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39『里中ミッション・4』
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妹が憎たらしいのには訳がある
39『里中ミッション・4』
里中副長は複雑な表情で俺の顔を覗き込んだ……。
「もう一度、ねねにインストールされてやってくれないか」
「え、また青木のやつが?」
「彼は、もうねねの崇拝者だよ。こんどは、ちょっと厄介だ……」
というわけで、ボクは再びねねちゃんのPCに入り込んで里中ミッションを遂行することになった。
土曜日だったけど、大阪フェリペは私学なので通わなくてはならない。
家にはハナちゃんの修理に手間取っていると伝えてフェリペの校門をくぐる。
やっぱり女子校というのは慣れない。
まず制服。前は緊張していて、スカートの中で内股が擦れ合う違和感しか感じなかったが、フェリペの制服は、ジャンパースカートの上から、一つボタンの上着を着るだけである。体を動かすたびに、自分の……今はねねちゃんの香りが、服の中を伝ってくる。この年齢の女の子のそれは独特だ。幸子で慣れてはいるんだけども、のべつ幕無しであるのにはまいった。
チサちゃんが、完全にクラスに馴染んでいるのは嬉しかった。
チサちゃんは、向こうの世界の幸子なんだけど、向こうの世界は極東戦争の真っ最中であったり、グノーシスの中でも意見が分かれていたり、状況が不安定だったりするので、こちらに来ている。
記憶は俺の従姉妹ということになっている。CPではなく、生身の頭脳に書き込まれているのが痛ましかった。でも、見た限り、フェリペの高校生活を楽しんでいるようなのでひと安心。
「ねねちゃん、座布団持ってる?」
「え?」
「あ、急な来客になった子がいて」
二時間目が終わって、チサちゃんが耳打ちしてきた。一瞬訳が分からないが、プログラムされたねねちゃんは素直に反応する。
「はい、どうぞ」
むき出しで、それを渡す自分に驚いた。チサちゃんはマジックのように受け取ると、見えないようにして背後のヨッチャンという子に渡した。
「サンキュー」
ヨッチャンがチラッと視線を送って、行ってしまった。俺は、ドギマギしながら曖昧な笑顔を返した。
「ねねちゃん、偉いね」
「え、どうして?」
「こういうのって、変にポーカーフェイスでやったりするじゃない。それをサリゲニ『ドンマイ』顔してあげるんだもん。そういうの自然には、なかなかできないものよ」
俺は、ただ戸惑っただけなんだけど、プログラムされたねねちゃんの感情表現といっしょになると微妙な表情になるようだった。
放課後、駅まで行くと拓磨が待っていた。
一瞬「あ」と思ったけど、朝自分でメールしたことを思い出した。
「駅の向こうに回してあるから」
そう言うと、拓磨は地下道を通って駅の裏に行き、わたしは少し遅れて後に付いていった。
「お母さん、大事にな……」
自走モードの運転席から遠慮気味に声を掛けてきた。自走モードだから、ドライバーの気持ちや気遣いがモロに伝わってくる。拓磨は、心から心配してくれて、控えめに励ましてくれている。さすがに青木財閥の御曹司、病院の名前を伝えただけで、事情は飲み込んでくれたようだ。
警察病院S病棟……表面は放射線治療病棟。内実は極東戦争で重傷を負った……有り体に言えば、回復不能者のホスピスだ。
この情報は、今度ねねちゃんのPCにダイブして初めて分かったこと。
ねねちゃんのお母さんは優秀な甲殻機動隊のオフィサーだった。対馬戦争の初期、カビの生えたような武器使用三原則に縛られて、打撃力の強い武器の先制使用ができなかった。敵は、違法な超小型戦術核砲弾を装填してきたとアナライザーが警告していた。
「みんな、逃げて!」
「でも、中尉は!?」
「わたしは、敵を引きつける」
お母さんは、そう言うとデコイを三発打ち上げた。
「あんなデコイが有効だなんて考えてるのは、政府のエライサンだけですよ」
「だからよ。敵もデコイの真下にあなた達がいるとは思わない。認識票を置いてさっさと行きなさい!」
「それじゃ、中尉一人がターゲットになってしまう」
「大丈夫、着弾する前に逃げる。まだ、かわいい娘がいるの、付録の亭主もね。大丈夫、正気よ」
「中尉……」
「早く!」
「はっ!」
部下は無事に逃げた。お母さんも、居所を二度変えたあと、居場所を特定される認識票や、武器を全部捨てて逃げた……それで間に合うはずだった。敵は国際条約に違反した弾頭を使っていた。そして、お母さんは、大量の放射線を浴びてしまった。
わたしは、今までここに来ることは禁じられていた。情報さえインストールされていなかった。鍛え上げたお母さんの感覚では、わたしが義体であることなんか直ぐに見破ってしまうからだ。
でも、お母さんには、もう時間は無かった。だからお父さんは太一さんをインストールした状態で、わたしを寄こしたんだ。太一さんといっしょなら、オリジナルのねねが表現できるから……。
39『里中ミッション・4』
里中副長は複雑な表情で俺の顔を覗き込んだ……。
「もう一度、ねねにインストールされてやってくれないか」
「え、また青木のやつが?」
「彼は、もうねねの崇拝者だよ。こんどは、ちょっと厄介だ……」
というわけで、ボクは再びねねちゃんのPCに入り込んで里中ミッションを遂行することになった。
土曜日だったけど、大阪フェリペは私学なので通わなくてはならない。
家にはハナちゃんの修理に手間取っていると伝えてフェリペの校門をくぐる。
やっぱり女子校というのは慣れない。
まず制服。前は緊張していて、スカートの中で内股が擦れ合う違和感しか感じなかったが、フェリペの制服は、ジャンパースカートの上から、一つボタンの上着を着るだけである。体を動かすたびに、自分の……今はねねちゃんの香りが、服の中を伝ってくる。この年齢の女の子のそれは独特だ。幸子で慣れてはいるんだけども、のべつ幕無しであるのにはまいった。
チサちゃんが、完全にクラスに馴染んでいるのは嬉しかった。
チサちゃんは、向こうの世界の幸子なんだけど、向こうの世界は極東戦争の真っ最中であったり、グノーシスの中でも意見が分かれていたり、状況が不安定だったりするので、こちらに来ている。
記憶は俺の従姉妹ということになっている。CPではなく、生身の頭脳に書き込まれているのが痛ましかった。でも、見た限り、フェリペの高校生活を楽しんでいるようなのでひと安心。
「ねねちゃん、座布団持ってる?」
「え?」
「あ、急な来客になった子がいて」
二時間目が終わって、チサちゃんが耳打ちしてきた。一瞬訳が分からないが、プログラムされたねねちゃんは素直に反応する。
「はい、どうぞ」
むき出しで、それを渡す自分に驚いた。チサちゃんはマジックのように受け取ると、見えないようにして背後のヨッチャンという子に渡した。
「サンキュー」
ヨッチャンがチラッと視線を送って、行ってしまった。俺は、ドギマギしながら曖昧な笑顔を返した。
「ねねちゃん、偉いね」
「え、どうして?」
「こういうのって、変にポーカーフェイスでやったりするじゃない。それをサリゲニ『ドンマイ』顔してあげるんだもん。そういうの自然には、なかなかできないものよ」
俺は、ただ戸惑っただけなんだけど、プログラムされたねねちゃんの感情表現といっしょになると微妙な表情になるようだった。
放課後、駅まで行くと拓磨が待っていた。
一瞬「あ」と思ったけど、朝自分でメールしたことを思い出した。
「駅の向こうに回してあるから」
そう言うと、拓磨は地下道を通って駅の裏に行き、わたしは少し遅れて後に付いていった。
「お母さん、大事にな……」
自走モードの運転席から遠慮気味に声を掛けてきた。自走モードだから、ドライバーの気持ちや気遣いがモロに伝わってくる。拓磨は、心から心配してくれて、控えめに励ましてくれている。さすがに青木財閥の御曹司、病院の名前を伝えただけで、事情は飲み込んでくれたようだ。
警察病院S病棟……表面は放射線治療病棟。内実は極東戦争で重傷を負った……有り体に言えば、回復不能者のホスピスだ。
この情報は、今度ねねちゃんのPCにダイブして初めて分かったこと。
ねねちゃんのお母さんは優秀な甲殻機動隊のオフィサーだった。対馬戦争の初期、カビの生えたような武器使用三原則に縛られて、打撃力の強い武器の先制使用ができなかった。敵は、違法な超小型戦術核砲弾を装填してきたとアナライザーが警告していた。
「みんな、逃げて!」
「でも、中尉は!?」
「わたしは、敵を引きつける」
お母さんは、そう言うとデコイを三発打ち上げた。
「あんなデコイが有効だなんて考えてるのは、政府のエライサンだけですよ」
「だからよ。敵もデコイの真下にあなた達がいるとは思わない。認識票を置いてさっさと行きなさい!」
「それじゃ、中尉一人がターゲットになってしまう」
「大丈夫、着弾する前に逃げる。まだ、かわいい娘がいるの、付録の亭主もね。大丈夫、正気よ」
「中尉……」
「早く!」
「はっ!」
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わたしは、今までここに来ることは禁じられていた。情報さえインストールされていなかった。鍛え上げたお母さんの感覚では、わたしが義体であることなんか直ぐに見破ってしまうからだ。
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