19 / 50
19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]
しおりを挟む
宇宙戦艦三笠
19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]
レベルマックスのワープが終わると後方に中国の航空母艦遼寧が感知できた。
こちらがワープ完了直後の静止状態なので、微速で三笠の後を追っている形になっている。
「遼寧に連絡――救助の必要有や否や?――」
副長の樟葉が、俺が言い終わる頃には連絡をし終えていた。ワープの間に見た夢のせいか、二人の呼吸はとても合ってきた。
遼寧は、元ロシアの航空母艦だったので、見かけはいかつく堂々としている。ブリッジを中心とする上部構造物は、クリンゴンかガミラスのそれを思わせるほどにマガマガしい対空、対艦兵器が各種のむき出しのレーダーと共に取り囲んでいて、いかにも頼もしい。艦首はバルバスバウ(球状艦首)とよくバランスの取れたジャンプ台式の滑走甲板。アメリカの空母に比べると小ぶりではあるが、見かけは立派な航空母艦だ。
それが、時速300キロという、宇宙船としては静止しているのに等しい鈍足で漂流している。
「修一、矛盾する返事が複数きたわよ」
樟葉が見せたタブレットには8通の返事があった。「本艦に異常無し、お気遣い無用」という木で鼻を括ったようなものから、「救援を乞う。本艦は操舵不能、漂流しつつあり」という悲壮なものまであった。
「放っておこうよ」
トシはニベもなかったが、美奈穂もクレアも、様子を見に行った方がいいという顔をしていた。
―― ただいまより貴艦に接舷する ――
そう返事をすると、これに反対する反応は返ってこなかった。
遼寧には樟葉とクレアが向かった。樟葉は口数は少ないが冷静な判断ができる。クレアの分析能力は三笠のマザーコンピューターの次に優秀だというミカさんの判断だ。
遼寧の艦内は荒れていた。
三笠と違ってクルーは多いようで、数百の人の気配がした。
「ようこそ、艦内をまとめている紅紀文です。艦内の序列では3位ですが、とりあえず艦長代理と思ってください」
「船は停止同然のようですが、機関に故障でもあったんですか(。í _ ì。)?」
クレアが、白々しい心配顔で聞いた。
アナライザーを兼ねているクレアには分かっていた。この遼寧はウクライナから、スクラップとして中国が買ったもので、エンジンさえ付いていなかった。
空母は、飛行機を発進させるため、30ノット以上の速度が必要で、元々は強力なガスタービンエンジンが4基ついていたが、スクラップと言うことで、エンジンは外されていたのだ。中国はやむなく商船用の蒸気タービンエンジン4基を付けたが、速度は20ノットしか出なかった。20ノットでは、対空、対艦兵器を満載した戦闘機を発艦させることができなかった。その他電子部品にも不備があり、日本製の民生品で間に合わせていて、まあ、実物大の航空母艦の模型に等しかった。
「もおおお、やって、らんないのよね(;`O´)!」
ウサ耳をブンブンさせて、バニーガールコスのロシア娘が割り込んできた。
「遼寧の船霊さまよ」
クレアが樟葉に耳打ちした。
「あ、ウレシコワ……!」
紅紀文が慌てた。
「ズドラーストヴィーチェ」
おざなりな挨拶だけすると、ウレシコワは紅紀文の横顔五センチまで顔を寄せて息巻いた。
「だいたいね、あたしは香港でカジノになる予定だったのよ! だからウクライナ出るころから覚悟決めて、こんなナリして頑張ろうと決心してきたのにぃ、今になって空母に戻るなんてありえないわよっ!」
「いや、だから艦内委員会にも諮って、今後のことは……」
「それに、よりにもよって、日本の三笠に救援頼むなんてどういう神経してんの!? ニェット! あたし、絶対やだからね!」
なるほど、日本海海戦でボロ負けしたロシアとしては、日本の救援は受けにくいだろう。まして、こちらは当時の連合艦隊旗艦の三笠だ。
船霊のウレシコワを挟んで、遼寧の代表者たちが集まって、もめはじめた。
ウレシコワは、特別に背が高いわけではないが、網タイツに5センチのヒールを履いて40センチはあろうかというウサ耳を付けている。数十人の幹部乗員に取り巻かれても、耳がピョンピョン動いて、コミカルに目立つ(^_^;)。
「ああ、これはまとまらないわねぇ……」
結局、盛大にため息をついただけで、樟葉とクレアはそのまま三笠に帰ってきた。
「あれ……でも遼寧、動き出してるぜ」
二人が三笠に帰ると、トシがメインスクリーンの遼寧を指さした。
「最低動けるようにはしてやれって、ミカさんのお願いでしたから」
クレアが、きまり悪そうに言った……。
☆ 主な登場人物
修一(東郷修一) 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉(秋野樟葉) 横須賀国際高校二年 航海長
天音(山本天音) 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ(秋山昭利) 横須賀国際高校一年 機関長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
テキサスジェーン 戦艦テキサスの船霊
クレア ボイジャーが擬人化したもの
ウレシコワ 遼寧=ワリヤーグの船霊
19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]
レベルマックスのワープが終わると後方に中国の航空母艦遼寧が感知できた。
こちらがワープ完了直後の静止状態なので、微速で三笠の後を追っている形になっている。
「遼寧に連絡――救助の必要有や否や?――」
副長の樟葉が、俺が言い終わる頃には連絡をし終えていた。ワープの間に見た夢のせいか、二人の呼吸はとても合ってきた。
遼寧は、元ロシアの航空母艦だったので、見かけはいかつく堂々としている。ブリッジを中心とする上部構造物は、クリンゴンかガミラスのそれを思わせるほどにマガマガしい対空、対艦兵器が各種のむき出しのレーダーと共に取り囲んでいて、いかにも頼もしい。艦首はバルバスバウ(球状艦首)とよくバランスの取れたジャンプ台式の滑走甲板。アメリカの空母に比べると小ぶりではあるが、見かけは立派な航空母艦だ。
それが、時速300キロという、宇宙船としては静止しているのに等しい鈍足で漂流している。
「修一、矛盾する返事が複数きたわよ」
樟葉が見せたタブレットには8通の返事があった。「本艦に異常無し、お気遣い無用」という木で鼻を括ったようなものから、「救援を乞う。本艦は操舵不能、漂流しつつあり」という悲壮なものまであった。
「放っておこうよ」
トシはニベもなかったが、美奈穂もクレアも、様子を見に行った方がいいという顔をしていた。
―― ただいまより貴艦に接舷する ――
そう返事をすると、これに反対する反応は返ってこなかった。
遼寧には樟葉とクレアが向かった。樟葉は口数は少ないが冷静な判断ができる。クレアの分析能力は三笠のマザーコンピューターの次に優秀だというミカさんの判断だ。
遼寧の艦内は荒れていた。
三笠と違ってクルーは多いようで、数百の人の気配がした。
「ようこそ、艦内をまとめている紅紀文です。艦内の序列では3位ですが、とりあえず艦長代理と思ってください」
「船は停止同然のようですが、機関に故障でもあったんですか(。í _ ì。)?」
クレアが、白々しい心配顔で聞いた。
アナライザーを兼ねているクレアには分かっていた。この遼寧はウクライナから、スクラップとして中国が買ったもので、エンジンさえ付いていなかった。
空母は、飛行機を発進させるため、30ノット以上の速度が必要で、元々は強力なガスタービンエンジンが4基ついていたが、スクラップと言うことで、エンジンは外されていたのだ。中国はやむなく商船用の蒸気タービンエンジン4基を付けたが、速度は20ノットしか出なかった。20ノットでは、対空、対艦兵器を満載した戦闘機を発艦させることができなかった。その他電子部品にも不備があり、日本製の民生品で間に合わせていて、まあ、実物大の航空母艦の模型に等しかった。
「もおおお、やって、らんないのよね(;`O´)!」
ウサ耳をブンブンさせて、バニーガールコスのロシア娘が割り込んできた。
「遼寧の船霊さまよ」
クレアが樟葉に耳打ちした。
「あ、ウレシコワ……!」
紅紀文が慌てた。
「ズドラーストヴィーチェ」
おざなりな挨拶だけすると、ウレシコワは紅紀文の横顔五センチまで顔を寄せて息巻いた。
「だいたいね、あたしは香港でカジノになる予定だったのよ! だからウクライナ出るころから覚悟決めて、こんなナリして頑張ろうと決心してきたのにぃ、今になって空母に戻るなんてありえないわよっ!」
「いや、だから艦内委員会にも諮って、今後のことは……」
「それに、よりにもよって、日本の三笠に救援頼むなんてどういう神経してんの!? ニェット! あたし、絶対やだからね!」
なるほど、日本海海戦でボロ負けしたロシアとしては、日本の救援は受けにくいだろう。まして、こちらは当時の連合艦隊旗艦の三笠だ。
船霊のウレシコワを挟んで、遼寧の代表者たちが集まって、もめはじめた。
ウレシコワは、特別に背が高いわけではないが、網タイツに5センチのヒールを履いて40センチはあろうかというウサ耳を付けている。数十人の幹部乗員に取り巻かれても、耳がピョンピョン動いて、コミカルに目立つ(^_^;)。
「ああ、これはまとまらないわねぇ……」
結局、盛大にため息をついただけで、樟葉とクレアはそのまま三笠に帰ってきた。
「あれ……でも遼寧、動き出してるぜ」
二人が三笠に帰ると、トシがメインスクリーンの遼寧を指さした。
「最低動けるようにはしてやれって、ミカさんのお願いでしたから」
クレアが、きまり悪そうに言った……。
☆ 主な登場人物
修一(東郷修一) 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉(秋野樟葉) 横須賀国際高校二年 航海長
天音(山本天音) 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ(秋山昭利) 横須賀国際高校一年 機関長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
テキサスジェーン 戦艦テキサスの船霊
クレア ボイジャーが擬人化したもの
ウレシコワ 遼寧=ワリヤーグの船霊
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる