明神男坂のぼりたい

武者走走九郎or大橋むつお

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109〔男坂のぼりたい〕

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明神男坂のぼりたい

109〔男坂のぼりたい〕 




 え………………………………?


 病院に運ばれたはずなのに、家の前に居る。

 見上げると、ついさっき見た男坂の谷の空。

 見渡すと、人の気配が無い。

 男坂の反対側は452号線の大通り、深夜にだって車が走っているのに、気配もない。

 ちょっと怖い。

 家に入ろうと思ったら二階の玄関には鍵がかかってる。

 階段下りて、一階のドアもビクともしない。


 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………


 なんだか音がする……男坂の上の方だ。

 男坂の向こうの空が、懐かし色に光っている。

 夕陽?

 男坂の向こうに夕日が傾くと、時期とタイミングによっては、この谷底を神々しく茜に染めてくれる。

 でも、ちょっと違う。

 男坂を上って行けば、あの懐かし色の中に入っていけそうな。

 懐かし色の向こうは、とても穏やかで気持ちのいいところなんだ。

 そう思って歩き出すと、坂の踊り場のところに佐渡君。


 あ、やっぱり、さっきから居たんだ。


 佐渡君は、照れながらも嬉しそう。

「久しぶりだねえ……」

 石段を上がると、嬉しそうなんだけど、嬉しそうなまま首を横に振ってる。

 さらに上がると、今度は両手をワイパーみたいに振る。

「行っちゃだめ?」

 コクンと頷くと、消えてしまう。


 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………


 音が、さらに大きくなって、坂の上を見上げると、お祖母ちゃん。

 ほら、しゃくばあじゃない方、去年亡くなった方のお祖母ちゃん。

「おばあちゃん……」

 手を伸ばすと、お祖母ちゃんも――さあ、おいで――って感じで手を差し伸べてくれる。

 認知症で、孫のわたしの顔も忘れた時の顔じゃなくて、よちよち歩きの時「アンヨがじょうず、ここまでおいで~」って、あの時のお祖母ちゃん。

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 え、音が大きくなって、音が邪魔する感じになって、脚が前に進まない。

 待って、お祖母ちゃん。

 明日香、いま行く、いま行くから。

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 なに、なんで、この音は邪魔すんの?

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 別にバリアーとかじゃないんだけど、石段を上ろうとすると力が抜けてしまう。

 カツン

 音が止んだ。

 あ、脚に力が戻ってきた。

 そして、石段を二三段上がったところで、下から上がってきた人に抜かされた。

「え、しゃくばあ?」

 石神井のおばあちゃんが、あたしを追い越して、坂の上まで上って行く。

 上まで着くと、二人のお祖母ちゃんは光になって西の空に上って行ってしまった。


 ……わたしは、危ないところで持ち直したらしい。


 過労だったところに、子どもの頃に完治したと思っていた病気が再発したみたい。

 集中治療室なんだろうね、ベッドの周りに機械がいっぱい。腕や鼻にチューブ突っ込まれてるし。

 人の気配感じて目をやると、だんご屋のお仕着せが目に入る。

 さつき?

 いや、出雲阿国さんだ。

『さつきからの言付けを伝えに来たの』

『さつきから?』

『さつきね、大公孫樹(おおいちょう)使って丑の刻参りやっちゃってね』

『え、御神木の大公孫樹?』

 思い出した……あの音は、大公孫樹に藁人形打ち付ける音だったんだ!

 さつきは、滝夜叉姫って云って、丑の刻参りの御本家……でも、だれを呪って……?

『人じゃないわ、明日香に巣くった病魔よ』

 阿国さんが指を振ると、藁人形が浮かんだ。

 藁人形のお腹には『明日香の病魔』と書かれている。

『もう千年も封じてきた丑の刻参り、それも明神様の御神木でやっちゃあね……』

『巫女さんに怒られた?』

『わたしが結界張って見えないようにはしてたんだけどね、少彦名命さんに見つかった』

 スクナヒコナ……ああ、明神さまの、もう一人の神さま。

『あの人、小さいから、結界の隙間から入ってこられて、それで大黒様にも知れてしまって』

 そうだ、大黒さまも御祭神。

『お二人は、病気平癒を祈っての事だからって、大目に見ようって仰ったんだけどね、現実の大公孫樹に打ち付けたわけじゃないし。あれは、明日香の心の中の神田明神だしね』

『将門さまが?』

『うん、身内だからこそ甘い顔はできないって』

『さつきは、どうなるの?』

『しばらくは出てこられないって……』

『そう……』

 鼻の奥がツンとして言葉が出てこない。

『あ、行かなきゃ。そろそろ佳代ちゃんも起きるころだから』

 そうだ、阿国さんは、佳代ちゃんの神さまだったんだ。

 さつき……わたしのこと構いすぎだったんだよ。


 退院して、お母さんに聞かされた。

 わたしが入院した日に、しゃくばあが倒れて、そのまま逝っちゃったこと。

 今日は、そのしゃくばあの納骨。

 見上げた男坂の上に一片の雲がゆっくり流れていく。

 雰囲気……と思ったら、大江戸テレビのクルーの皆さんが駆け降りてくる。

 ダメですよぉ、AKRの明日香に戻るのは納骨終わってからですからね。

 ちょうど、タクシーもやってきた。


 ヘイ、タクシー!



 明神男坂のぼりたい 完




 
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