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37『ヌナカハヒメとスセリヒメ』

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誤訳怪訳日本の神話

37『ヌナカハヒメとスセリヒメ』  

 

 
 越の国はヌナカハヒメの館、その門前に立って、ヤチホコノカミ(オオクニヌシ)は歌を詠みます。

 最初、返事は返って来ませんが、何度か門の中に歌を投げ入れている(ヌナカハヒメの従者が取り次いだ)うちに返事が返ってくるようになり、ヤチホコノカミは邸内に招じ入れられていい仲になります(n*´ω`*n)。

 しばらくは越の国に留まって楽しく暮らしたと記紀神話にはあります。

 ヤマガミヒメ、スセリヒメと数えて三人目の妻です。

「この調子で、もっと妻を増やしなさい!」

 ヌナカハヒメが言ったかどうかは分かりませんが、ヤチホコノカミは西日本のあちこちに出かけては妻を増やします。

 ヤチホコノカミ(オオクニヌシ)はヤチホコ(沢山の武器)を背景に西日本のあちこちを従えます。

 武力を背景にしていますが、力づくという感じではなかったんでしょうねえ。

 地方の神々を妻にする(きちんと地方の神々を祀る)ことで信用を得て行ったのだと思います。

「越の国だけじゃなくて、山の向こうの、そのまた向こうの湖の国にも行って、豊かで平和な暮らしを広めてあげてください。わたしたちには子供も生まれましたし(^▽^)/」

 二人の間には建沼河男命や建御名方神(たけみなかたのかみ)=諏訪大社主神などが生まれています。

「え、いいの?」

「わたしのところだけが平和では申し訳ないです。あなたはスサノオノミコトからウツクシタマノカミの名もいただいているのですから」

「あ、それ忘れてたけど、めちゃくちゃイケメンの男って意味なんだよなあ(〃´∪`〃)」

「いいえ、魂までも美しい……」

「そ、そう? じゃ、じゃあ行ってみようかなあ(^_^;)」

 鼻の下を伸ばしてヤチホコノカミはあちこちに足を延ばして妻を増やしました。

 タキリヒメ(アマテラスがスサノオの剣を嚙み砕いて生まれた女神)、カムヤマタテヒメ、トトリノカミ(鳥取県の語源になった)などがそうですね。

 収まらないのがスセリヒメです。

「おい、ヤチホコ! オオクニヌシ! オオナムチ! いや、アシハラシコオ!」

「あのう……なんと呼んでくれてもいいんだけどね、そのアシハラシコオってのは日本一の不細工男って意味だから、ちょっと傷つく……」

「ふん、アシハラシコオで十分よ! それに、シレっと意訳してんじゃないわよ! シコオってのは不細工なんて生易しい意味じゃないわよ、一円玉ってことよ、一円玉!」

「え、なにそれ?」

「これ以上は崩せないって意味よ! それくらいに醜いって意味よ!」

「アハハ、うまいうまい(^▽^)/」

「笑ってごまかすなああ!!」

「ほんと、お父さん(スサノオノミコト)の直感は正しかったわよ、ほんと日本一のクズよ! あんたは!」

「いや、だから、これはね、ヌナカハヒメも言ってるけど、世の中を平和にするためなんだよ。うん、世界平和のためなんだよ。いや、ほんと、タケミナカタノカミが生まれてこなきゃ信濃国とも上手くいかなかったし、トトリノカミが生まれなきゃ『鳥取県』の名前も無かったわけだしさ」

「そいうことをシレっと言ってしまえる男なのよ! あんたみたいなのがいるから日本の男の浮気が停まらなくなんのよ!」

「いい加減にしろ!」

 ヤチホコノカミはスセリヒメに背を向けて馬の鐙に足を掛けます。

「いいえ、やめないわ! 今度は、ヤマトに行くつもりでしょ!? お願い、ヤマトだけはやめて!」

「うっせえ! ヤマトで待ってる女(ヒト)がいるんだ!」

「ヤマトに行ったら、今度は、あんたが呑み込まれるから、お願い、わたしのヤチホコ……」

 スセリヒメは手綱と鐙に手をかけビクともしません。

 手綱と鐙に掛けた手からは血が滲んでいます。父のスサノオによく似た黒目がちの瞳からは滂沱の涙が溢れ、涙の川となって道を隠してしまいます。

「……わかった、わかったよスセリヒメ。もう、どこにも行かないよ、この出雲で静かに暮らすことにしよう」

「そうよ、わたしのアシハラシコオ……」

 こうして、ヤチホコノカミは、やっと出雲に腰を落ち着けました。

 スセリヒメが最後にアシハラシコオと呼んだので、ヤチホコは、それ以上にはモテることもなくなり、大国主命として落ち着きました。

「でも、やっぱり心配!」

 スセリヒメは、亭主が浮気の虫を起こさないように、出雲大社にだけは日本一の美しい巫女さんたちを揃えましたとさ……。
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