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41『オシホミミ、母はあそこが欲しい……』

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誤訳怪訳日本の神話

41『オシホミミ、母はあそこが欲しい……』  




 スクナヒコナと、それに続いたオオモノヌシのお蔭で、豊芦原中国(トヨアシハラノナカツクニ)は安定した豊かな国になりました。

 その繁栄ぶりを雲の上の高天原から見ていたアマテラスは思います。

「あそこが欲しい……」

 アマテラスは、続けて考えます。

——トヨアシハラノナカツクニを治めるオオクニヌシも、その妻であるスセリヒメも、わが弟であるスサノオの子孫。スサノオは高天原で好き放題に暴れまわって、ずいぶん迷惑をかけてくれたわよね……損害賠償とかもしてもらってないし……わたしの子どもや子孫が治めてもおかしくない……というか、わたしの子孫こそが治めるべきよね——

 思い立ったアマテラスは息子であるアメノオシホミミ(正勝吾勝々速日天之忍穂耳命・まさかつあかつかちはたひアメノオシホミミノミコト)に命じます。

「わたしの名代として、あそこを治めなさい。名前も豊芦原中国から豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)と改めなさい」

「ちょっと長すぎるんじゃないかな……お母さん」

「そう?」

「うん、瑞穂銀行だって、平仮名のみずほ銀行にしてるくらいだし」

「ああ、それって、なんだか子ども銀行みたいで、きらいなのよ」

「でもさ、豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)銀行なんてありえないでしょ」

「ま、名前は考えるとして、とにかくオシホミミ、あなたが行きなさい!」

「いや、でも、スサノオ叔父さんの子孫の国だよ。ぼくなんか、とても(^_^;)」

「なに言ってんのよ、オシホミミ。生まれた時の事思い出してごらんなさいよ!」

「えと……」


 オシホミミは思い出します。


 はるか昔、スサノオが母のイザナミ恋しさに母親似のアマテラスを訪ねた時の事です。

 かねて乱暴者の評判が高く信用のならない弟に「真心を示しなさい」と注文。

 スサノオが差し出した剣をバキバキに折ってしまいました。

「な、なにすんだよ、姉ちゃん!?」

 頭に来たスサノオは、アマテラスが差し出した勾玉をバキバキに噛み砕いて吐き出します。

 その勾玉のカケラから生まれた男神の一人がオシホミミだったのです。

 アマテラスとスサノオ二人の因縁が込められているので、アマテラスは最適だと思ったのかもしれません。


「で、でもさ、あれってお母さんが、屁理屈で叔父さんやりこめて、ちょっと険悪な雰囲気になったじゃん」

「え、そう?」

「そうだよ。お母さんが叔父さんの剣を折って三人の女神にしたでしょ?」

「そうよ、あの子たちは今でも高天原キャンディーズって呼ばれてるわ」

「キャンディーズ……いつの時代だよ(;'∀')。ま、いい。叔父さんが噛み砕いた勾玉からは、ぼくを含めて五人が生まれてきてさ、高天原のスマップか嵐かって言われたもんだよ」

「あんたも古い」

「キャ、キャンディーズよりは新しい!」

「で、叔父さんは『姉さんは三人、オレは五人だから、オレの勝ちだろ!』って言ったら、『それって、わたしの勾玉から生まれたんだから、わたしの勝ちよ』って、言い負かしたんだよね」

「オシホミミ、ちょっと深呼吸してごらんなさい」

「深呼吸?」

「いいから、やってみる!」

「う、うん」

 スーーーーー

「そこで、息を止める!」

「う、うん…………………………………………………………………………」

「よし、吐け!」

 ハーーーーー

 いきなり言われたオシホミミは、盛大に息を吐きだして、全身の緊張が抜けてしまいます。

 ポコ

「ほらね」

「え?」

「力が抜けるとね、あんた、ポッコリお腹が出るのよ」

「い、いや、これは……」

「国を治めるのは、それくらいに緩んでる方がいいのよ」

「で、でも、ぼくは嫌だよお!」

「オシホミミ!」

「いやだったら、いやだあああああああああ!」

「あ、ああ……逃げちゃった(^_^;)」

 オシホミミはなりふり構わずに嫌がるので沙汰闇になってしまいました。

 
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