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14『イザナギの三神・スサノオ・3(天津罪)』 

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誤訳怪訳日本の神話

14『イザナギの三神・スサノオ・3(天津罪)』 



 日本は八百万(やおよろず)の神さまの国です。

 その八百万の神さまの東の横綱が天照大神で西の横綱が出雲大社であります。
 何度も申しましたが、今の皇室に繋がる大和朝廷の神さまがアマテラスで、出雲大社に象徴される出雲勢力の神さまの大元がスサノオであります。

 出雲勢力がどれだけ強大であったかは、十月を神無月として、十月には日本中の神さまが出雲に集まるということになったことでも分かります。で、出雲地方だけは十月のことを神有月(カミアリツキ)と言うことで、さらに頷けます。

 スサノオは高天原で大暴れします。

 大暴れの結果、高天原を追放されることになるのですが。これは出雲勢力が大和勢力に敗れたことを反映させるためにできたストーリーだと言われています。

 それはさておき、面白いので観ていきましょう。
 
 スサノオは高天原の田んぼを踏み荒らしてメチャクチャにします。神さまが食事をする御殿にクソを巻き散らかして汚します。アマテラスがスサノオを罵倒するときに「このウンコ!」と言ったのは、わたしの筆が滑ったからですが、まさにその通りのことをやってのけます。

 最初は大目に見ていたアマテラスですが、しだいに収まらないスサノオの乱暴にキレてしまいます。

 機織り姫が織物をしているところに生皮を剥いだ馬を投げ入れ、機織り姫はビックリしてショックのあまり死んでしまいます。

 このくだり、原文では機織りに使う板で陰(ほと=性器)を突いて死んだとされています。こういう描写は神話のいたるところに見られるのですが、それについては、また触れてみたいと思います。

 ここにきて、アマテラスは怒り心頭になって天岩戸に隠れるのですが、ひとまずスサノオがしたことに目を向けます。

 古代においては、天津罪(アマツツミ)という概念がありました。とんでもない罪という意味です。

 宗教儀式や、祭祀の場をメチャクチャにすることは、大変な罪でした。

 スサノオがクソをまき散らしたことや機織りの場に皮を剥いだ馬を放り込んだことが、これに当たります。

 神道は、清浄を第一にする宗教です。

―― 何事のおはしますをば しらねども かたじけなさに 涙こぼるる ――

 西行の和歌です。

 なにがお祀りされているかよりも、かたじけないと感動するような清浄さが重要なのです。

 伊勢神宮の本殿は、式年遷宮と言って、20年に一度、すっかり建てなおして引っ越しします。清浄さやあらたかさを大事にするからなのですね。

 ですので、神事や神社を穢すのは一番の罪とされます。現代人の我々でも、神社の鳥居やお社に落書きされたりしていると、他の落書きと違って「このバチあたりめが(#`Д´#)!」という気持ちになりますよね。その名残だと思うねですが、どうでしょう。

 次いで大きな罪が田畑を荒らす罪です。

 スサノオは田んぼの畔を壊したりしてメチャクチャにしています。
 神話の中には書かれていませんが、後の律令や格式の中に、ああ、こんなのもあるんだ。というものがあります。

 頻撒(しきまき):人が種籾を撒いた上から別に種籾を撒いて「ここは、オレの田んぼだ!」と主張すること。

 串刺(くしざし):人の田んぼに立札を立てて新たに所有権を主張すること。

 畔放(あはなち):田んぼの畔(板や土で作られた田んぼの囲い)を破壊すること。

 農耕秩序を破壊するような行為が、神社を穢すことと並んで大罪でした。

 下って、鎌倉幕府ができたのも農村地主である武士たちが土地の所有権を保証してもらったり、土地にまつわるイザコザを公平に裁いて欲しかったからでであります。日本の原型は、やっぱりお百姓さんの国なんですね。

 次回は天岩戸について考えたいと思います。
  
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