明神男坂のぼりたい

武者走走九郎or大橋むつお

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67〔夏も近づく百十一夜・1〕

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明神男坂のぼりたい

67〔夏も近づく百十一夜・1〕 



 食堂でAランチ食べようと思ったら、わたしの前の子で自販機の食券が切れてしまい。やむなく玉子丼で我慢して教室に戻る途中。

 ああ Aランチ……

 未練たらしくAランチを思い、口の中に残る玉子丼の味わいを物足りなく思っていると、久々で廊下で出くわした東風爽子先生が声をかけてきた。

「明日香、ちょっと放課後あたしのとこ来てくれる」
 
 あたしは、この2月3日で演劇部を辞めた。理由は、バックナンバー読んでください。


「……はい」


 ちょっと抵抗はあったけど、もう3カ月も前のことだし、あたしも17歳。あんまり子どもっぽい意地をはることもないと思って返事した。

 ほんとは、ちょっとムッとした。

「来てくれる」に「?」が付いてない。「絶対来いよ」いう顧問と部員だったころの感覚で言ってる。生徒とは言え退部した人間なんだから、基本は「来てくれる?」にならなくっちゃいけない。

「今の教師はマニュアル以上には丁寧にはなれない」

 元高校教師のお父さんは言う。東風先生は、まさに、その典型。コンビニのアルバイトと大差はない。

 これが、校長から受けたパワハラなんかには敏感。前の民間校長辞めさせた中心人物の一人が東風のオネエチャンらしい。らしい言うのは、実際に校長が辞めるまでは噂にも出てこなかったのが、辞めてからは、自分であちこちで言ってる。校長を辞職に追い込んだ先生は別にいるけど、この先生は、一切そういうことは言わない。授業はおもしろくないけど、人間的にはできた人だと思う。

 で、東風先生。

「失礼します」

 教官室には恨みないので、礼を尽くして入る。

「まあ、そこに座って」

 隣の講師の先生の席をアゴでしゃくった。そんで、A4のプリント二枚を付きだした。

「なんですか、これ?」
「今年のコンクールは、これでいこ思ってんの」


 A4のプリントは、戯曲のプロットだった。

「今年は、とっかかり早いだろ」

 あたしは演劇部辞めた生徒です……は飲み込んで、二枚のプロットに目を通した。タイトルは「あたしをディズニーリゾートに連れてって」だった。

「先生、これって四番煎じ」

 さすがにムッとした顔になった。

「元ネタは『わたしを野球に連れてって』いう、古いアメリカ映画。二番煎じが『わたしをスキーに連れてって』原田知世が出てたホイチョイ三部作の第1作。似たようなものに『あたしを花火に連れてって』があります。まあ、有名なのは『わたスキ』松任谷由実の『恋人はサンタクロース』の挿入歌入り。で、先生が書いたら、四番煎じになります。まあ、中味があったらインパクトあるでしょうけど、プロット読んだ限りでは、ただ、ディズニーリゾートでキャピキャピやって、最後のショー見てたら大きな花火があがって、それが某国のミサイルだった……ちょっとパターンですね」

「鋭いね明日香は」

「ダテに演劇部辞めたわけじゃないですから」
「どういう意味?」
「演劇のこと知らなかったら、残ってたかもしれません。分かるから辞めたんです」
「それは、置いといて、作品をね。とにかく、この時期から創作かかろいうのはエライだろ」

 うちは、この野放図な自意識を、どうなだめようかと考えた。

「確かに、今から創作にかかろうというのはいいと思います。大概の学校はコンクール一カ月前の泥縄だし」
「だろ、だから、まだ玉子のこの作品を……」
「ニワトリの玉子は、いくら暖めてもAラン……白鳥のヒナにはなりません」
「そんな、実もフタもないこと……」
「それに、このプロットでは、人物が二人。まさか、あたしと美咲先輩あてにしてるんじゃないですよね?」

 やってしまった。先生の顔丸つぶれ。それも教官室の中で……。

「ま、まだプロットなんですね。いっそ一人芝居にしたら道がひらけるかも。それにタイトルもリスペクトすんのはいいですけど、短かくした方が『あたしを浦安に連れてって』とか」

 ああ、ますます逆効果。

「……勝手なことばっかり言って、すみませんでした。じゃ、失礼します」

 ダメだ、南風先生ボコボコにしてしまった。もっとサラリと受け流さなきゃ。あたしは、やっぱしバカの明日香だ。

 だけど、これは、さらなるバカの入り口でしかなかった……。



※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート
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