滅鬼の刃

武者走走九郎or大橋むつお

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19・『我が街のことからを孫の目から』

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RE滅鬼の刃 エッセーノベル    

19・『我が街のことからを孫の目から』   

 

 
 忘れているようなので、わたしが続きを書きます。

 
 年の割に……というと機嫌の悪くなるお祖父ちゃんなのですが、続きを書くのを忘れた、あるいは忘れたふりをしています。

 風呂上がりに話をすると、栞にとっての河内はどうなんだい?

 と、遠まわしに聞いてきます。

 これは「続きはお前が書け」ということだなあと筆を執ります。

 

「すごい家を見つけた!」

 小学校のころ、お医者さんから帰ってきたお祖父ちゃんが、興奮して言いました。

 今どきのタレントさんには興味のないお祖父ちゃんですが、まるで、憧れのアイドルに出会ったように頬を染めていました。

「え、なになに?」

 二人だけの家族なので、こういう時の感動は共有する習慣があります。

「司馬遼太郎の家を見つけた!」

 え?

 一瞬分かりませんが、コミックのネタにもなっている幕末物の小説をあげてくれてピンときました。

 司馬遼太郎さんは、大阪を代表する歴史小説家です。府知事や大阪市長よりも有名なのは小学生のわたしでも分かりました。

 わたしの好きなアニメに『ガールズアンドパンツァー』があります。

 主役は大洗女子学園の西住みほたち五人の戦車道部なんですが、競争相手に知波単学園の戦車道部があります。

 学園の戦車は日本の旧陸軍の戦車です。

 部長は西絹代という黒髪きりりの美少女なのですが、部員に小柄で眼鏡っこの福田がいます。

 ガルパンのキャラの中で、めずらしく下の名前が設定されていません。

 この福田は、戦時中戦車兵であった司馬遼太郎さんを被らせていると思っています。

 直近の映画版では、猪突猛進の突撃を諫めて、知波単学園に勝機をもたらします。

 司馬遼太郎さんの本名は福田定一です。そして丸眼鏡をかけた小柄な小隊長でした。

「その福田定一と表札にあるんや!」

「でも、同姓同名とか……」

 小学生の割には奇跡めいたことは信じない子なので、そう返しました。

「いっしょに書いてある奥さんの名前は『みどり』や!」

 奥さんの名前までは知りませんでしたけど、検索したら、お祖父ちゃんの言う通り『福田みどり』でした。

 お祖父ちゃんの興奮がうつって、自転車で見に行くと、その通りの表札が掛かっていました。

 とっくに司馬さんは亡くなって、お家を発見した前後に奥さんのみどりさんも亡くなって、お家は身内の方が相続されたようです。

 他にも今東光のお寺とか、書道家の榊莫山さんとか……それは、お祖父ちゃんも書いていますよね。

 ぼんやりテレビを見ていたら、バラエティー番組で河内弁の特集……というよりは、オモチャにしていました。

 河内はアラが悪いとか乱暴とかを前面に押し出した内容です。

「おい、われ!」とか「おんどりゃあ」とか「いてもたろか」とか乱暴な言葉やエピソードを満載して出演者が面白がっていました。

 正直、不快でした。

「おい、われ!」とか「おんどりゃあ」とか「いてもたろか」……こんな言葉は使いません。

 中高生なんか、どうかすると標準語をしゃべっています。アクセントは大阪弁で、文字に起こしたら標準語という子もいます。

「河内弁て、あんななの?」

 あんまりなんで、お祖父ちゃんに聞きました。

「本当の河内弁は……たとえば『夕べ』のことは『ゆんべ』という具合に濁音の前には『ん』が入る。それから『お尻』のことは『ケツ』の他に『おいど』ともいう。主に女の人やなあ……それから『だぢづでど』の発音が『らりるれろ』になることが多いなあ」

「らりるれろ?」

「うん、たとえば『淀川の水』は『よろがわのみる』、『仏壇の修繕』は『ぶつらんのしゅうれん』とかな」

「へえ……」

 テレビでは、そんなことは言ってなかった。

「まあ、テレビは面白かったらなんでもありやからなあ」

「えと、なにか当たってるようなことは?」

「そうやなあ……声が大きい」

「え、そうなの?」

「二人以上の大阪の人間が東京で電車に乗るとな、なんでか、周りから人が居らんようになる……」

 この時のお祖父ちゃんの目は、ちょっと寂し気。きっと、昔の実体験なんだと思います。

 じっさい、お祖父ちゃんはお喋りだし、声も大きいですから。

 高校生の目から見た『河内』を書いてみようかと思ったんですが、また今度にします。

 あ、産経新聞のコラムにこんなのがありました。

「来ない」というのを関西弁ではどう言うのか。

 けーへん きーひん こーへん

 けーへんは大阪、 きーひんは京都 こーへんは神戸 と分類してありました。

 生まれて十七年の感覚では、三つとも使います。

 使い分けにルールはありません、気分次第です。

 多分、もともとは地域性があったんでしょうけど、いつのまにか混ざってしまって、汎関西弁という感じになってるんだと思います。

 大人の判断基準て体験に基づいたものでしょうから、古いと思います。

 本当に若者の関西文化を知りたかったら、学校の先生にでもなってください。

 では、またお目にかかります。
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