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27『プリンセス ミナコ・9』

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時かける少女・27 

『プリンセス ミナコ・9』         





 空港が見えてきて、ぶったまげた。滑走路が三本もあって、どう見ても関空よりも大きい!

 ミナコ公国は、リヒテンシュタインよりは大きいが、ベルギーよりは小さいと聞いていた。ミナコでも分かるジャンボジェットの他に、それよりでっかい飛行機が一杯いて、離発着する様は、壮観だった。


「さあ、ここからは営業用の立ち居振る舞いでね。真奈美ちゃん、いい?」

「はい、承知しました!」

 真奈美は、ローファーの踵を鳴らして敬礼した。

「それは、ナチスの敬礼。間違っても人前ではやらないでね……奈美子さん、よろしく」

「はい、陛下」

「イテ!」

 真奈美は、お母さんに、頭をポコンとされて、思わず地が出る。

「じゃ、いくわよ」

 ミナコはびっくりした。

 タラップに出たとたん稲光のようなフラッシュ。同時に軍楽隊の演奏。お祖母ちゃんの手を取るようにして、タラップを降りる。レッドカーペットが彼方のリムジンまで続いていて、飛行機の中で覚えた人たちが、ずらりと並んでいる。

 で、テンパッテしまった。

 男女の区別と、多少の老若が分かるだけで、誰がだれか、ぜんぜん分からなくなった。欧米人の顔は、やっぱり同じに見えてしまう……ミナコ自身も似たような顔をしているのだが、子どものころから見た顔は、日本人ばかりである。


「大丈夫、わたしがプロンプターをやります」

 ダニエルが、ささやいてくれた。

「ボンジュール、プライムミニスター・アクリル・ド・エポキシ」から始まった。

 一言二言返ってきたが、たいがいサンキューで間に合った。

「こんにちは、レディー・ミナコ」

 と、最後の女の子が日本語でかましてきた!

「こ。こんにちは」

 口が勝手に慣れ親しんだ言葉を発した。

「大阪でいらっしゃいますのね?」

「あ、あなたは?」

「ローテ・ド・クレルモンと申します。いずれ、また……」
 
 ほんの二言だったが、気圧されてしまった。だれだろう、あのすみれ色のワンピースは?

「ミナコが、王女にならなかったら、この国の王位第一継承者になるフランスのお嬢ちゃんよ」

 お祖母ちゃんの女王が、リムジンの中で不敵な笑みを浮かべながら言った……。

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