明神男坂のぼりたい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
35 / 109

35〔なんで付いていかなきゃならないの?〕

しおりを挟む
明神男坂のぼりたい

35〔なんで付いていかなきゃならないの?〕          




 なんで付いていかなきゃならないの?

 思わず聞き返した。


 明菜が、離婚旅行に付いてこいと言ってきたから。

 明菜のいいところは、人との距離が近くて、接し方が前向きなこと。

 たいていの人なら1メートルは開ける距離が50センチ、話に身が入ると、それさえ超えてくることがある。

 それが、モテカワ美人の笑顔だよ。参ってしまう。

 普通メールで済ますことでも、ちゃんと電話してくる。でも、長話することはなく、要点を述べると『じゃあ、失礼します』とか親しい仲でも礼儀正しい。

 でもね、それが人によっては煩わしく感じるかもしれないとは思った。

 なんだか、ドラマの中の演技に付き合わされてるみたいな圧と窮屈さ。

 そう思われてしまうと、逆に明菜の方から距離を取ってしまう。そうなると、セレブのモテカワ美人であることが裏目に出て『お高く止まってる』的に見られて、人が離れていく。

 実は、不器用な子なんだと、久々に会って思うよ。

 自分のパターンが通じなくなると、どうしていいか分からなくなるんだ。

 それが、おそらくだけど、家族に対してもそうだったんじゃないかって、テラスに並んで腰かけて思ったよ。



 そして、結局は、いっしょに付いていくことになった。あたしも変わり者ではあるよ。

 まあ、アゴアシドヤ代持ってくれるって言うんだから、離婚旅行の付き添いいうことを除けばいい話。

 目的地はハワイ……とまではいかないけど、箱根温泉。

 明菜のお父さんのセダン……左ハンドルだから外車だというのは分かるけど、メーカーまでは分からない。革張りのシートにサンルーフ。後部座席には専用のモニターテレビに、バーセットまで付いてる。なんでか、うちの日常では見慣れたリアワイパーは付いてなかった。

「ああ、リアワイパーが無いのが不思議なんだね?」

 お父さんが、うちの不思議を見破って、バリトンのいい声で聞いてくれる。バックミラーに映る斜め横のお顔が爽やか。

「なんで付いてないんですか?」

 かわいく素直に聞いておく。

「国産のワンボックスなんかだと、車のお尻とリアウィンドウが近くて、泥が付きやすいんでね。セダンはお尻が長いから付いてなんだ」

「そうなんですか」

 感心していたら、前を走ってる日産のセダンには付いてた。

「フフ、分かり易いけど、知ったかぶりでしょ」

 お母さんが、鼻先であしらう。

「僕のは一般論だよ。むろん例外はある。日本人にとっては、バックブザーと同じく親切というか行き届いていることのシンボルなんだね。ま、民族性といってもいい」

 お父さんは、構わずに話をまとめた。


「前の車、邪魔ね。80制限の道を80で走るなんて、ばかげてる」


 サービスエリアで、休憩したあと、運転をお母さんが替わって、第一声が、これだった。

「始末するか……」

 ゴミを片づけるような調子で、お母さんが呟くと、ウィーンと機械音がした。明菜もなんだろうって顔をしている。

 地獄へ堕ちろお! ドドドドドドドド!

 スパイ映画の主人公みたいなことを言うと、いきなり機関銃の発射音と、衝撃、そしてスモークが車内に満ちた。

 で、前を走っていた車は……あたふたと道を譲った。

 あたしは、思わず明神さまのお守りを握りしめてしまった。

「おまえ、おれの車いじったのか?」

「離婚記念にね。大丈夫、映画用のエフェクトだから弾は出ないわ。ここ押すとね、車内だけのエフェクトになって、外には聞こえないの」

「今は、押さなかっただろ?」

「今のは若いニイチャン二人だったから、ちょっとイタズラ。まちがってもヤクザさんの車相手にやっちゃいけません」

「こういうバカっぽいとこ、好きだな」

「こんなことで、離婚考え直そうなんて、無しよ」

「それと、これとは別」

「だったら、結構」

「おかげで、時間通りに着けそうだな」

 お父さんは時間を気にしているようだった……。



※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...