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210『共同墓地』
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銀河太平記
210『共同墓地』ミク
ちょっと息をのんだ。
開拓初期に堀りつくした地下鉱山が史跡東京ドームほどの空洞になっていて、その空洞が丸ごと墓地になっている。
印象は高校の修学旅行で傍を通った青山墓地。青々とした林の中に古色蒼然とした和式の墓石が並んでいる。
医者であるわたしは基本的には生きた人間しか相手にしない。死者と関わるのは、検死で立ち会う、たいていはなりたてホヤホヤの死者。その先の葬儀や埋葬には立ち会ったことが無い。
だから、墓地というのは今風のパルスコーティングした規格品が並んでいる無機質なイメージしかない。
なんだけど、この共同墓地は、慎ましやかではあるけれど石でできた古典的な墓石だ。
「うわぁ、地球から持ち込んだ墓石もあるぞぉ……」
時代劇に出てきそうな墓石には『〇〇家』とか『△△家墓地』とか彫られていて、側面には頭に『釋』『俗名』、お尻に『居士』『真女』が付いた名前が、少ないもので十数人、多いもので数十人彫られていている。
中には没年が彫られているものもあって、そのいくつかは昭和・平成・令和があって、中には明治・大正や、教科書でしか見たことのない年号のものも混じっている。
「ひょっとして、地球から移してきたのかなあ」
「そうだろうなあ、みんな家とか血のつながりを大事にしていたんだ……」
21世紀の終りから月や火星に移った日本人は家を大事にした。
広い宇宙に飛び出して、自己を律すると言ったら硬いんだけど、アイデンテティーをしっかり持っていないと苦しい。
人類とかコスモポリタンとかいう概念は括りがは曖昧、大きすぎて心の拠り所にはならない。
日本人は、心の要石として『ご先祖様』『お天道様』『天子様』を置いてきた。
二百年前に流行ったグローバリズムやコスモポリタンという括りでは、アイデンテティーをティッシュペーパーのように薄くて脆いものにすることに気が付いたんだ。
だから、火星に国家を立てる時に、ご先祖たちは幕府という大時代なものを作った。幕府であるからには、どこまで行っても日本の血脈であり、その最小単位である家族や一族を大切にすることに繋がる。そして、さらに、同時に宗主国の日本とは親和性を持ちながら一線を引くことができる。
月の開拓は火星よりも早かったから、地球と一線を画すよりは、アイデンテティーの保持が大切で、ご先祖様を核とする繋がりを大事にしたんだ。それが、この青山霊園に似た墓地に現れている。
「木や草はフェイクだな、当たり前だけど」
「たとえフェイクでも、墓地に緑が必要と思う感性はいいと思う」
「お墓を探そう、案内板は……」
「あ、あそこにある」
寄ってみるとA区画とあって、百基余りの墓所が記してあるけど姉崎というのは見当たらない。下の方には立花不動産のロゴとハンベナンバーが書かれていて、分譲や管理は不動産屋が請け負っているのが分かる。
二つ目……三つ目……四つ目の区画で姉崎という墓所を発見、下の方を見るとあけぼの不動産、間違いない。
林立する墓石の中ほどに、線香の煙が立ち上っている。
もしやと踏み入ってみると、墓石に額づいている懐かしい後姿を発見した。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
210『共同墓地』ミク
ちょっと息をのんだ。
開拓初期に堀りつくした地下鉱山が史跡東京ドームほどの空洞になっていて、その空洞が丸ごと墓地になっている。
印象は高校の修学旅行で傍を通った青山墓地。青々とした林の中に古色蒼然とした和式の墓石が並んでいる。
医者であるわたしは基本的には生きた人間しか相手にしない。死者と関わるのは、検死で立ち会う、たいていはなりたてホヤホヤの死者。その先の葬儀や埋葬には立ち会ったことが無い。
だから、墓地というのは今風のパルスコーティングした規格品が並んでいる無機質なイメージしかない。
なんだけど、この共同墓地は、慎ましやかではあるけれど石でできた古典的な墓石だ。
「うわぁ、地球から持ち込んだ墓石もあるぞぉ……」
時代劇に出てきそうな墓石には『〇〇家』とか『△△家墓地』とか彫られていて、側面には頭に『釋』『俗名』、お尻に『居士』『真女』が付いた名前が、少ないもので十数人、多いもので数十人彫られていている。
中には没年が彫られているものもあって、そのいくつかは昭和・平成・令和があって、中には明治・大正や、教科書でしか見たことのない年号のものも混じっている。
「ひょっとして、地球から移してきたのかなあ」
「そうだろうなあ、みんな家とか血のつながりを大事にしていたんだ……」
21世紀の終りから月や火星に移った日本人は家を大事にした。
広い宇宙に飛び出して、自己を律すると言ったら硬いんだけど、アイデンテティーをしっかり持っていないと苦しい。
人類とかコスモポリタンとかいう概念は括りがは曖昧、大きすぎて心の拠り所にはならない。
日本人は、心の要石として『ご先祖様』『お天道様』『天子様』を置いてきた。
二百年前に流行ったグローバリズムやコスモポリタンという括りでは、アイデンテティーをティッシュペーパーのように薄くて脆いものにすることに気が付いたんだ。
だから、火星に国家を立てる時に、ご先祖たちは幕府という大時代なものを作った。幕府であるからには、どこまで行っても日本の血脈であり、その最小単位である家族や一族を大切にすることに繋がる。そして、さらに、同時に宗主国の日本とは親和性を持ちながら一線を引くことができる。
月の開拓は火星よりも早かったから、地球と一線を画すよりは、アイデンテティーの保持が大切で、ご先祖様を核とする繋がりを大事にしたんだ。それが、この青山霊園に似た墓地に現れている。
「木や草はフェイクだな、当たり前だけど」
「たとえフェイクでも、墓地に緑が必要と思う感性はいいと思う」
「お墓を探そう、案内板は……」
「あ、あそこにある」
寄ってみるとA区画とあって、百基余りの墓所が記してあるけど姉崎というのは見当たらない。下の方には立花不動産のロゴとハンベナンバーが書かれていて、分譲や管理は不動産屋が請け負っているのが分かる。
二つ目……三つ目……四つ目の区画で姉崎という墓所を発見、下の方を見るとあけぼの不動産、間違いない。
林立する墓石の中ほどに、線香の煙が立ち上っている。
もしやと踏み入ってみると、墓石に額づいている懐かしい後姿を発見した。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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