妹が憎たらしいのには訳がある

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
9 / 68

9『幸子 事故に遭う』

しおりを挟む
妹が憎たらしいのには訳がある

9『幸子 事故に遭う』    



 その日は言い出しかねた。

 入学式の入学宣誓は参列者のみんなが驚いた。
 宝塚のスターのように堂々とした宣誓は大評判で、参列した指導主事(府教委から派遣された監視役)が、ぜひ、府のネット広報にアップロードしたいと申し出があった。アップロ-ドするということは、誰かがビデオ撮影していたということだけど……まあ、俺は、そういうことは深く考えない。


 話しかける隙がなくて幸子にケイオン入部の申し入れができなかった。

「ドンクサイねん太一は。アタシがさっさとOKとっといた。演劇部とも話ついてる」

「え、いつの間に!?」

「ダテに三年生やってへんでぇ。演劇部は木曜休みやから、木曜はベタ、あとは気の向いた時に朝練しにきたらええ……という線で手ぇ打った。まあ、演劇部は、一学期には壊滅するやろから、実質ケイオン専門になっていくやろけどな。アハハハ……」

 高笑いを残して加藤先輩は行ってしまった。

 明くる日から、幸子は俺のアコギを担いで学校にいくようになった。

「朝練に使うの、終わったら部室に置いとくから。ギター遊ばしといちゃもったいないでしょ」


 前の晩、風呂上がりに俺の部屋にきて、いつもの憎たらしい無表情でアコギに手をかけた。そのとき幸子のパジャマの第二ボタンが外れ、胸が丸見えになったが、例によって気にする様子もないので、なにも言わなかった。ただ、ほんのかすかにラベンダーの香りがしたような気がした……。

 なんと、演劇部の練習は幸子がリードするようになっていた!

 初日は単調な発声練習を言われるままにやっていたが、二日目には幸子がクレームを付けた。優しく提案というカタチではあったが。

「新しい発声方やってみません?」

 幸子が見本を見せると、先輩二人よりもかなり上手い。で、あっさりと、幸子のメソードに切り替わった。
「ちょっと走ってみません。長音で二十秒ももたないのは、肺活量が弱いからだと思うんです。わたしも弱いから、付き合っていただけると嬉しいんですけど(o^―^o)ニコ」
 と、可愛く言う。で、演劇部はストレッチをやったあと学校の周りをランニングすることになった。
「山元先輩、もうちょっと足伸ばすとかっこいいですよ。宮本先輩、胸をはったら、男の子が……ほら、振り返った!」
「アハハハ……」
 完全に幸子が主導権を握っているが、あたりが可愛く柔らかいので、二人の先輩は、そうとは感じていない。

 幸子と暮らし始めて一カ月あまり、俺は半ば無意識に幸子を観察しはじめていた。


 その他大勢のケイオン平部員である俺たちは部活の開始時間はルーズなので、少々遅れても、誰も文句は言わない。それに、アコギは、幸子が朝練でチューニングをやってくれているので、その分時間もかからない。俺は正門前の自販機で、パックのカフェオレを買って飲んでいる。食堂の業者が代わり、いつも飲んでいるやつが、正門前のそこでなきゃ買えなくなったことが直接の原因ではあるけれど。やっぱり俺は観察していたんだ。

 それは、ランニングを始めて三日目に起こった。

 最初の一周は三人いっしょに走るが、二周目は、幸子は立ち止まり、コーチのような目で先輩たちのフォームを観察している。俺は、校門前でウダウダしている生徒たちに混ざってカフェオレを飲んでいる。

「幸子ちゃん、かっこええねえ……」

 まだ、部活が決まらない佳子ちゃんが並んで、ため息をつく。

 佳子ちゃんは、がらに似合わず、缶コーヒーのブラックを飲んでいる。塀に上半身を預け、足をXに組み、ポニーテールを春風になぶらせている佳子ちゃんも、けっこういけてるなあ……。
 そう思ったとき、道の向こうから少々スピードを出しすぎた軽自動車が走ってきた。運転しているオネエチャンはスマホを持ったままで、学校の校門前にさしかかっていることに気づかない。

――危ない!――

 思った瞬間には体が動いていた。

「幸子!」

 幸子が振り返る。そして景色が二回転して衝撃がきた。

「幸子、大丈夫か!?」
「大丈夫、あんたは……」
 無機質でニクソゲに幸子は応えたが、ジャージの左肘と左の太もものところが破れて、血が滲んでいた。
「佳子ちゃん、救急車呼んで! だれか先生呼んで来て!」

 それから、救急車やパトカーや先生たち、ご近所の人たちがやってきて大騒ぎになった。一見して幸子の傷がひどいので、幸子はストレッチャーに載せられ、俺は、念のための検査で救急車に乗った。

 俺は揺れる救急車の中で、スマホを出してお袋に電話した。

――先生から電話があった。お母さんも、すぐ病院へ行くから! 救急隊の人に病院を聞いて!――
 
 病院は真田山病院だった。

 俺は、簡単に頭のCTを撮って触診だけで解放されたが、幸子は、左の手足に裂傷を負っており、縫合手術をされ、レントゲンが撮られた。そして、医者がレントゲンを見ながら、とんでもないことを言った。

「妹さん、左手は義手。左脚も義足なんだね……それも、とても高度な技術で作られている。こんなの見たこともないよ!」

 え? ええ!?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...