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21『八雲たつ出雲八重垣』

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誤訳怪訳日本の神話

21『八雲たつ出雲八重垣』   

 

 八岐大蛇を退治したあと、スサノオは――オレ、生まれて初めていいことしたんだ……なんちゅう清々しさであることよ……目の前の景色も嫁のクシナダヒメも、なんとも愛おしく仕方ねえよなあ――

 なんだか、涙が出て仕方がありません。

 スサノオは、これまでもよく泣きました。ガキの頃は、カアチャンが居ないよおと言ってはジタバタ泣いて、父のイザナギを困らせ、高天原では「少しは、オレに構ってくれよおお!」と泣いて、お姉ちゃんのアマテラスにこっぴどく怒られては泣いて、高天原を追放されてきました。

 それが、ここへきて、テナヅチ・アシナヅチの老夫婦に同情し、一世一代の計略を練って、体を張ってクシナダヒメを助けました。初めて人のために働き、今までに感じたことのない充足感、人と喜びを分かち合う嬉しさで涙が止まりません。

 ヘタレがレベルマックスの勇者にキャラ変してしまったのです。

 なんでもありのラノベでも、こんな設定をしたら企画書の段階でアウトです。

 日本神話には、こういう強引さがあちこちにあるのです。この強引さは、どこかで触れたいと思うのですが、今は『みごとなキャラ変』と楽しんでいてもいいかと思います。

「オレは、これからも、幾久しく、この土地とクシナダヒメを護っていくぞ!」

 そう、スサノオはエピソードoneをコンプリートしたのです!

 そこでスサノオは日本で初めての和歌を歌いあげます。

 

 夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐 都麻碁微爾 夜幣賀岐都久流 曾能夜幣賀岐袁……これは古事記の記述

 夜句茂多菟 伊弩毛夜覇餓岐 菟磨語昧爾 夜覇餓枳都倶盧 贈廼夜覇餓岐廻……こっちは日本書紀の記述

 両方とも万葉仮名という、漢字の読みだけを利用して日本語を表現したもので、ちょっと意味不です。

 今風にすると、以下のようになります。

 八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を幾重にも雲が湧き出でる出雲の国をメッチャ気に入った! この出雲の国とオレの嫁を護るために垣根……つまり我が家をつくってだな、その護りをしっかりやるってことだ! オレは、この出雲に住み着くからなああああ! 文句あっか!

 スサノオの土着宣言であります。

 記憶に間違いがなければ、スサノオは神の身でありながら初めて人間(クシナダヒメ)と結婚した神さまであります。

 こののち、アマテラスの子孫も九州は高千穂の峰に降臨して、しだいに人との関りや婚姻が進んでいきます。その先駆けを表現しているのかもしれません。

 
 落ち着いたスサノオは、ここいらは木が少なくていけないなあと思います。

 前回でも述べた通り、山陰地方は古くからのたたら製鉄のため山が禿になるほど木を切られてきました。復元能力の高い日本の山々でも、やっぱり目立つんでしょうねえ、スサノオは体中の毛を抜いて、娘や息子たちに植えさせます。つまり、山陰地方だけでなく、日本中の山々の木はスサノオの体毛が変化したもので……そう思って山を見ると、ちょっと複雑な気持ちになりますなあ……あそこの木は、いったいどの部分の体毛なんじゃ?

 その後、スサノオの六代目の子孫が二代目の娘と結婚します。

 なんで六代目と二代目が? 時間的にメチャクチャ……次回に考えます。

 

 
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