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309『劉宏大統領とりあず乾鎮に戻る』
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銀河太平記
309『劉宏大統領とりあず乾鎮に戻る』 劉宏大統領
その知らせを受けたのは乾鎮(けんちん)の公邸に戻るオイドのコクピット。
華北某市の混乱を収拾して、次は北京の安定を図らなきゃと自分に言い聞かせている。
欲を言えば、もう一つ二つ一級都市を安定させてから北京の掌握を確かなものにしたかった。でも、地方にかまけていては北京の議会で弾劾決議が出かねない。大統領の地位なんていつでも人にくれてやる。その覚悟は大統領の地位に着いた時からできている。でも、今はまだその時ではない。
オイドの操縦をオートからアナログに切り替える。
オートにすればオイドのAIが快適な乗り心地のまま乾鎮まで運んでくれる。でも、それだと快適すぎて眠ってしまう惧れがある。眠らなくても八割頭になって思考力・判断力が落ちてしまう。
脳みそはPIして王春華の人工頭脳に置き換わったけど、中身は劉宏。適度な緊張の内にあってこそ、十全の能力が発揮できる。
殿下の記憶が戻った。
23世紀の今日、パルス的な治療で記憶を取り戻してあげることもできるけど、わたしは自然な回復に期待した。パルス的、機械的に戻した記憶は、わたしがAIの自動操縦でオイドに乗っているようなもの。八割頭、八割魂に過ぎない。
上海が剣呑だ。
二万に近い日本人が水城南路に籠っている。その代表である吉野親王と名乗る男性が暗殺されてしまった。吉野さんはシマイルカンパニーのベテラン社員で、北京から上海に移った時にこの騒動に巻き込まれ、吉野家に伝わる家系伝説を利用して途方に暮れている日本人をまとめてきた。上海以外の地でも、日本人は孤立し行き場を失っている。
西之島戦争同様、日本政府は腰が引けている。自ら自国民を助けようという気概も姿勢も無い。
漢明軍の半ばは、まだ、この劉宏の手の内にある。その漢明軍を使って在留邦人を保護することは可能だけども、場合によっては漢明人同士の戦いになりかねない。日本のために漢明人同士が傷つけあうことは絶対ダメだ。
殿下に上海に行っていただこう、しかし、上海では防御も救援も困難……それならば……
思案しているうちに乾鎮が見えて来た。オイドを下降させ着陸態勢に入るが、わたしの思考は上昇気流に乗ってきた……よし、これならば大丈夫。
「お帰りなさいませ大統領閣下」
尊宅さんが庭師の作業服で出迎えてくれる。さすがはベテラン船長、船を下りても一流だ。
「尊宅さん、いえ船長」
「はい、なんでしょうか」
「大連までいっしょに飛んでくださらないかしら」
「……殿下ですね?」
「うん、大連からはこのオイドを預けるから、殿下をお乗せして上海に飛んで」
「はい」
「ハンベで話しは通しておくけど、殿下に上海の日本人の人たちを纏めていただきます」
「はい」
「殿下をお送りしたら、その足で大連に戻って、大連海運の船長をお願いするわ」
「日本の人たちを移送するのでございますね」
「うん。尊宅さんが成功すれば、他にも手を挙げてくれる船会社も出てくる」
「承知いたしました。わたしもかつての仲間に声をかけて、ベストのクルーを集めます」
「ありがとう、あ、とその前に議会に向かうわ。弾劾決議されちゃかなわないから」
「大連へはわたし一人が参りましょうか?」
「いえ……それは……」
わたしも混乱している。議会対策も急務だけど、殿下には直接お目にかかってお互いの気持ちを確かめておく必要がある。
今からやろうとしているのは、ただの権力闘争なんかじゃない、日本との関係を破綻させることなく、今の混乱を収拾しなければならない。国内に混乱や問題を外国のせいにするのは、もうやめなければ、やめさせなければならない。きれいごとだけでは政治はできないけど、そういうことをないがしろにしては、この国の将来に禍根を残す。
「議会へも大連へも自分の足で行きます。申し訳ないけど、両方つきあってください」
「承知しました、それが最善の道でしょう」
さすが、長年火星航路の船長を務めてきただけのことはある。
「うん、そうよね」
「すぐに議会に向かわれますか?」
グゥゥゥ
「あ、何か食べてから、きのうのお昼から食べてないから」
ボディーは王春華の義体だけども、バイオ組織は食事で養分補給をしている。
「サンドイッチでよろしければ、ツナと玉子とマーマレードサンドならご用意できます」
「それって、尊宅さんのお昼なんじゃ?」
「こういう時のためにレプリケーターがあります」
尊宅さんは日常ではレプリケーター(自動食品生成機)を使わない。
「そう、じゃあ、遠慮なく……あら?」
いつのまにか車庫に誘導され、オイドの前にはサンドイッチを持った秘書メイドが笑顔で立っている。
ウウ、うっかりしていると尊宅さんに大統領の椅子を奪われるかもしれない(^_^;)。
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 少将 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
309『劉宏大統領とりあず乾鎮に戻る』 劉宏大統領
その知らせを受けたのは乾鎮(けんちん)の公邸に戻るオイドのコクピット。
華北某市の混乱を収拾して、次は北京の安定を図らなきゃと自分に言い聞かせている。
欲を言えば、もう一つ二つ一級都市を安定させてから北京の掌握を確かなものにしたかった。でも、地方にかまけていては北京の議会で弾劾決議が出かねない。大統領の地位なんていつでも人にくれてやる。その覚悟は大統領の地位に着いた時からできている。でも、今はまだその時ではない。
オイドの操縦をオートからアナログに切り替える。
オートにすればオイドのAIが快適な乗り心地のまま乾鎮まで運んでくれる。でも、それだと快適すぎて眠ってしまう惧れがある。眠らなくても八割頭になって思考力・判断力が落ちてしまう。
脳みそはPIして王春華の人工頭脳に置き換わったけど、中身は劉宏。適度な緊張の内にあってこそ、十全の能力が発揮できる。
殿下の記憶が戻った。
23世紀の今日、パルス的な治療で記憶を取り戻してあげることもできるけど、わたしは自然な回復に期待した。パルス的、機械的に戻した記憶は、わたしがAIの自動操縦でオイドに乗っているようなもの。八割頭、八割魂に過ぎない。
上海が剣呑だ。
二万に近い日本人が水城南路に籠っている。その代表である吉野親王と名乗る男性が暗殺されてしまった。吉野さんはシマイルカンパニーのベテラン社員で、北京から上海に移った時にこの騒動に巻き込まれ、吉野家に伝わる家系伝説を利用して途方に暮れている日本人をまとめてきた。上海以外の地でも、日本人は孤立し行き場を失っている。
西之島戦争同様、日本政府は腰が引けている。自ら自国民を助けようという気概も姿勢も無い。
漢明軍の半ばは、まだ、この劉宏の手の内にある。その漢明軍を使って在留邦人を保護することは可能だけども、場合によっては漢明人同士の戦いになりかねない。日本のために漢明人同士が傷つけあうことは絶対ダメだ。
殿下に上海に行っていただこう、しかし、上海では防御も救援も困難……それならば……
思案しているうちに乾鎮が見えて来た。オイドを下降させ着陸態勢に入るが、わたしの思考は上昇気流に乗ってきた……よし、これならば大丈夫。
「お帰りなさいませ大統領閣下」
尊宅さんが庭師の作業服で出迎えてくれる。さすがはベテラン船長、船を下りても一流だ。
「尊宅さん、いえ船長」
「はい、なんでしょうか」
「大連までいっしょに飛んでくださらないかしら」
「……殿下ですね?」
「うん、大連からはこのオイドを預けるから、殿下をお乗せして上海に飛んで」
「はい」
「ハンベで話しは通しておくけど、殿下に上海の日本人の人たちを纏めていただきます」
「はい」
「殿下をお送りしたら、その足で大連に戻って、大連海運の船長をお願いするわ」
「日本の人たちを移送するのでございますね」
「うん。尊宅さんが成功すれば、他にも手を挙げてくれる船会社も出てくる」
「承知いたしました。わたしもかつての仲間に声をかけて、ベストのクルーを集めます」
「ありがとう、あ、とその前に議会に向かうわ。弾劾決議されちゃかなわないから」
「大連へはわたし一人が参りましょうか?」
「いえ……それは……」
わたしも混乱している。議会対策も急務だけど、殿下には直接お目にかかってお互いの気持ちを確かめておく必要がある。
今からやろうとしているのは、ただの権力闘争なんかじゃない、日本との関係を破綻させることなく、今の混乱を収拾しなければならない。国内に混乱や問題を外国のせいにするのは、もうやめなければ、やめさせなければならない。きれいごとだけでは政治はできないけど、そういうことをないがしろにしては、この国の将来に禍根を残す。
「議会へも大連へも自分の足で行きます。申し訳ないけど、両方つきあってください」
「承知しました、それが最善の道でしょう」
さすが、長年火星航路の船長を務めてきただけのことはある。
「うん、そうよね」
「すぐに議会に向かわれますか?」
グゥゥゥ
「あ、何か食べてから、きのうのお昼から食べてないから」
ボディーは王春華の義体だけども、バイオ組織は食事で養分補給をしている。
「サンドイッチでよろしければ、ツナと玉子とマーマレードサンドならご用意できます」
「それって、尊宅さんのお昼なんじゃ?」
「こういう時のためにレプリケーターがあります」
尊宅さんは日常ではレプリケーター(自動食品生成機)を使わない。
「そう、じゃあ、遠慮なく……あら?」
いつのまにか車庫に誘導され、オイドの前にはサンドイッチを持った秘書メイドが笑顔で立っている。
ウウ、うっかりしていると尊宅さんに大統領の椅子を奪われるかもしれない(^_^;)。
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
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扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
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森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
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須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
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栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 少将 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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