 火星の仲間には言われた。

 緒方未来の姿が解除できないからだ。

 緒方未来に成りすまして火星に潜入したけど、彼女には強い味方がいたようで、予想に反して火星に戻って来てしまった。

 仕方なく、九分通り潜入に成功した扶桑城を後にして、ムーンベース経由で西ノ島にやってきた。さすがに眉は剃らないで、髪を切って、前髪を変えた。

 
「ひょっとして仕事を探してる?」


 振り返ると、旧式の戦闘服が立っている。

 戦闘服だけが立っていたら、24世紀の今日でもミステリーだ。

 戦闘服の中身は、髭を剃ったら十倍はアドバンテージが上がりそうな男。

 細身だけど、関節とか丈夫そうで、意外に痩せマッチョかも。西南戦争で連隊旗を奪われたころの乃木希典に似ていると思ったけど、こいつは、乃木さんのような泣き顔じゃない。

 一秒で、そう感じたけど、おくびにも出さずに半分だけ正直に言う。

「わけありなんですけど」

「この島の人間はみんなわけありさ。いっそ、島の全員に訳有って苗字に改名させたら、スッキリする」

「そうね、で、あなたは?」

「南の方の世話役をやってる氷室です。きみは?」

「えと……加藤恵」

 どうせバレるから「本名」を言っておく。

「そう、どっちで呼んだらいい?」

「どっちって?」

「苗字か名前か」

「恵」

「じゃ、メグミ」

「あ、それカタカナのニュアンス」

「少しだけ斜めに外した方がおもしろい」

「変な人」

「変な人に変な奴って言われてしまった」

「人って言ったの、変な人」

「うん、だから、斜めに外した方が面白い」

「で、仕事って?」

「知っていたら教えてほしい。さっき、旧式のマイドが下りて来たって通報があったんだけど、知らないかなあ?」

「さあ、わたしは船に紛れてやってきたから」

「そうか、じゃあ……」

 ギッコン ズズー ギッコン ズズー

「わ!」

 岩陰から突然現れたものに、リアルに驚いてしまった。

「おお、ニッパチ、動けるようになったのか!」

 それは、野外作業に特化した旧式の労務ロボットだ。厳密にはロボットではなく作業機械に区分される。機械なので、ロボット保護法の適用は受けない。実数的にはヒューマロイドよりもずっと数が多いと言われている。

『PC容量ノ80%ヲ駆動系モジュールニマワシ……マシタ』

「ああ、ひどい声だなあ」

『コミニケーションヲ モニターダケニスレバ 左足動クカモ……』

 言うと、そいつはマンガの吹き出しのようなバーチャルモニターを出した。

「ベースに帰ってピックアップとってくるよ、しばらく、そこで我慢しろ」

『デモ、マイド見ツケニ行カナケレバ』

「お前の方が大事だよ、ニッパチ、とにかく待ってろ。すまん、ニッパチ見てやってくれないか。誘拐されると困るんでな」

『這ッテ行ケバ、付イテイケマス』

「それじゃ、虐待になっちまう」

『ニッパチハ作業機械、虐待ニナラナイデス』

「そんなこと言うな」

「よかったら、診てみようか、ロボットの事なら少しは分かるから」

「おお、メグミはメカに強いの!?」

「多少はね」

「じゃ、ちょっと診てやってやってくれますか、メカに愛情はあるんだけど、技術はからっきしでねえ」

「じゃあ……」

『オネガイシマス』

 ハンベと繋いで上半身の駆動系PCを腰から下の駆動系にまわしてやる。細かい作業だが、十分ほどで終了。

『おお、直りました! 上半身はグニャグニャですが、普通に歩けます!』

「声も戻ったじゃないか、やっぱりニッパチは温もりのあるバリトンでなくちゃなあ!」

「えと、応急処置なんで、機材の整ったところでやり直した方がいいと思う」

「よし、メグミ、きみはたった今から、氷室カンパニーの社員だ!」

「あ、やったあ!」


 ズドドーーン


『あ、社長、マイドです! マイドが逃げていきます!』

 岩山の向こうから発射音。どうやら修理が終わったようで、本来の五倍ぐらいの騒音をまき散らしてマイドが上昇していく。

「惜しい、あんな旧型はめったに見られないのに……」

 雲間に上昇していくマイドを見上げる二人と一台の姿は、なんだか長閑で、お伽話の始まりのようにも終わりのようにも思えた。

 

※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 
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