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34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す]
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宇宙戦艦三笠
34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す] クレア
「この星では、全てのものの寿命が80年しかないのです」
長い沈黙のあと、僧官長は覚悟を決めたように言った。
「どういう意味でしょう……」
「クレアさん、御神体のクリスタルに手を触れて、アナライズしてくださらんか」
全て見通している僧官長は、クレアを偽名ではなく、本名で呼んだ。そしてクレアのアナライザーとしての役割も知った様子たった。
「……この星、80年以上の寿命を持っているのは、星本体と、僧官長さまだけです……なんということ……海の中には四つの大陸が沈んでいる」
「「え?」」
「待って、続きが……」
「やはり、続きは、わたしからお話しましょう。辛いことを先延ばしにしたり人任せにすることはアクアリンド人の悪い癖です」
僧官長は後ろ手を組んで、クリスタルにも修一やわたしにも背を向けるようにして言った。
「この星は、地球に似た星で、かつて五つの大陸がありました。人口も50億と、穏やかな、星の容量に見合った数でした。しかし、地球がそうであったように、この星は大きな戦争や紛争を繰り返してきました……」
アクアリンドの戦争や紛争の歴史がVR映像のようにフラッシュバックしていく。あらかじめ聞かされていなければ、頭も心もかき回されてしまいそうな凶暴さだ。
「ある日、ある戦争でICBMが撃たれました。落ちてくれば国の二つ三つが吹き飛んでしまうぐらいに強力な核ミサイルです。星を半周して大気圏に再突入しようとした時、突然流星が軌道を変えて、このミサイルに触れて、その弾みで核ミサイルは宇宙の彼方に弾き飛ばされたのです。流星は、衝突で速度を落として、大気圏で燃え尽きることなく、ここに落ちてきました。それでも巨大な隕石であることに変わりはなく、半径10キロが破壊され、大勢の犠牲者が出ました」
ひょっとして……
「そうです、それが、このクリスタルなのです。クリスタルは囁きました『わたしを崇めれば、全てを水に流してやろう。そして、一からやり直しなさい。試しに、わたしの墜落で壊してしまった半径10キロを墜落前の状態に戻してみよう』、クリスタルが輝いたかと思うと……表現が難しいのですが、半ば実体化した水が流れて墜落の痕を洗い流していきました。そして、半径10キロは墜落前の状態に戻りました」
「そんなことが……」
修一が漏らした言葉は怖れを含んでいる。正常な反応で安心した。
僧官長の横顔は―― ここで間違った ――という表情だった。
「この星の指導者は、これに頼ってしまったのです。クリスタルに頼み、この星が真に平和になるまで水に流して欲しいと……」
「水に流すとは?」
「人の寿命は80になりました。あらゆるものを80年で更新するようにしました。その結果、大きな破綻や戦争が起こることは無くなりましたが、小さな不満や破綻は絶えることがありません。クリスタルは、この星の人間が満足していないと判断して、80年周期の更新をやめません。一時はクリスタルの破壊や星の外への移送を考えましたが、クリスタルは、この星の人間が触れることを許しません、このように……」
僧官長が手を伸ばすと、あと30センチというところでスパークが走る。
「試しに、わたしの体を押してみてください」
「じゃあ、俺が」
修一が押すが、30センチのところでスパークが走るばかりで僧官長とクリスタルの隙間は埋まらない。
「という次第です……流してしまったものは全て水になって海に流れ込み、四つの大陸は海に沈んでしまいました。まもなく、この星の人口は1億を割り、このままでは、最後に残されたアクア大陸も水没してしまうでしょう」
「それって……?」
「星が滅亡してしまうということ」
思わず、無機質な言い方をしてしまった。
「そうです、クレアさんはお優しい。こういう話は情緒的に話してしまえば、嘆きしか残りませんからね。わたしは嘆くために、こんな話をしているわけじゃない。この星を元に戻したいのです。滅びに向かいつつある星なので、グリンヘルドもシュトルハーヘンも征服しようとは思いませんでした。この星を覆う水を減らせるかどうかは分かりませんが、残ったアクア大陸だけでも元の姿に戻したいのです」
いつの間にか天窓が開き、潮騒が聞こえてくるようになっていた。地球同様に心が癒される波音ではあった。
「海の安らぎに頼り過ぎた姿が、このアクアリンドなんです」
でも……
そこまで言いかけて、あとは修一に任せた。
言いにくいことをまわしたともとれるし、決意を伴う話になりそうなので、修一が話を付けるべきと譲ったともとれた。
潮騒の音が大きくなってきた。なにやら大きな波が岩肌にぶつかるような音もし始めた。
「で、ぼくたちに、なにをしろと……」
「このクリスタルを、三笠で持ち出していただきたい」
「え……?」
「これは賭けです。グリンヘルドとシュトルハーヘンの戦いの中で、このクリスタルは、本来の存在意義を取り戻すと思うのです。80年の周期で、全てを更新し、水に流す愚かしさに気づいてくれるのではと思うのです。今のアクアのクリスタルは優しすぎます。その優しさが、この星を滅ぼすことに気づかせたいのです。それに、クリスタルには秘めた力があります。万一の時は、きっと、三笠のお役にもたちます……お願いできんだろうか」
三笠は、アクアリウムのクリスタルを預かることになった……。
☆ 主な登場人物
修一 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉 横須賀国際高校二年 航海長
天音 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ 横須賀国際高校一年 機関長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
クレア ボイジャーのスピリット
ウレシコワ ブァリヤーグの船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す] クレア
「この星では、全てのものの寿命が80年しかないのです」
長い沈黙のあと、僧官長は覚悟を決めたように言った。
「どういう意味でしょう……」
「クレアさん、御神体のクリスタルに手を触れて、アナライズしてくださらんか」
全て見通している僧官長は、クレアを偽名ではなく、本名で呼んだ。そしてクレアのアナライザーとしての役割も知った様子たった。
「……この星、80年以上の寿命を持っているのは、星本体と、僧官長さまだけです……なんということ……海の中には四つの大陸が沈んでいる」
「「え?」」
「待って、続きが……」
「やはり、続きは、わたしからお話しましょう。辛いことを先延ばしにしたり人任せにすることはアクアリンド人の悪い癖です」
僧官長は後ろ手を組んで、クリスタルにも修一やわたしにも背を向けるようにして言った。
「この星は、地球に似た星で、かつて五つの大陸がありました。人口も50億と、穏やかな、星の容量に見合った数でした。しかし、地球がそうであったように、この星は大きな戦争や紛争を繰り返してきました……」
アクアリンドの戦争や紛争の歴史がVR映像のようにフラッシュバックしていく。あらかじめ聞かされていなければ、頭も心もかき回されてしまいそうな凶暴さだ。
「ある日、ある戦争でICBMが撃たれました。落ちてくれば国の二つ三つが吹き飛んでしまうぐらいに強力な核ミサイルです。星を半周して大気圏に再突入しようとした時、突然流星が軌道を変えて、このミサイルに触れて、その弾みで核ミサイルは宇宙の彼方に弾き飛ばされたのです。流星は、衝突で速度を落として、大気圏で燃え尽きることなく、ここに落ちてきました。それでも巨大な隕石であることに変わりはなく、半径10キロが破壊され、大勢の犠牲者が出ました」
ひょっとして……
「そうです、それが、このクリスタルなのです。クリスタルは囁きました『わたしを崇めれば、全てを水に流してやろう。そして、一からやり直しなさい。試しに、わたしの墜落で壊してしまった半径10キロを墜落前の状態に戻してみよう』、クリスタルが輝いたかと思うと……表現が難しいのですが、半ば実体化した水が流れて墜落の痕を洗い流していきました。そして、半径10キロは墜落前の状態に戻りました」
「そんなことが……」
修一が漏らした言葉は怖れを含んでいる。正常な反応で安心した。
僧官長の横顔は―― ここで間違った ――という表情だった。
「この星の指導者は、これに頼ってしまったのです。クリスタルに頼み、この星が真に平和になるまで水に流して欲しいと……」
「水に流すとは?」
「人の寿命は80になりました。あらゆるものを80年で更新するようにしました。その結果、大きな破綻や戦争が起こることは無くなりましたが、小さな不満や破綻は絶えることがありません。クリスタルは、この星の人間が満足していないと判断して、80年周期の更新をやめません。一時はクリスタルの破壊や星の外への移送を考えましたが、クリスタルは、この星の人間が触れることを許しません、このように……」
僧官長が手を伸ばすと、あと30センチというところでスパークが走る。
「試しに、わたしの体を押してみてください」
「じゃあ、俺が」
修一が押すが、30センチのところでスパークが走るばかりで僧官長とクリスタルの隙間は埋まらない。
「という次第です……流してしまったものは全て水になって海に流れ込み、四つの大陸は海に沈んでしまいました。まもなく、この星の人口は1億を割り、このままでは、最後に残されたアクア大陸も水没してしまうでしょう」
「それって……?」
「星が滅亡してしまうということ」
思わず、無機質な言い方をしてしまった。
「そうです、クレアさんはお優しい。こういう話は情緒的に話してしまえば、嘆きしか残りませんからね。わたしは嘆くために、こんな話をしているわけじゃない。この星を元に戻したいのです。滅びに向かいつつある星なので、グリンヘルドもシュトルハーヘンも征服しようとは思いませんでした。この星を覆う水を減らせるかどうかは分かりませんが、残ったアクア大陸だけでも元の姿に戻したいのです」
いつの間にか天窓が開き、潮騒が聞こえてくるようになっていた。地球同様に心が癒される波音ではあった。
「海の安らぎに頼り過ぎた姿が、このアクアリンドなんです」
でも……
そこまで言いかけて、あとは修一に任せた。
言いにくいことをまわしたともとれるし、決意を伴う話になりそうなので、修一が話を付けるべきと譲ったともとれた。
潮騒の音が大きくなってきた。なにやら大きな波が岩肌にぶつかるような音もし始めた。
「で、ぼくたちに、なにをしろと……」
「このクリスタルを、三笠で持ち出していただきたい」
「え……?」
「これは賭けです。グリンヘルドとシュトルハーヘンの戦いの中で、このクリスタルは、本来の存在意義を取り戻すと思うのです。80年の周期で、全てを更新し、水に流す愚かしさに気づいてくれるのではと思うのです。今のアクアのクリスタルは優しすぎます。その優しさが、この星を滅ぼすことに気づかせたいのです。それに、クリスタルには秘めた力があります。万一の時は、きっと、三笠のお役にもたちます……お願いできんだろうか」
三笠は、アクアリウムのクリスタルを預かることになった……。
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修一 横須賀国際高校二年 艦長
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