漆黒のブリュンヒルデ

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
31 / 84

031『ひるでの散歩・2』

しおりを挟む

漆黒のブリュンヒルデ

031『ひるでの散歩・2』 

 

 
 道を外れてみた。

 と言っても、人の道を外れて悪さをするわけではない。

 いつも豪徳寺の外塀に沿って学校に行くだけなので、道を変えてみようと思ったのだ。

 散歩なのだから気ままに歩くのがいい。

 通学路の反対方向に歩いてみる。

 しばらく歩くと二人の妖に出遭った。

 気づかなければすれ違うとか追い越すとかで済ませたのだが、怪しさ全開なので捨て置くことも出来ずに『須藤功(すどういさお)』と『中西絹子』と名付けて成仏させた。

 道を変えて、さらに進むと何十人という妖の気配。

 目を凝らすと、気配は国民服やらモンペ姿に実体化し、わたしに気づくやいなや、猛スピードで逃げ散っていった。

 スッテンコロリン

 学生服にゲートルを巻いた妖が転んだので近寄ってみる。

「どうして逃げる?」

「ひるでに捕まったら食い殺されると言う噂だ」

「どこでねじ曲がったんだ、わたしは妖を喰ったりはせん。本来の名前を付けてやって成仏させるだけだ」

「そんなこと信じられるか、おまえは人食いだ!」

「やれやれ、ならば、そう思っておけ。こっちも行く先々で妖に関わっていては身が持たんからな。一つ聞きたいんだが、ここいらへんで妖に出遭わずに済むところはないのか?」

「そ、それなら……」

 
 そいつは北東の方角を指さした。

 
 足を運んでみると、都立高校の塀が伸びているところに出た。

 旧制中学から発展したもので、校舎こそは今風だが、塀の基礎部分は戦前からの遺構のようだ。

 さらによく見ると、一部には度重なる空襲から免れた施設もあるようで、旧校舎の一部は昔の面影を留めている。

 おや?

 ゴミ収集のために塀の一部が丈の低いシャッターになったところがある。『駐停車禁止』の札が掛かったシャッターの内側で、なにやら話声が聞こえる。

 人の言葉ではないが、なにやら苦情や不満を言っているようだ。

 慣れてくると、その断片が人語に変換されて聞こえるようになる。

 
 月に二回だけ 一回だけよ 最初の一回だけ 処女なのに 童貞なんだぞ このまま せめて一回だけでも

 
 なんだか、すごい内容だ。

 少し深く透視してみる。

 ん? この学校の先生だろうか、数人の大人が寄ってきた。そして、処女と童貞を選んで戒めを解いてやっている。

 嬉しい! 助かった! 希望だ! 希望の光だあ!

 さらに透視を強くしてみる。

「便覧と辞書ぐらいはね」「地図だって買えば五倍くらいの値段だ」「真っ新だけで一クラス分くらいある」

 
 分かった。

 卒業する三年生が残していった教科書たちだ。

 昨日が登校日だったようで、ロッカーを空けさせるために、不用品を捨てさせたんだ。

 不用品の大半が教科書で、中には氏名も書かれず、一度も開かれることが無かったものもある。教科の先生たちが、そういうものを集めて、忘れた生徒の為に予備としてピックアップしているんだ。

「先生、あたしらもいいですか?」

 真面目そうな女生徒が数人やってきて、不運な教科書の救済に参加した。文芸部と地歴研究部のようだ。部活としては絶滅危惧種だ。

 よかった、何十冊かは助かりそうだ。教科書もぞんざいに扱えば質の悪い付喪神になるからな。

 
 少しホッコリして、その場を離れた。

 明日あたりは、春一番が吹くかもしれない。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

処理中です...