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27〔思い出した!〕
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明神男坂のぼりたい
27〔思い出した!〕
ねえ、頼むよ!
もう朝から三回目。
東風先生に、顔会わすたびに言われる。
「地区総会、行ける者がいないのよ」
「美咲先輩に言えばいいでしょ!」
三回目だから、つい言葉もきつくなる。
「美咲は休みだから、言ってんの。三年にも頼んだけど、もう卒業したのも同然だから、みんな断られた」
「……美咲先輩、見越してたんやないですか。今日のこと?」
そう、今日は連盟の地区総会がある。四時半から平岡高校で。
だれが好きこのんで、夕方の四時半に平高まで行かなきゃならないのさ。春の総会にも行ったけど、偉い先生のつまらん話聞いておしまいだった。演劇部の顧問が、なんで、こんな話ベタなんだろうと思っただけ。
二度と御免!
「明日香、あんたクラブに籍はあるんだよ……」
とうとう先生は、奥の手を出した。二年先の調査書が頭をよぎる。
「グヌヌ……」
「ごめん、じゃお願いね。ほれ、交通費。余ったらタコ焼きでも食べといで!」
先生は、野口英世を二枚握らせると『前期入試準備室』の張り紙のある部屋へ入っていった。先生は入試の担当だ、仕方がないと言えば仕方がない。なんせ、試験は明日だ。
平岡高校。
去年、浦島太郎の変な審査で、あたしたちを抜かして本選に行った学校よ。忘れかけてたムナクソ悪さが蘇る。
……まあ、終わったこっちゃ。
大人しく一時間も座っていたら済む話。交通費をさっ引いた野口君でタコ焼き食べることだけを楽しみに席に着く。
案の定、地区代表の先生のつまらん総括の話。いつもの集会と同じように、前だけ向いて虚空を見つめる。少し自腹を切ってタコ焼きの大盛りを食べようと考える。
「……というわけで、今年度のコンクールは実り多き成果を残して終えることができました」
地区の先生の締めくくりの言葉あたりから、タコ焼きの影が薄くなって、消えかかってた炎が大きなってきた。
「では、各学校さんから、去年を総括して、お話ししていただきます。最初は……」
このあたりから、タコ焼きの姿は完全に消えてしまった。みんな模擬面接みたいな模範解答しか言わない。
「え、次はTGH高校さん……」
で、まず一本切れた。
「あんなショボイコンクールが、なんで成功だったのか、あたしには、よく分かりません。観客は少ないし、審査はいいかげんだし……」
会場の空気が一変したのが分かった。
驚き、戸惑い、怒りへと空気が変わっていくのが、自分でも分かった。だけど止まらない。
「いまさら審査結果変えろとは言いません。だけど、来年度は、なんとかしてください。ちゃんと審査基準持って、数値化した審査ができるように願います。あんな審査が続くようだったら、地区のモチベーションは下がる一方です」
「それは、無理な話だなあ。全国の高校演劇で審査基準持ってるトコなんかないよ」
連盟の役員を兼ねてる智開高校の先生がシャッターを閉めるみたいに言う。
あたしは、ものには言いようがあると思ってる。
一刀両断みたいな言い方したら、大人しい言葉を思っていても、神経が逆撫でされる。
頭の中でタコ焼きが焦げだした。
「なんでですか。軽音にも吹部にも、ダンス部の大会でも審査基準があります。無いのは演劇だけです。怠慢じゃないですか!?」
言葉いうのはおもしろいもので、怠慢の音が自分のなかで「タイマン」に響いた。あたしは、ますますエキサイトした。
「そんな言われ方したら、ボクらの芝居が認められてないように聞こえるなあ……」
平岡の根性無しが、目線を逃がしたまま言った。
「だれも、認めないとは言ってない! それなりの出来だったとは思う。ただ審査結果が正確に反映されてないって言ってるんです!」
「そ、それは、ボクらの最優秀がおかしい言うことか!?」
「そう、あれは絶対おかしい。終演後の観客の反応からして違ったでしょうが!」
「なんだって!?」
「思い出してみてよ! 審査結果が発表されたときの会場の空気、あなたたちだって『ほんとうか?』って顔してたでしょうが!」
「だけど、ボクたちが選ばれたんだ!」
「あれのどこが最優秀よ! 台詞は行動と状況の説明に終始して、生きた台詞になってない。ドラマっちゅうのは生活よ! 生きた人間の生活の言葉よ! 悲しいときに『悲しい』て書いてしまうのは、情緒の説明。落としたノート拾うときの一瞬のためらい。そういうとこにドラマがあるのよ。あんたたちのは、まだドラマのプロットに過ぎない。自己解放も役の肉体化もできてない学芸会よ!」
お父さんが作家のせいか、語り出したら、専門用語が出てくるし、相手をボコボコにするまでおさまらない。
「そんなに、人を誹謗するもんじゃない!」
司会の先生が、声を荒げた。
「なにを、シャーシャーと言ってるんですか! もともとは、こんな審査をさせた連盟の責任でしょうが!?」
「き、きみなあ……!」
「さっさと、審査基準作って、公正な審査しないと、毎年こうなるの、目に見えてるじゃないですか!」
「あ、あんまりよ、あなたの言い方は!」
○○高校の子が赤い顔して叫んだ。
こいつは本気で怒ってない。ほんとうに怒ったら、涙なんか出ない。顔は蒼白になって目が座るもんだ。
ドッカーーン!
タコ焼きが爆発した。
「あんたねえ、この三月に、ここに居る何校かと組んで合同公演やるんだってね。ネットに載ってたわよ。嬉しそうに劇団名乗って、学校の施設使って何が劇団よ! 合同公演よ! なんで自分のクラブを充実させようとしないの! 演劇部員として技量を高めようとしないの!」
……あとは修羅場の愁嘆場だった。
これだけもめて、公式の記録には――第六地区地区総会無事終了――
帰りに明神さまに手を合わせたら、なんだかソッポを向かれたような気がした。
ごめんなさい、ちょっとやり過ぎてしまいました。
ちょっと?
あ、いえ、かなり……え、今の声は?
見回しても、近くに人影は無い。随神門のあたりを掃除している巫女さんが見えるだけ。
拝殿に一礼して、巫女さんにも小さくお辞儀して男坂を下りて帰りました。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
巫女さん
だんご屋のおばちゃん
27〔思い出した!〕
ねえ、頼むよ!
もう朝から三回目。
東風先生に、顔会わすたびに言われる。
「地区総会、行ける者がいないのよ」
「美咲先輩に言えばいいでしょ!」
三回目だから、つい言葉もきつくなる。
「美咲は休みだから、言ってんの。三年にも頼んだけど、もう卒業したのも同然だから、みんな断られた」
「……美咲先輩、見越してたんやないですか。今日のこと?」
そう、今日は連盟の地区総会がある。四時半から平岡高校で。
だれが好きこのんで、夕方の四時半に平高まで行かなきゃならないのさ。春の総会にも行ったけど、偉い先生のつまらん話聞いておしまいだった。演劇部の顧問が、なんで、こんな話ベタなんだろうと思っただけ。
二度と御免!
「明日香、あんたクラブに籍はあるんだよ……」
とうとう先生は、奥の手を出した。二年先の調査書が頭をよぎる。
「グヌヌ……」
「ごめん、じゃお願いね。ほれ、交通費。余ったらタコ焼きでも食べといで!」
先生は、野口英世を二枚握らせると『前期入試準備室』の張り紙のある部屋へ入っていった。先生は入試の担当だ、仕方がないと言えば仕方がない。なんせ、試験は明日だ。
平岡高校。
去年、浦島太郎の変な審査で、あたしたちを抜かして本選に行った学校よ。忘れかけてたムナクソ悪さが蘇る。
……まあ、終わったこっちゃ。
大人しく一時間も座っていたら済む話。交通費をさっ引いた野口君でタコ焼き食べることだけを楽しみに席に着く。
案の定、地区代表の先生のつまらん総括の話。いつもの集会と同じように、前だけ向いて虚空を見つめる。少し自腹を切ってタコ焼きの大盛りを食べようと考える。
「……というわけで、今年度のコンクールは実り多き成果を残して終えることができました」
地区の先生の締めくくりの言葉あたりから、タコ焼きの影が薄くなって、消えかかってた炎が大きなってきた。
「では、各学校さんから、去年を総括して、お話ししていただきます。最初は……」
このあたりから、タコ焼きの姿は完全に消えてしまった。みんな模擬面接みたいな模範解答しか言わない。
「え、次はTGH高校さん……」
で、まず一本切れた。
「あんなショボイコンクールが、なんで成功だったのか、あたしには、よく分かりません。観客は少ないし、審査はいいかげんだし……」
会場の空気が一変したのが分かった。
驚き、戸惑い、怒りへと空気が変わっていくのが、自分でも分かった。だけど止まらない。
「いまさら審査結果変えろとは言いません。だけど、来年度は、なんとかしてください。ちゃんと審査基準持って、数値化した審査ができるように願います。あんな審査が続くようだったら、地区のモチベーションは下がる一方です」
「それは、無理な話だなあ。全国の高校演劇で審査基準持ってるトコなんかないよ」
連盟の役員を兼ねてる智開高校の先生がシャッターを閉めるみたいに言う。
あたしは、ものには言いようがあると思ってる。
一刀両断みたいな言い方したら、大人しい言葉を思っていても、神経が逆撫でされる。
頭の中でタコ焼きが焦げだした。
「なんでですか。軽音にも吹部にも、ダンス部の大会でも審査基準があります。無いのは演劇だけです。怠慢じゃないですか!?」
言葉いうのはおもしろいもので、怠慢の音が自分のなかで「タイマン」に響いた。あたしは、ますますエキサイトした。
「そんな言われ方したら、ボクらの芝居が認められてないように聞こえるなあ……」
平岡の根性無しが、目線を逃がしたまま言った。
「だれも、認めないとは言ってない! それなりの出来だったとは思う。ただ審査結果が正確に反映されてないって言ってるんです!」
「そ、それは、ボクらの最優秀がおかしい言うことか!?」
「そう、あれは絶対おかしい。終演後の観客の反応からして違ったでしょうが!」
「なんだって!?」
「思い出してみてよ! 審査結果が発表されたときの会場の空気、あなたたちだって『ほんとうか?』って顔してたでしょうが!」
「だけど、ボクたちが選ばれたんだ!」
「あれのどこが最優秀よ! 台詞は行動と状況の説明に終始して、生きた台詞になってない。ドラマっちゅうのは生活よ! 生きた人間の生活の言葉よ! 悲しいときに『悲しい』て書いてしまうのは、情緒の説明。落としたノート拾うときの一瞬のためらい。そういうとこにドラマがあるのよ。あんたたちのは、まだドラマのプロットに過ぎない。自己解放も役の肉体化もできてない学芸会よ!」
お父さんが作家のせいか、語り出したら、専門用語が出てくるし、相手をボコボコにするまでおさまらない。
「そんなに、人を誹謗するもんじゃない!」
司会の先生が、声を荒げた。
「なにを、シャーシャーと言ってるんですか! もともとは、こんな審査をさせた連盟の責任でしょうが!?」
「き、きみなあ……!」
「さっさと、審査基準作って、公正な審査しないと、毎年こうなるの、目に見えてるじゃないですか!」
「あ、あんまりよ、あなたの言い方は!」
○○高校の子が赤い顔して叫んだ。
こいつは本気で怒ってない。ほんとうに怒ったら、涙なんか出ない。顔は蒼白になって目が座るもんだ。
ドッカーーン!
タコ焼きが爆発した。
「あんたねえ、この三月に、ここに居る何校かと組んで合同公演やるんだってね。ネットに載ってたわよ。嬉しそうに劇団名乗って、学校の施設使って何が劇団よ! 合同公演よ! なんで自分のクラブを充実させようとしないの! 演劇部員として技量を高めようとしないの!」
……あとは修羅場の愁嘆場だった。
これだけもめて、公式の記録には――第六地区地区総会無事終了――
帰りに明神さまに手を合わせたら、なんだかソッポを向かれたような気がした。
ごめんなさい、ちょっとやり過ぎてしまいました。
ちょっと?
あ、いえ、かなり……え、今の声は?
見回しても、近くに人影は無い。随神門のあたりを掃除している巫女さんが見えるだけ。
拝殿に一礼して、巫女さんにも小さくお辞儀して男坂を下りて帰りました。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
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佐渡くん 不登校ぎみの同級生
巫女さん
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