くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお

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17『総務二課の秘密・1』 

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くノ一その一今のうち

17『総務二課の秘密・1』 




 銀行とかスマホの店に行ったらいるじゃない、コケシに手だけ付けたようななまっちろいロボット。

 胸のとこにモニターが付いていて、お客用のインタフェイスも兼ねてるやつ。

 そういうロボットが侍言葉で迫ってきた。

「どうぞ、お掛けになって、暫時お待ち下され」

「はい、ありがとうございます」

 ロボット相手だけど、きちんと受け答えしておく。ロボットはもちろん、部屋のあちこちにカメラやセンサーとかがあって、油断がならない。

 下げた頭の下にロボットの一本足、そのつま先にカメラ。スカートを押える手に力が入る。



 ロボットが引っ込んで、目だけで観察。



 観察と言っても、キョロキョロはしない。

 ソファーの背後は座る前に確認済み、ドアの周囲はソファーに腰を下ろす瞬間に、パーテーションの向こうは六人分の事務机とロッカー、窓に背を向けて管理職(たぶん部長)のデスク。壁の半分はロッカーやキャビネット。天井には冷暖房用のダクトの吹き出し口。観葉植物が二鉢。

 はっきりそれと分かるカメラは、おそらくダミー、実用はデスクライトのフレキシブルパイプやダクトのスノコの中。今どきの事務所には、ややそぐわない印象派の肖像画。その少女の視線がおかしい、瞳にカメラ……ダミーだ、本物は額縁に隠してある。ロッカーの前にはパンチカーペット、おそらく感圧のセンサーが仕込んである。

 数秒の内に気が付いたんだけど、ガン見はしていない。

 視界の端に捉えただけで見当はつくんだ。

「やあ、お待たせしてしまって申し訳ない!」

 え?

 元気な声で入ってきたのは、百地の社長室に来ていた狸じじいだ。

 多少驚いたけども、気取られないように立ち上がって頭を下げる。

「百地事務所の風魔そのさんだね、徳川物産社長の徳川です」

「は、はい、よろしくお願いします」

「総務二課は社長の直属なんだ。よろしくね」

「こちらこそ……紹介状と履歴書です。御検分ください」

「はい、おおよそは百地社長から伺っているよ……ほう、両方とも手書き、それも達筆だ……預かります」

「どうぞ……」

 秘書っぽいオネエサンがお茶を置いてくれる。

「ありがとうございます」

 ん、気配が事務服のオネエサンといっしょだ。

「秘書の桔梗君です、一課の樟葉君とは姉妹なんでね」

「あ、失礼しました」

「うちは『徳川物産』なんて大層な社名なんで、ちょっと驚いたでしょ」

「いえ、お名前の通り、立派な会社だと思いました」

「戦前からある会社だからね、設立は大正三年です」

「1914年ですね」

「ほう、直ぐに西暦換算ができるんだ」

「たまたまです、第一次大戦が始まった年ですから」

 英数は苦手だけど、社会は、ちょっとだけ得意。

「そうだね、うちも大戦景気をあてこんで設立した貿易会社です。本業を支えるためにね」

 本業?

 ちょっと意外。丸の内にビルを構えて物産会社を名乗っているんだから、堂々の貿易会社だよ。貿易が本業でなきゃ何が本業?

「徳川の二代将軍を知っているかなあ?」

「えと……徳川秀忠だと思います」

「そう、実直な人でね、側室を持たなかった」

「聞いたことあります、奥さんが側室を持つことを許さなかったんですね」

「うん、でも一回だけ浮気したことがあってね、それも男の子が生まれたんで、保科(ほしな)という大名の養子にしてしまうんだ」

「それは知ってます、保科正之ですよね、会津藩の殿さまになるんですよね」

「よく知ってるね、その通りでね、秀忠はお江が死んだあと、やっとお目通りを許して松平の姓を与えてやるんだ」

「…………」

「その子孫の殿様が、幕末に成り手の無かった京都守護職を引き受けて、新選組のスポンサーになって、そのために幕府が瓦解した後は薩長にいじめられちまった」

「白虎隊の悲劇とか……」

「そう、お取りつぶしは免れたけど、米の取れない下北半島に転封されて、ずいぶん苦労したんだ」

「下北半島って、恐山のあるところですよね?」

「そうだよ。でも、それが本題じゃないんだ」

「?」

「実はね、秀忠には、もう一人隠し子がいたんだ」

「え?」

「御庭番の娘とできてしまってね」

「おにわばん……御庭番……ああ、将軍直属の忍者ですね」

「この娘との間にも男の子が生まれてね。これは、さすがに言い出しかねて、歴史には残っていない」

 そこまで言うと、社長は、じっとわたしの顔を見る。

「見目麗しい……とは、女性を褒める言葉だけどね、まさに眉目秀麗な男子で、頭も良くて学問にも秀でていた。母親からは優れた身体能力を受け継ぎ、恐らくは、徳川三百年の歴史で随一であったであろうと言われている……」

 じっと目を見つめられて、次の言葉が出てこない。

「え、えと……」

「ここから先を聞いてしまったら後戻りはできなくなる」

「は、はい」

「実はね、その隠し子の子孫が……この、わたしなんだよ」

「え、え……はい……」


 いろんな意味で反応に困ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母
百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

 
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