やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお

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141『神保城』

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やくもあやかし物語

141『神保城』   




 意外にかわいい顔をしている……メイド王さんだよ。


 仮にも王様だし、遅れたのはわたしの方だし、起こしちゃ悪いって思った。

 取次のメイドさんだって立ったまま居眠りしてたしね。

 ここは、お目覚めになるまで待っているしかないと思うわけですよ。

 衣装がね、王様らしいローブなんか着て、首には貂かなにかの襟巻みたいなの巻いて、頭には略式の王冠。

 略式と言っても、王様だから、そこらへんの王女様のティアラなんかよりもゴッツいよ。



 カクン



 なにか夢でもみたのか、体かカクンとして襟巻の半分がズレて喉元から鎖骨にかけて露わになる。

 その露わになったところが白くて華奢でね。ちょっと感動。

 なんというか、宝塚音楽学校の娘役の生徒さんが、文化祭で無理して王さま役をやっているような感じ。

 ちょっと倒錯したような可愛さに、思わず見とれてしまう。

 
 コンコン


 謁見室のドアがノックされて「はい」って応えたら、メイドさんが六人も入ってきた。

 二人がテーブル、もう二人が一脚ずつ椅子、もう一人がトレーにティーセット載せたのを捧げ持ってる。

 あ、一人はメイド長って感じで、ツカツカと王さまの横に行くと、なにか囁いた。

「あ、これはすまん。あまりの心地よさに、ちょっと居ねむってしまったようだな。よく来たな、やくも。そちらの椅子に掛けられよ。あとは、わたしがやる。下がってよいぞ」

「では、失礼いたします」

 メイド長が言うと、五人のメイドさんたちも頭を下げて謁見の間を出て行った。

「すみません、わたしの方こそ遅れてしまって、お待たせしてしまいました」

「この城は険しい峰の上にあるからなあ、初めての者は、たいてい時間がかかる。わたしの方も、それを見越していたところがあるんだよ。やくもを待つという口実で、少し寛ぐことができた。メイドたちも心得ていて、みな適当に休んでいたよ。取次はいわば貧乏くじで起きていなければならなかったのだが、あまりの心地よさに立ったまま舟をこいでおったとか。まあ、このわたしが居ねむっていたのだから許してやっておくれ」

「いえいえ、そんなことを言われると身の置き所がありません(^_^;)」

「だから、この城がそなたの身の置き所……ちょっとひっかけてしまったかな(^_^;)」

「はあ」

「この城は『ジンボウ城』という名前なんだ」

「ジンボウ?」

「漢字で書けば『神保城』だ」

 神保……聞いたことがある。

「うん、神田の神保町だ」

「あ、ああ、古本屋さんがいっぱいあるんですよね」

「ほう、神田の古書店街を知っているのか?」

「あ、お母さんが、ときどき仕事で本とか探しに」

「じゃあ、やくももいっしょに行くのか?」

「いえ、あそこだけは一人で行ってました『やくもはチョロチョロして目が離せないから』って」

「ハハハ、気持ちは分かるぞ」

「わたし、そんなにチョロチョロしません」

「あそこは、一人で行って、じっくりと本を探す街だ。どんな大人しい者でも連れて行くと集中できないんだよ」

「はあ、そうなんですか」

「なんで『神保町』と云うか分かるかな?」

「え?」

「一般には、江戸の昔に神保という旗本の屋敷があったからということになっているがな。実は、神の力を保つで『神保町』なのだよ」

「神の力?」

「これをご覧」

 王さまが指を振ると千代田区とその周辺の地図が現れた。

「この丸で囲んだところが、時計回りに上野寛永寺、アキバ、神田明神だ。結ぶと縦に長い三角形になる」

「あ、ほんとだ」

「で、いずれも皇居の丑寅、つまり鬼門にあたるわけさ。もともと、神田明神は、その目的で祀られたし、上野の寛永寺は家康が江戸の鬼門封じにその外側に補強の意味で作った。そして、さらに発展して大きくなった東京の守護として、アキバが発展した」

「アキバが鬼門封じなんですか!?」

「ああ、そうだ。邪気から大切なものを護るには『気』が必要なんだ。大勢の人の『大切なものを求める気』『大切なものを護る気』が必要なのだ。しかし、上野と神田だけでは追いつかず、昭和の後半からアキバに力が注ぐがれるようになった」

「なるほど……」

「しかし、二十一世紀になると、それでも追いつかず。ついには、神田川に蛇の妖が住み着くようにさえなってしまった」

「あ、それが!?」

「そうそう、やくもが退治してくれた蛇やら龍だ。明治からこっち、将門さんは、その責任感の強さから、ほとんどお一人でやってこられたが、今の状況は、やくもが経験したとおりなんだ」

 言葉を濁しているけど、将門さんとアキバの連携はうまく行ってないところがあるんだ。

「上野・神田・アキバを結ぶ三角形は、いわば鬼門を護るための刀なのだよ。そして、その刀の柄にあたるところが、この神保町なのだ」

 ちょっと怖くなってきたよ……御息所がもらった寝殿造りみたいに、気楽に天蕎麦楽しむってわけにはいかないかも(;'∀')。

「あ、これは怖がらせてしまったな、すまんすまん。要は、ここでやくもが楽しく過ごしてくれたらいいんだ。やくもが、のんびりしたり楽しんでくれれば、それだけで、この神保城の気が上がって、守れることになっているから。まあ、とりあえず、新しい城主を迎える宴会をやろう!」

 チリンチリン

 メイド王が指を振ると、どこかで連動しているんだろう、気持ちのいい鈴の音がして、城内のあちこちで宴会の準備をする音やら声々が湧き上がった。

「ああ、やっと着いたあ!」

「ああ!?」

 声に振り向くと、チカコと御息所が、いつもの1/12ではなくて、等身大になって現れた。

「どうも、洋風というのは落ち着かぬのう」

「フフ、自分のよりも立派だからやっかんでるのね」

「そ、そんなんじゃないわ!」

「アハハハ」

 チカコと御息所が追いかけ合いを始めると、入り口には、紺の制服……あ、交換手の制服着た黒電話さん! 他にも半人化したアノマロカリスやら、フィギュアたち、普段は本棚に収まってるラノベやマンガたちも、手足が生えてメイドさんたちに案内されてる。

 謁見室は、壁が取り払われて大広間になって、あっという間に大宴会になってしまった!

 みんな、わたしの部屋のグッズたち。

 できたら、他のあやかしたちや、お爺ちゃんお婆ちゃん、お母さんたちも呼べたらいいなあと思ったよ。

 まあ、これからの課題だね。



☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 
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