明神男坂のぼりたい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
2 / 109

02〔大晦日の明日香〕

しおりを挟む
明神男坂のぼりたい

02〔大晦日の明日香〕   

          


 夕べのレコード大賞はどこだった?

 仕事で見落としたお父さんが聞く。

 ええと……え、どこだっけ?

「おい。若年性認知症か?」

 いっしゅん焦ったけど、寝落ちしたことを思いだす。

 まあ、お母さんが見てたのを視界の端に留めていたって程度なんだけどね。今どきの高校生は紅白なんて見ないし。

 でも、紅白をネタに娘と普段は途絶えがちなコミニケーションを計ろうとしたのかも。

 だったら申し訳ない(^_^;)

 なんか返そうと焦ったら、さっさと諦めて? 呆れて? 表に新聞を取りに行った。

 新聞とテレビが情報源……情弱のジジイになるぞ……思っても口には出さない。

 
 うちのTGH高校の演劇部は、自分で言うのもなんだけどレベルは高い。過去三年間地区大会一等賞。で、本選では落ちてくる……その程度には。


 今年は『その火を飛び越えて』という東風先生の本をやった。

 いつも通り「すごいわ!」「やっぱ、勝てない!」などの歓声が幕が下りると同時におこった。香里奈なんかは「先生、本選は土曜日とってくださいね。わたし、日曜は検定だから」と、早手回しに息巻いていた。


 上演後の講評会でも、審査員は「演技が上手い」「安心して観ていられる」などと誉めちぎってくれたけど、審査発表では二等賞だった。


 一瞬「なにかの間違い?」というような空気になった。


 一等の最優秀賞は、都立平岡高校だった。だけど、歓声も拍手も起こらない。当の平岡の生徒たちも信じられないという顔をしていた。

 次の瞬間、会場はお通夜のようになってしまった。


 柳先輩が、パンフを見たときの言葉が浮かんだ。

「チ、審査員、浦島太郎……!」


 ちなみに柳先輩は、身長160センチのベッピンさんで、けして柄の悪いアンチャンではない。

 そのベッピン柳先輩をしてニクテイを言わしめるほどに、劇団東京パラダイスの浦島太郎は評判が悪い。

 一昨年の本選で、当時は統合前だった千鳥ヶ淵高校の作品を『現代性を感じない』とバッサリ切った前科がある。現代性が尺度なら古典はおろか、バブル時代の本だってできない。

 問題は、いかに作品の中に人間を描きだすか。わたし的にはオモロイ芝居にするかが尺度だよ。

 浦島太郎は、こんなことも言った。

「二年前もそうだったけど、なんで、今時こんな芝居するかなあ。バブルの時代の話しでしょ」

 平岡高校の時は終戦直後、旧制中学が新制高校に変わるときのお話だったよ。そっちの方が時代性なくね?

 ちなみに浦島太郎っていうのはキンタローと同様に験担ぎの芸名。幼稚園の生活発表会で浦島太郎の役をやって当たったんで、そのまんまで、やっている。
 もっとも当たったのは、その日の弁当の食中毒で、本人はシャレのつもりでいてる。名前から来るマイナーなイメージには頓着してない……ところが、この人らしい。


 我が城北地区には、生徒の実行委員が選ぶ地区賞というのがある。

 我がTGH高校は、それの金賞をもらった。通称「コンチクショウ」という。まさに字の通り。

 平岡高校は、それの銅賞にも入らなかったよ。


「どうしようもないなあ」


 そう言ったら、東風先生に「言い過ぎ!」と怒られた。

 腹の収まらないあたしたちは「アドバイスをいただきたい」ということで、浦島太郎を学校にお招きした。

 一応相手は、プロで大人だから、礼は尽くす。

「先生の審査の柱は?」「わたしたちに高校演劇として欠けているものは?」「演出の課題は?」「どうやったら先輩たちのように上手くなれるんでしょう?」「高校演劇のありようは?」「道具の使い方のポイントは?」

 浦島太郎は「道具を含むミザンセーヌのあり方が……」「演出の不在を感じた」「エロキューションはうちの劇団員よりいい。でも、それだけではね」などと言語明瞭意味不明なことを述べ、あたしらは、ただ「恐れ入る」ということを主題に演技した。

 あたしは思った。

 ダメだと思ったら落とすための理由を審査員は探す。イケテルと思ったら上げるための理由を探す。審査基準が無いためのダブスタの弊害。

 西郷先輩が、帰りの電車で浦島太郎といっしょになった。

「いやあ、君たちのような高校生といっしょに芝居がしたいもんだ」

 西郷先輩は、そのままメールでみんなに知らせてくれた。

―― どの口が!? ――

 あたしは、そう返した。


 なんだか、がんばらなくっちゃという気持ちになって台本を読む。

「明日香、いつになったら部屋片づけのん!?」

 お母さんの堪忍袋の緒が切れた。

「あ、今やろうと思ってたとこ」

 白々しくお片づけの真似事を始める。

「今から、そんなことしないでよ。ゴミ収集が来るのは年明けの五日だぞ!」


 大人は理不尽。


「買い物行ってきて。これリスト」

「ええ、生協で買ったんじゃないの!?」

「それでもいろいろ漏れるの。さっさとしないと昼ご飯ないよ!」

 あたしは、玄関でポニーテールが決まっていることだけを確認。

「よし!」

 そして、ホームセンターと近所のスーパーをチャリンコで周る。

「ええ……ディスクのRWに電池、ベランダ用ツッカケ……たかが三が日のために、年寄りの正月はたいそうなんだから」

 そう思いながら、大事なものが抜けていることに気がついた。

 しめ縄がない。

 で、気を利かして1000円のしめ縄を買った。


「バカか。うちは喪中でしめ縄なんかできないでしょ!」


 お母さんははっきり口に出して、お父さんは背中で非難した。

 そうだ、この七月にお婆ちゃん(お父さんのオカン)が亡くなったんだった……。

 自己嫌悪で締めくくった大晦日だった。



※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...