明神男坂のぼりたい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
25 / 109

25〔心に積もりそうな雪〕

しおりを挟む
明神男坂のぼりたい

25〔心に積もりそうな雪〕  


       

 生まれて初めて学校をズル休みした。

 ズルだというのは、お父さんもお母さんも分かってるみたいだったけど、なにも言わなかった。


 夕べ、ネットで近辺の葬儀会館調べまくった。

「そちらで、佐渡さんのご葬儀はありませんか?」

 六件掛けて、全部外れ。

 自宅葬……いまどき、めったにない。

 それに佐渡君の家の様子を察すると絶対無い。あとは、公民館、地区の集会所……これは、調べようがない。

「ほとけさんは、必ず火葬場に行く、あのへんだったら、○○の都営火葬場だろなあ」

 お父さんが、呟くようにして言った。時間も普通一時から三時の間だろうって呟いた。

「行ってくる……」

 お父さんは、黙って一万円札を机の上に置いた。


「最寄りの駅からはだいぶある。タクシー使え」
「ありがとう。でも、いい」


 そう言うと、三階から駆け下りて、坂の上にペコリ。

 チャリにまたがると、火葬場を目指した。

 佐渡君は、あんな死に方したんだ。タクシーなんてラクチンしちゃダメだ。

 家から一時間も漕いだらいけるだろう。

 スマホのナビで、五十分で着いた。

 補導されるかもしれないけど、ウィンドブレーカーの下に制服を着てきた。

 いつもルーズにしているリボンもちゃんとしてきた。

 こんなたくさんの人て死ぬのかっていうほど、霊柩車を先頭に葬儀の車列がやってくる。

 むろん通勤電車並ではないけど、感覚的にはひっきりなし。

 あたしは霊柩車とマイクロバスに貼ってある「なになに家」いうのをしっかり見ていた。


 ……八台目で見つけた。


 霊柩車の助手席に、お母さんが乗っている。事故の日とちがって、ケバイことは無かった。

 霊柩車の後ろのマイクロバスは、半分も乗っていない。ワケありなんだろうけど寂しいなあ。

 窓ぎわに佐渡君に似た中坊が乗っている。弟なんだろうなあ……。

 火葬場に着いたら、だいたい十五分ぐらいで火葬が始まる。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの葬式で見当はつくようになった。


「十五分。いよいよ……」


 数珠は持ってけこなかったけど、火葬場の煙突から出る湯気みたいな煙に手を合わせた。待ってる間は自転車漕いできた熱と、見逃してはいけないという緊張感で寒くなかったけど、足許から冷えてきた。

 焼けて骨になるのに一時間。一時間は、こうしておこう思った。

 佐渡君は、たった一人で逝ってしまたんだから……。



「ありがとう、鈴木」



 気がついたら、横に佐渡君が立っていた。

「佐渡君……」

「学校のやつらに来てもらっても嬉しくないけど、鈴木が来てくれたのは嬉しい」

「あたし、なんにもできなかった」

「そんなことないよ。破魔矢くれたし、救急車に乗って最後まで声かけてくれた。女子にあんな近くで名前呼んでもらったの初めてだ。それに、手を握ってくれてたよなあ」

「え、そうだった?」

「そうだよ。鈴木の手、温かくて柔らかくって……しょうもない人生だったけど、終わりは幸せだった。ナイショだけどな、夕べ、オカンが初めて泣いた。オカンはケバイ顔とシバかれた思い出しかなかったんだけどな。オレ、あれでオカンも母親だというのが初めて分かった」

「佐渡君……」

「だけど、ほんの二三秒だよ。オカンらしいよ…………じゃ、そろそろ行くな」
「どこ行くの?」

「さあ、天国か地獄か……無になるのか。とにかく鈴木にお礼が言えてよかった……」

 佐渡君の姿は急速に薄れていった。あたしの意識とともに……。


「おう、やっと気がついたか」

 気が付いたら、火葬場の事務所で寝かされていた。

「なんか、ワケありの見送りだったんだね。冷たくなってただけだから、救急車も呼ばなかったし、学校にも連絡はしなかったよ。まあ、これでもお飲み。口に合うかどうかわからんけどな」

 事務所のオジサンが生姜湯をくれた。

 暖かさが染み渡る。

「ありがとう、美味しいです」
「もっとストーブの傍にに寄りな。もう、おっつけご両親も来られるだろうから」

「え、親が?」

「ほっとくわけにもいかんのでなあ、生徒手帳とスマホのアドレス見せてもらった」

「いえ、いいんです。あたしの方こそ、お世話かけました」

 オジサンは、それ以上は喋らず、聞きもしなかった。佐渡君も、いろいろあったんだろうけど、それは言なかった。


 そして、だんご屋の軽ワゴンで、お父さんとお母さんが迎えに来てくれた。

 車の窓から外見たら、心に積もりそうな雪がちらほらと降ってきた……。




※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...