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64『木村重成』
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くノ一その一今のうち
64『木村重成』そのいち
朝ごはんもそこそこにスタジオに行く。
相変わらず、セットはてんでバラバラの方向を向いているけど、ケーブルや道具の置き方にはルールや法則があって、憶えてしまうと気にならなくなっていた。
真っ先に机の上に目をやるけど、今回は小道具として置かれてる古いのばかり。
『あ、あそこです』
えいちゃんがメモのありかを教えてくれる。
こないだは机の上に置いてあったけど、今日は天井に貼り付けてある。
ホームズの事務所らしく、その都度メモの場所が変わるみたい。
「よく見つけたわね」
『はい、付き人ですから』
「ありがとう」
たぶん事前にチェックしていたんだ、よくできた付き人だ。
――五番のセットに行きたまえ――
前回とは違って、スタジオ内のセットを指定してきた。
『五番のセット……』
これは事前には分からなかったんだろう、えいちゃんもキョロキョロする。
真剣に探してくれているので、お風呂の時のように補正ができなくて、時どきペラペラのまま横向きになって可笑しい。
『あっちです!』
ペラペラのまま指さすと、二つ向こうのセットに照明が入る。
ザワザワザワ……
林を吹き渡る風の音がして竹林の小道が浮かび上がる。
小道は少しうねって小高くなった空き地に出る。
空き地には、鞍の上に立った若武者が小手をかざして北の空を窺っている。
木村重成だ。
二十歳そこそこ……なんだけど、すごく落ち着いた感じ。
予想通りに悪い結果が出たけど、これから先のことを考えるとこれでいい的な。
たとえば。
廃校が決定した野球部が最後の試合でコールド負け寸前。でも、この先転校した学校や進学した大学で、これを糧にみんな頑張ってくれと願っている部長。野球って甘いもんじゃない。でも、青春を賭けるだけの価値はある。この敗北で、みんな分かっただろ、本当に大事なものは失ってから分かるものなんだ。それが分かっただけでも、この最終試合には価値があった……有力な野球部から誘いも来ていたけど、僕は部員と共に滅びの道を選んだ。最後まで寄り添って滅びの瞬間を見届けることが、真の野球への道を指し示すことになるんだ……そんな感じ。
「風魔か……」
後姿のまま素性を当てられてギクリとする。
「大坂城にはいろんな人たちが入っているからね。忍びの者も結構いたよ。伊賀、甲賀、百地、そして風魔。徳川や諸大名の間者もいたし、豊臣に味方して、最後まで付き合おうとする者もいた。いろいろだけど、忍者には、それぞれの匂いがあってね、それで分かるんだ」
ウ、夕べはちゃんとお風呂入ったのに。あ、そうか、木村重成って言えば兜に香を焚き締めていたっていうくらいの匂いフェチだった。
「太閤殿下がお亡くなりになってからこっち、豊臣の家臣は天下の匂いには敏感だからね、自然と鼻が利くようになったのさ」
「…………」
「君は風魔に違いないんだけど、害意は感じない。風魔と言えば北条の忍び。忍びは主家に忠誠など誓わなくてもいいんだろうけど、豊臣は北条を滅ぼして風魔の仕事を奪ったからね……え……君には大和大納言様の匂いも?」
「昨日、秀長さんからお守りを……」
「そうか。君は、僕の時代の忍びではないね」
どうしよう、ここまで見抜かれているなら……。
「今の豊臣は……」
豊臣が木下・鈴木の二つに分かれていること、木下が信玄の埋蔵金を手に入れ、それを基に海外に手を伸ばしていて、埋蔵金のかなりの部分が大阪城に持ち込まれていることを話した。
「そうか……それなら、空堀の方はフェイクだろうね」
「そうなんですか?」
「お城の南側は、真田丸を始め、いろいろ防御を固め、徳川も手は焼いたけど対策は十分整えている。去年の冬の陣の後で、南の備えは全部壊されたからね」
「そうなんだ……」
「それに、敵が殺到する南側に抜け穴なんか作るわけないじゃないか」
「え、そうなんですか!?」
「ほんとうの抜け穴は、天守北側の山里曲輪から大川の方に向けて掘ってある……おお……」
「あ、天守閣が!?」
「心配することはない、あれはね、国松さまが無事に落ちのびられたという印しの大松明なんだ」
「そうなんですか!」
「ああ、僕は、あれを待っていたんだ」
壮大な大坂城の天守閣が燃えれば、だれでも豊臣家の滅亡を思う。
そうか、その隙に秀頼さんの息子を落ちのびさせる。
そして、ここから、木下、鈴木の豊臣家が始まったんだ。その幕開きを示すのがあの天守閣を燃やした大松明なんだ!
「木下が埋蔵金を出し入れするとしたら、あの北側しかないよ」
「そうだ! そうですね!」
「あ、どこへ行くんだい!?」
「お城の北側」
「慶長二十年の大坂城だよ、そっちは。君が行くべきは令和の大阪城だろ」
「あ、そうでした(;゚Д゚)!」
「ハハハ、あわてんぼうだな令和の忍びは」
「失礼しました! では、これにて!」
「うん、元気でね!」
「はい! 木村さんも!」
セットを出て、その足で撮影所を出て、思った。
あのあと、木村さんは、木村重成は派手に戦って討ち死にするんだ。
少しでも、敵の目を引き付けておくために。
それに、木村さんは、あっさりと抜け道のことも教えてくれた。
口に出してこそ言わなかったけど、木下がやっているような海外に手を出すようなことは反対なんだ。
うん、これでいいんだ。
勇気をもらったような気がして、再び大阪城を目指した。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
64『木村重成』そのいち
朝ごはんもそこそこにスタジオに行く。
相変わらず、セットはてんでバラバラの方向を向いているけど、ケーブルや道具の置き方にはルールや法則があって、憶えてしまうと気にならなくなっていた。
真っ先に机の上に目をやるけど、今回は小道具として置かれてる古いのばかり。
『あ、あそこです』
えいちゃんがメモのありかを教えてくれる。
こないだは机の上に置いてあったけど、今日は天井に貼り付けてある。
ホームズの事務所らしく、その都度メモの場所が変わるみたい。
「よく見つけたわね」
『はい、付き人ですから』
「ありがとう」
たぶん事前にチェックしていたんだ、よくできた付き人だ。
――五番のセットに行きたまえ――
前回とは違って、スタジオ内のセットを指定してきた。
『五番のセット……』
これは事前には分からなかったんだろう、えいちゃんもキョロキョロする。
真剣に探してくれているので、お風呂の時のように補正ができなくて、時どきペラペラのまま横向きになって可笑しい。
『あっちです!』
ペラペラのまま指さすと、二つ向こうのセットに照明が入る。
ザワザワザワ……
林を吹き渡る風の音がして竹林の小道が浮かび上がる。
小道は少しうねって小高くなった空き地に出る。
空き地には、鞍の上に立った若武者が小手をかざして北の空を窺っている。
木村重成だ。
二十歳そこそこ……なんだけど、すごく落ち着いた感じ。
予想通りに悪い結果が出たけど、これから先のことを考えるとこれでいい的な。
たとえば。
廃校が決定した野球部が最後の試合でコールド負け寸前。でも、この先転校した学校や進学した大学で、これを糧にみんな頑張ってくれと願っている部長。野球って甘いもんじゃない。でも、青春を賭けるだけの価値はある。この敗北で、みんな分かっただろ、本当に大事なものは失ってから分かるものなんだ。それが分かっただけでも、この最終試合には価値があった……有力な野球部から誘いも来ていたけど、僕は部員と共に滅びの道を選んだ。最後まで寄り添って滅びの瞬間を見届けることが、真の野球への道を指し示すことになるんだ……そんな感じ。
「風魔か……」
後姿のまま素性を当てられてギクリとする。
「大坂城にはいろんな人たちが入っているからね。忍びの者も結構いたよ。伊賀、甲賀、百地、そして風魔。徳川や諸大名の間者もいたし、豊臣に味方して、最後まで付き合おうとする者もいた。いろいろだけど、忍者には、それぞれの匂いがあってね、それで分かるんだ」
ウ、夕べはちゃんとお風呂入ったのに。あ、そうか、木村重成って言えば兜に香を焚き締めていたっていうくらいの匂いフェチだった。
「太閤殿下がお亡くなりになってからこっち、豊臣の家臣は天下の匂いには敏感だからね、自然と鼻が利くようになったのさ」
「…………」
「君は風魔に違いないんだけど、害意は感じない。風魔と言えば北条の忍び。忍びは主家に忠誠など誓わなくてもいいんだろうけど、豊臣は北条を滅ぼして風魔の仕事を奪ったからね……え……君には大和大納言様の匂いも?」
「昨日、秀長さんからお守りを……」
「そうか。君は、僕の時代の忍びではないね」
どうしよう、ここまで見抜かれているなら……。
「今の豊臣は……」
豊臣が木下・鈴木の二つに分かれていること、木下が信玄の埋蔵金を手に入れ、それを基に海外に手を伸ばしていて、埋蔵金のかなりの部分が大阪城に持ち込まれていることを話した。
「そうか……それなら、空堀の方はフェイクだろうね」
「そうなんですか?」
「お城の南側は、真田丸を始め、いろいろ防御を固め、徳川も手は焼いたけど対策は十分整えている。去年の冬の陣の後で、南の備えは全部壊されたからね」
「そうなんだ……」
「それに、敵が殺到する南側に抜け穴なんか作るわけないじゃないか」
「え、そうなんですか!?」
「ほんとうの抜け穴は、天守北側の山里曲輪から大川の方に向けて掘ってある……おお……」
「あ、天守閣が!?」
「心配することはない、あれはね、国松さまが無事に落ちのびられたという印しの大松明なんだ」
「そうなんですか!」
「ああ、僕は、あれを待っていたんだ」
壮大な大坂城の天守閣が燃えれば、だれでも豊臣家の滅亡を思う。
そうか、その隙に秀頼さんの息子を落ちのびさせる。
そして、ここから、木下、鈴木の豊臣家が始まったんだ。その幕開きを示すのがあの天守閣を燃やした大松明なんだ!
「木下が埋蔵金を出し入れするとしたら、あの北側しかないよ」
「そうだ! そうですね!」
「あ、どこへ行くんだい!?」
「お城の北側」
「慶長二十年の大坂城だよ、そっちは。君が行くべきは令和の大阪城だろ」
「あ、そうでした(;゚Д゚)!」
「ハハハ、あわてんぼうだな令和の忍びは」
「失礼しました! では、これにて!」
「うん、元気でね!」
「はい! 木村さんも!」
セットを出て、その足で撮影所を出て、思った。
あのあと、木村さんは、木村重成は派手に戦って討ち死にするんだ。
少しでも、敵の目を引き付けておくために。
それに、木村さんは、あっさりと抜け道のことも教えてくれた。
口に出してこそ言わなかったけど、木下がやっているような海外に手を出すようなことは反対なんだ。
うん、これでいいんだ。
勇気をもらったような気がして、再び大阪城を目指した。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
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