宇宙戦艦三笠

武者走走九郎or大橋むつお

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40[宇宙戦艦グリンハーヘン・2]

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宇宙戦艦三笠

40[宇宙戦艦グリンハーヘン・2] 修一  




 意識が戻ると独房に入れられていた。

 セラミックのような独房には、床も壁も継ぎ目も無かった。ただ、出入り口と思われるところだけが、薄い鉛筆で書いたように、それと分かる程度。独房内はベッドが一つあるだけで無機質この上ない。

―― お目覚めのようだね。体には異常はない。ドアを開けるから、通れる通路だけをたどって、わたしのところまで来てくれ ――

 司令のミネアの声がした。

 通路に出ると、さすがに船の通路らしく、パイプや電路が走り、いたるところの隔壁はロックされていた。通れる隔壁は、あらかじめ解放されていて、十数回行き止まりに出くわして、やがて小会議室のようなところにたどり着いた。


 樟葉が先に来ていて、背もたれのない椅子に座っていた。


「艦長のくせに、遅いのね」

「通路で、ちょっと迷った」

「ハハ、あんな簡単な迷路で迷っちゃうの」

「樟葉は、迷わなかったのか?」

「あたしは、探索のために全ての通路を見て回ったのよ。通路の左側に手をついて、ぐるりと回ったら、全部見られた。遊園地の迷路攻略の方法よ。通路は、いかにも船の中らしいけど、大半ダミーね。配管配線ともに脈絡がない。どの隔壁の通路も何種類かのパターンの組み合わせ。よほど船の構造を知られたくないのね。本気になったら、案外簡単に船の弱点がみつかるかもよ」

「ダミーなのは、オレにも分かった。こんな宇宙戦艦がアナログなわけないものな」

「で、これからどうするの?」

 それから、樟葉の話は質問が多くなった。仲間のこと、地球のこと。

「大きな声じゃ言えない。もっと顔を寄せて」

 樟葉は、興味津々で顔を寄せてきた。

 俺は、いきなり樟葉にキスをした。

 ……なんと、俺の顔は樟葉の顔にめり込んだ……というよりは、重なってしまった。CGバグのポリゴン抜けみたいだ。


―― やっぱり ――


 思った瞬間、樟葉の姿は消えてしまった。

「やっぱり、ホログラムだったんだな。下手な小細工すんなよ、ミネア司令」

 そう言うと前の壁が消えて、部屋が倍の大きさになった。目の前にミネアがいた。


「思ったよりも賢いんだ」

「賢くはないよ。樟葉にキスするいいチャンスだと思っただけ」

「お、針が振れた」

「なんの針だ?」

「東郷君は見えないだろうが、目の前にインタフェイスがあるんだ……ほら」

 ミネアの前に仮想画面が現れて消えた。

「え?」

 今度は俺の前にインタフェイスが現れた。俺をスキャニングした時のままで、心拍数の針が元気に振れている。

「画面をタッチすれば、こっちをスキャンできるぞ」

「これか……え!?」

 軽くタッチすると、ミネアが骸骨になった。

「不器用だなあ、そっとやれ、そっと」

 やり直すと、様々なレベルでミネアの様子が分かる。骨格、筋肉層、内臓配列、神経系、その一つ一つに項目があって――心拍数――と思うだけで、数値とモデル化された心臓の様子が浮かび上がる。試しに、皮膚層で止めようとすると……着衣状態にジャンプしてしまう。

「チ」

「皮膚層はキャンセルしてある、東郷君のスケベ属性は承知しているからな。露出部分ならスキャンできるぞ」

 たしかに、カーソルを胸から首に移すと画像も数値も現れる。

「ほおぉ、泣キボクロが拡大される。ちゃんとメラニンの構造まで分かる。おお……!」

「な、なにを興奮している!?」

「エ、エロイなあ、ミネアのホクロはぁ(^O^;)」

「地球の男は、ホクロで欲情するのか?」

「ホクロってのはな、体のアンナとこやコンナとこの反映なんだ、知識さえあれば分かってしまうんだぞぉ(#^0^#)」

「見るなア(#>0<#)!」

 手で顔の下半分を隠しやがる。

「DNAの塩基配列が妙な規則性があるな……」

「フフ……それは、わたしがグリンヘルドとシュトルハーヘンとのハーフだからだ。この船のクルーはみんなそうだ。ハーフだけで作った遊撃部隊なんだよ」

「でも、グリンハーヘンて船の名前は安直だね」

「分かりやすいだろ、名前なんて符丁みたいなものだから。直に会ったら、東郷君の考えやら思考パターンなんかが良く分かると思ったんだがな、どうやら時間の無駄のようだね。わたしの希望だけは、きちんとしておくぞ。わたしは地球人の絶滅までは考えていない。共存した方が、上手くいくと思っている。例えば、無菌で育った動物って耐性が低いだろ。多少のストレスは抱えながらやった方が、グリンヘルドにもシュトルハーヘンのためになると思っている。いまの東郷君の様子でも再確認できたからな。グリンヘルドもシュトルハーヘンも君たちの能力を高く評価している」

「評価してくれるのなら、寒冷化防止装置ってのを早く渡してくれないか。一刻も早く地球に戻りたいから」

「正直、君たちがたどり着けるとは思っていなかったんだよ、グリンヘルド、シュトルハーヘンの首脳たちもね。装置は、我々が運んで稼働させるつもりだった。しかし、君たちはやってきた」

「俺たちを呼んだのは、ミネア、君なのか?」

「ああ、地球で共存するためには君たちの力を知っておかなければと思ってね。知ったうえで対策を考えなければならない」

「なんだ、対策とは?」

「地球の定員は多めに見積もっても100億といったところだ」

「ちょっと、多すぎやしないか?」

「我々の力なら可能だ。だがね、こちらから移民させるのは50億」

「数が合わない、地球の人口だけで80億。130憶は無理だろう」

「だから、地球人類の半分は消えてもらう」

「なんだと?」

「地球を救うのは我々だ、それくらいの妥協はあってしかるべきだろう」

「勝手なこと言うな!」

「一律に減らしたりはしない。能力と適性を考えて判断する。君たち三笠の乗組員を調べさせてほしい。ここまでやってきた能力と胆力は驚嘆に値する。君たちと、君たちと同等の人類は残す。友好的であるという条件が付くがね」

「奴隷になるか滅ぶかの二択ってわけか」

「そんな目で見るなよ。君たちだって、野生動物たちを適正な数に調整したりするだろうが」

「俺たちは野生動物じゃねえぞ」

「首脳たちの中には地球人類など野生動物同然で殲滅しろと主張するものもいるんだ。こういう友好的なプランを持っているのは、グリンヘルド、シュトルハーヘン双方の血をひくグリンハーヘンの者だけだ。どうだ考えてくれないか」

「考えねえ」

「協力してくれたら、三笠の諸君たちを二級市民として受け入れよう」

「二級?」

「ああ、並みの恭順者には三級しか認められないがな。二級は破格なことだぞ」

「断る」

「どうしてだ? 二級は参政権以外は一級市民と変わらん。君一人だけなら名誉一級市民という道もあるぞ」

「俺たちは共存しようとは思ってない。それって共存とも呼べないけどな。地球は地球の人類と生物のためのものだ。けして隷属なんかしねえ」

「古臭い民族主義だね。もう少しファジーになってもいいんじゃないか」

「ならねえよ」

「そうか、仕方ない。じゃ、他の仲間といっしょに居てもらう。みんなで相談してみるんだね」


 そう言うと、ミネアの前の壁が再生し、左横の壁が消えた。五つのベッドに、樟葉、天音、トシ、クレア、猫の姿に戻ったネコメイドたちは一つのベッドにまとまって眠っていた。


「おい、みんな!」

 仲間に駆け寄ると、今までいた部屋との間の壁が再生し、雑居房になった……。




☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
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