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46『最初に借りた本』
しおりを挟むやくもあやかし物語
46『最初に借りた本』
二千冊は読んだんだけどねえ……。
お母さんがため息をつく。
午後から時間が出来たと言うので、図書館に連れてこられた。
気ままなお母さんが気まぐれに思いついたことなんだけど、お母さんが娘のわたしに何かしてやろうと思いつくことと、お母さんに暇があるという条件はめったに重ならないので、学年末テストの真っ最中だというわたしの条件には目をつぶって「いくいく!」と元気に返事したのだ。
結婚して実家を離れるまでに、お母さんは二千冊余りの本を借りて読んだんだそうだ。
「ハーーーーーでも、読んだ記憶のある本がほとんどないよ……」
トドメのため息。
図書館の蔵書はここだけで五万冊あるらしい、年間数百冊の本が加わって、ほぼ同数の本が廃棄される。どんな本を読んでいたか知らないけど、二十年もたっていれば、そういうもんだろう。でも、お母さんが不器用ながらもアグレッシブな空気を作ろうとしているんだから、うんうんと頷いておく。
「おーし、これからガンガン読むぞお! と、その前に図書カード作ってあげなきゃね」
「あ、えと……」
言いそびれてお母さんのあとを付いていく。
「図書カードなら持ってるよ」
調子を合わせてあげたいんだけど、越してきて間のないころお婆ちゃんが連れてきてくれて図書カードはもう作っている。本だって何冊か借りているのだけど、お母さんには言えない。
頭の中がグルグルする。
――いや、お婆ちゃんが作ってきてくれたんだよ(^_^;)――
これは、お婆ちゃんに確認されたらバレてしまう。自分で作ったんだしね。
――いや、わたしって図書委員でしょ。図書委員は自動的に街の図書館の図書カードも作ってもらえるんだよ(;'∀')――
ダメダメ、お母さんも同じ中学出身。おまけに図書委員だったし。
――いやあ、なんべん来ても、お母さんといっしょは初めてだし、新鮮で嬉しいよ!(-_-;)――
見え透いたごますりっぽい。
「あ、そ……」
グルグルしてる間に、母さんは興味失って絶対零度まで冷えてしまった。
「そこのカフェでお茶してるから、見終わったら呼んで……」
ああ……ドヨ~ンとしちゃった。なんか最悪。
お母さんの悪い癖だとは分かってる。自分のプランにケチが付くと瞬間冷凍したみたくなっちゃう。むろん、家族の中でしか見せない素の姿なんだけど、そういうのにいちいちオロオロしちゃうわたしもわたしなんだけど、リアクションは「うん」一言になってしまう。
沈んだ心で書架の林をめぐる。
こちらのテンションが高くないと本たちは寡黙だ。読んでくれえ~!とか読んでよう!とか迫って来る本は一冊もない。ボーーっと巡っていると瞬間赤いスカートにポニテの女の子が書架と書架の間を過った。
あれは……?
書架の角を曲がると、向こうの方を、また女の子が過った。
もう一つ書架を曲がると、今度は一瞬こちらを向いて過った。
猫娘!?
いくつかの書架を曲がった奥にオジサンに寄り添うように猫娘。
猫娘はオジサンの向こうにまわってしまう。オジサンがこちらを向いた。
水木しげる!?
「やあ、この本を見せてあげたくてね……」
水木しげるのオジサンは、一冊の本をわたしに見せた。
水木しげるの代表的な作品だ。
「あの子が最初に借りた本だよ」
それだけで分かった。
「ありがとうございます!」
本を手にして顔をあげると、水木しげるも猫娘も消えていた。
カウンターに持って行って手続きして、その足でカフェへ。
「そうだ、これだった、初めて借りたの!」
一瞬でお母さんは上機嫌になった。めでたしめでたし……。
☆ 主な登場人物
•やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
•お母さん やくもとは血の繋がりは無い
•お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
•お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
•小出先生 図書部の先生
•杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
•小桜さん 図書委員仲間
•あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け
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