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262『サンルームとマーマレード』
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銀河太平記
262『サンルームとマーマレード』 胡盛媛中尉
「マー マーマレード!」
「フフ」
「え、おかしい?」
「え、いえ」
「あ、ああ……下手な洒落に聞こえたかしら(^_^;)」
「あ、はい、少し」
「今日は、四軍予算の概算要求の日だったでしょ、宇宙軍なんて用語が全部英語でしょ、漢明語の発音までおかしくなっちゃって」
「あ、果醤(コージャン)と言った方がよかったですか?」
「あぁ、それだとお醤油くさくなる」
「あ、醤(ジャン)は醤油の醤でしたね」
「「アハハハハ( ´艸`)(´∀`*)」」
サンルームで話していると、大統領では無くて、ちょっと年上のおねえさんと話してるような気になってくる。午後から張り出したシベリア寒気団も、このサンルームでは自然に忘れられる。
「庭の蜜柑は温州みかんなのよ」
「温州、浙江省のですか?」
「あ、そうなんだけど、ちょっと違う。むかしむかしに温州の蜜柑を日本の留学僧が持ち帰って品種改良を重ねたものなの。それを三百年前に、今度は中国の留学生が持ち帰って植えたものなのよ」
「へえ、そうだったんですか!」
「うん、日中国交のシンボルみたいな……でも、この官邸に来て気づく人は、日漢双方でもマレだけどね」
「あ、この話、広報に載せていいですか?」
「うん、いいわよ。でも、殿下のことには触れないでね」
「あ、素性を隠してもダメですか?」
「うん、殿下が自分で思い出されるまでは……最初に言ったことと矛盾かもだけど、もうちょっと時間をかけたいの。ごめんなさいね」
チン
「あ、ちょうどパンが焼けたわ」
「あ、わたしが……」
「いいのいいの、大統領なんて因果な仕事やってると、こういうことがとても癒しになるのよ……」
そういうことなら……と、楽しそうにト-ストにマーマレードを塗る大統領の後姿。
もうPI前の老将軍のイメージは無い。ボディーである王春華は有能な大統領秘書で、緊急時には男の警護官以上の働きをしたと言われてるけど、そういう攻殻機動隊の女隊長の感じでもない。
トーストにマーマレードを塗っている後姿は、短大を出てやっと一年目くらいのOL。
「あ、垂れてきたぁ~」
「あ!」
とっさに立ち上がって、トーストから垂れたマーマレードを二人、指で絡めとって口に含む。
「「オオ!」」
その甘さと香りに同時に唸って、そして、二人で笑ってしまう。
「なんだか、本当の姉といるようです。あ、姉はいませんけど」
「え、そう? 妹という感じにはならないかしらぁ?」
「あ、それは……(^_^;)」
「アハハ、冗談よ……うん、やっぱり果肉が残ってると美味しい」
「殿下、いえ、ゲストさんの腕がいいからです」
「そう……そうねえ……あ、ここでは殿下でいいわよ」
「……殿下が記憶を取り戻されたら、どう処遇するつもりでおられるんですか?」
「殿下は、五代前の成治天皇の五世孫。皇室の伝統では皇位継承権を持っておられる……このことは知っているでしょ?」
「はい、一応のことは」
「今の陛下は女性天皇だけど、陛下ご自身は元来の男系継承が正しいと思われてる」
「そうなんですか?」
「一応の皇位継承者はお妹の須磨の宮さまにされていたけど……」
「先年、お亡くなりになりましたね」
「そう、だから今の決まりでは、フーちゃんも知ってる心子内親王殿下」
「はい、いまは内密に火星の扶桑に御滞在……」
「それが、情報では、もう火星にはおられないらしいの」
「ああ、マッパ病が……」
「それもあるだろうけど、心子内親王殿下を皇位継承のゴタゴタから遠ざけておきたいお気持ち……」
「え、今上陛下がお指図……?」
「それは無いと思う。いろいろ思いを致した人たちが、さまざまに推し量った結果だと思う……日本人の思考法は我々とは違うからねぇ……」
「あのう……その伝で言うと、火星の扶桑将軍も、成治天皇の五世孫では?」
「さすが、漢明の広報、よく知ってるわね」
「あ、いえ、西ノ島に居た時にいろいろ話を聞きましたので……」
シゲ老人やハナちゃんのことが思い出されて、ちょっと鼻の奥がツンとする。
「フフ、あの島には楽しい思い出があるのね」
「え、あ……」
「ううん、わたしも二度ばかり行ったけど、いいところよ。こんなゴタゴタが全部終わったら、大統領なんてトットとやめて、いっしょに西ノ島で魚釣りしたいものね」
「ハイ!」
「ね、どうだろ、そのマーマレード西ノ島に送ってあげたらぁ? お岩さんとかが、美味しく使ってくれるわ」
「え、あ、いいんですか?」
「いいわよ、そうだ、行き帰りは、あの人に頼もうか……ウフフ( ´艸`)」
なんだか、いたずらを思いついた女子高生みたい。
わたしなんか、思いもよらない……怪物なのかもしれない。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
262『サンルームとマーマレード』 胡盛媛中尉
「マー マーマレード!」
「フフ」
「え、おかしい?」
「え、いえ」
「あ、ああ……下手な洒落に聞こえたかしら(^_^;)」
「あ、はい、少し」
「今日は、四軍予算の概算要求の日だったでしょ、宇宙軍なんて用語が全部英語でしょ、漢明語の発音までおかしくなっちゃって」
「あ、果醤(コージャン)と言った方がよかったですか?」
「あぁ、それだとお醤油くさくなる」
「あ、醤(ジャン)は醤油の醤でしたね」
「「アハハハハ( ´艸`)(´∀`*)」」
サンルームで話していると、大統領では無くて、ちょっと年上のおねえさんと話してるような気になってくる。午後から張り出したシベリア寒気団も、このサンルームでは自然に忘れられる。
「庭の蜜柑は温州みかんなのよ」
「温州、浙江省のですか?」
「あ、そうなんだけど、ちょっと違う。むかしむかしに温州の蜜柑を日本の留学僧が持ち帰って品種改良を重ねたものなの。それを三百年前に、今度は中国の留学生が持ち帰って植えたものなのよ」
「へえ、そうだったんですか!」
「うん、日中国交のシンボルみたいな……でも、この官邸に来て気づく人は、日漢双方でもマレだけどね」
「あ、この話、広報に載せていいですか?」
「うん、いいわよ。でも、殿下のことには触れないでね」
「あ、素性を隠してもダメですか?」
「うん、殿下が自分で思い出されるまでは……最初に言ったことと矛盾かもだけど、もうちょっと時間をかけたいの。ごめんなさいね」
チン
「あ、ちょうどパンが焼けたわ」
「あ、わたしが……」
「いいのいいの、大統領なんて因果な仕事やってると、こういうことがとても癒しになるのよ……」
そういうことなら……と、楽しそうにト-ストにマーマレードを塗る大統領の後姿。
もうPI前の老将軍のイメージは無い。ボディーである王春華は有能な大統領秘書で、緊急時には男の警護官以上の働きをしたと言われてるけど、そういう攻殻機動隊の女隊長の感じでもない。
トーストにマーマレードを塗っている後姿は、短大を出てやっと一年目くらいのOL。
「あ、垂れてきたぁ~」
「あ!」
とっさに立ち上がって、トーストから垂れたマーマレードを二人、指で絡めとって口に含む。
「「オオ!」」
その甘さと香りに同時に唸って、そして、二人で笑ってしまう。
「なんだか、本当の姉といるようです。あ、姉はいませんけど」
「え、そう? 妹という感じにはならないかしらぁ?」
「あ、それは……(^_^;)」
「アハハ、冗談よ……うん、やっぱり果肉が残ってると美味しい」
「殿下、いえ、ゲストさんの腕がいいからです」
「そう……そうねえ……あ、ここでは殿下でいいわよ」
「……殿下が記憶を取り戻されたら、どう処遇するつもりでおられるんですか?」
「殿下は、五代前の成治天皇の五世孫。皇室の伝統では皇位継承権を持っておられる……このことは知っているでしょ?」
「はい、一応のことは」
「今の陛下は女性天皇だけど、陛下ご自身は元来の男系継承が正しいと思われてる」
「そうなんですか?」
「一応の皇位継承者はお妹の須磨の宮さまにされていたけど……」
「先年、お亡くなりになりましたね」
「そう、だから今の決まりでは、フーちゃんも知ってる心子内親王殿下」
「はい、いまは内密に火星の扶桑に御滞在……」
「それが、情報では、もう火星にはおられないらしいの」
「ああ、マッパ病が……」
「それもあるだろうけど、心子内親王殿下を皇位継承のゴタゴタから遠ざけておきたいお気持ち……」
「え、今上陛下がお指図……?」
「それは無いと思う。いろいろ思いを致した人たちが、さまざまに推し量った結果だと思う……日本人の思考法は我々とは違うからねぇ……」
「あのう……その伝で言うと、火星の扶桑将軍も、成治天皇の五世孫では?」
「さすが、漢明の広報、よく知ってるわね」
「あ、いえ、西ノ島に居た時にいろいろ話を聞きましたので……」
シゲ老人やハナちゃんのことが思い出されて、ちょっと鼻の奥がツンとする。
「フフ、あの島には楽しい思い出があるのね」
「え、あ……」
「ううん、わたしも二度ばかり行ったけど、いいところよ。こんなゴタゴタが全部終わったら、大統領なんてトットとやめて、いっしょに西ノ島で魚釣りしたいものね」
「ハイ!」
「ね、どうだろ、そのマーマレード西ノ島に送ってあげたらぁ? お岩さんとかが、美味しく使ってくれるわ」
「え、あ、いいんですか?」
「いいわよ、そうだ、行き帰りは、あの人に頼もうか……ウフフ( ´艸`)」
なんだか、いたずらを思いついた女子高生みたい。
わたしなんか、思いもよらない……怪物なのかもしれない。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
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栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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