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5『よし、俺に任せとけ!』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

5『よし、俺に任せとけ!』




 土曜日だと言うのに電車の中は高校生が多い。

 ほとんどの公立高校は休みのはずだ。むろん私学はやっているから、制服の高校生が乗っていたって不思議じゃないんだけど、あきらかに公立高校と知れるやつらが多いので不思議だ。

 それに、スマホじゃなくて参考書っぽいのを開いてるやつが多い。俺は電車通学じゃないので、いつもの様子は分からないんだけど、なんだか違う。

 で、OLさんが広げてる新聞(Olさんが新聞広げてるのも新鮮なんだけど)をチラ見して合点がいった。センター試験の記事が目についたんだ。

 この高校生たちは国公立の二次試験を受けに行くんだ。

 俺も四月からは三年生なんで他人事ではない。

 と言って、国公立を受ける予定も能力もないんだけど、ザックリ進路決定が迫っているということを思い出して身が引き締まるわけだ。

 で、そんな俺は今日も朝からアキバ目指して中央線に乗っている。

 理由は、昨日、アキバの広場でシグマに出くわしたことにある。

「先輩、なんでアキバにいるんですか!?」

 見ようによっては非難しているようなΣの口を、さらに尖らせて聞きとがめる。

「えと、プラ……なんとかフライデーってからさ、フラッとな」
「プラ……ああ、プライムフライデー。学校三時までだったんですか?」
「アハハ、先生の一部がな。で、その空気が伝染しちまったってところ。俺って流されやすいんだよな~」
「ハハ、そうなんだ」

 笑ってもΣ口だけど、学校で見かけるよりは、うんと可愛い。

 てか……。

「なんでキミは私服なわけ?」

 シグマの出で立ちは、ポニーテールの首の下にサンダース大学付属高校のジャケット+縞タートル+黒ミニ+ニーソという完全装備。

「あ、えと……あ……あ……」

 押してはいけないスイッチに手を掛けたようで、俺は両手をパーにしてハタハタと振った。

「いや、いいんだいいんだ、人には事情とか都合とか……いや、学校なんてキチンと行かなくても……」

「あ、あの、学校は……」

 シグマは俯いて顔が赤くなってくる。

 あーーなんだか、シグマどころか自分自身を追い詰めてるみたいになってきた。

「せっかくだからさ、マックでも行こうぜ。俺、ラジ館の前でマックに行くつもりしてたんだけどさ、こっちの方でガルパンのライブが聞こえてきたんで、ついな」
「え!? 先輩もガルパン好きなんですか!?」

 クイっと顔を上げた、その顔は、まるで、そこだけ日が当たったみたいだ。

「おうよ、低血圧の冷泉麻子がオシメンよ!」

 ガルパンについては並のファンなんだけど、シグマの顔を見ていたら、とっさに冷泉麻子の名前が浮かんじまった。
 そういや、シグマはどこなく、無愛想低血圧の名操縦手に似ている。

「あたしは低血圧でも……ないし、あんなに頭も……よっく……ない……ですけど……」

 その流れでマックの二階でプレステのガルパンゲームをやっているのを思い出した。

 アニメのガルパンの話の流れで戦車戦をやるゲームなんだけど、シグマのやり込みはハンパなかった。黒森峰のドイツ戦車軍団を三分余りでせん滅してしまった。

「大したもんだなあ……」
「いや、ヒットアンドランを的確にやってれば、だれでもSランクでコンプリートできますよ」

 Σの口元が不敵に微笑む。

「本来のあたしは、けっこうドジで間抜けなんです」
「え、そう?」
「今日だって、予約したゲームの発売日……」
「そうなんだ、好きなゲームの発売は見逃せないよな!」

 シグマが、俺の中の女子ゲームファンというカテゴリーに収まったので安心した。

「で、発売日は明日だったんですよね……」
「ハハハハ」

 こういうドジっ子のところは可愛い。

「で、このままアキバに居続けして朝を迎えると言うわけか」
「アハハ、まさか! 適当に切り上げて、明日の朝出直しますよ!」

 マックシェイクをすするのとスマホの着メロが鳴るのが同時だった。

「あ、なにお母さん?」

 どうやら家からの電話のようだ。返答の仕方がスレていないので、案外いいやつなんだと再認識した。

「え……いや、そ、そんな……」

 話の途中で、シグマはドンヨリしてしまった。

「家でなにかあったのか?」
「明日アキバに来れなくなって……」

 そこまで言うと、シグマはホロホロと涙を流した。

「お祖母ちゃんの具合が悪くなって……今から帰らなくちゃならない……」
「帰るって、東京の近く?」
「えと……ハワイ」
「え……」

 ぜったい日帰りは無理だ(^_^;)。

「発売日に受け取りに行かなきゃ予約取り消しに……」

「よし、俺に任せとけ!」

 というわけで、シグマに代って予約ゲームを受け取りに行くために、土曜の朝にアキバ行きの電車に乗っているわけなんだ。


 ま、この程度の親切は、モブの許容範囲だ。


 シグマの輝いた笑顔はモブには眩しかったが、ま、たまに良いことをするのも悪くはないもんだ。

 だけど……

 18禁のエロゲだとは思わなかったぜえええええ!



☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
百地 (シグマ)      高校一年 
ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
 
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