漆黒のブリュンヒルデ

武者走走九郎or大橋むつお

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048『石清水八幡宮』

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漆黒のブリュンヒルデ

048『石清水八幡宮』 

 

 

 スクネ老人の計らいで、あちこちの八幡宮を巡っている。

 
 琥珀浄瓶との激戦で世田谷八幡であるオキナガ姫もくたびれている。

 スクネ老人は「しばらく豪徳寺を離れた方が良いかもしれませぬなあ」とだけ言った。

 オキナガ姫を助けた慰労のニュアンスであったが、行く先々での戦いを覚悟していた。しかし、今のところは息抜きだ。

 ちょっと昔の高校生になって、ささやかな問題を解決……いや、お節介を焼く。

 こんなことで人やオキナガ姫の役に立つなら嬉しいことだ。

 
 さて、今度はどこの八幡宮か……。

 
 ケーブルカーを降りると蝉の声が変わった。

 鳴いているだけで体感温度が上がってしまうアブラゼミに替わってヒグラシだ。

 ヒヒヒヒ ヒヒヒヒ ヒヒヒヒ ヒヒヒヒ……と涼しい響きだ。

 麓に比べ140メートルは高い標高のせいなんだろうけど、この男山に鎮座する石清水八幡の御業なのかと想像する。想像すると、頂上の叢林がさらに神さびて感じられ、一念発起して訪れたことが一層嬉しくなってくる。

「……来てへんねえ」

 改札を出たところで、直葉(すぐは)がキョロキョロする。

「じゃ、鳥居の前までいくよ」

「う、うん」

 未練な直葉を急かす。

 ケーブルに間に合わなければ、さらに奥の鳥居の前という約束だ。

 わたしと直葉は、谷口を誘って石清水八幡宮に向かっているのだ。

 八幡市(やはたし)と言えば石清水八幡宮。このあたりに住んでいれば小学生でも知っている常識だ。

 でも、常識過ぎて、高校に入るまで訪れたことがない。

 それで、一度行ってみようと思い立った。

「ちょっと、こじつけっぽいけどね」

「誰のためにこじつけてんのよ(ー_ー)!!」

 カマすと沈黙する直葉。

 沈黙されても気にならないのは、大鳥居に至る道がとても雰囲気があるからだろう。この雰囲気はアベックできてこそと思うんだが、まあ、二人ともパッシブな性格だから仕方ない。

 
 わたしと直葉と谷口は、この春に開校した府立岩清水高校に入学した。

 
 三人とも小学校からの付き合いで、中学では三人揃って同じクラスになることは無かったが、ま、廊下で会えば「オッス」くらいは交わす馴染みではあった。

 
 石清水を受ける時「同じクラスになればいいのにね」と言ったら「べ、別にい」と口をそろえやがった。

 結果、わたしと直葉は普通科の西キャンパス。谷口は福祉科のある東キャンパス。

 まあ、同じ高校の東と西だから、行事とか通学で程よく会えると考えたんだよね、直葉も谷口も。

 
 ところが、現実は違った!

 
 なんと、西と東の間には石清水八幡宮のある男山が聳えていて、東の最寄り駅は『石清水八幡宮』で、西は『橋本』と別々。去年まで存在していた二つの高校を統合したのはいいが、京都府にお金がないのか、校舎はそのままにして、西キャンパス東キャンパスと名付けただけだ。

「さ、詐欺だ……」

 中学の校内選考が終わった時、谷口がひそかに呟いたのを聞き逃さないわたしだった。

「な、夏真っ盛りだから、正解だろ?」

「え、あ、うん……ごめんね、牟田口」

「名字で呼ぶなよ、佳代と直葉の仲だろうが」

 自分の苗字は嫌いだ。牟田口が無駄口に聞こえる。確かに、我ながら多弁。でも、モットーは『当たって砕けろ』人は砕けなきゃ丈夫にならないんだ。

 来ないのはケシカランことだけど、谷口の気持ちも分からなくはない。好きだからこそ及び腰になる。決定的に「NO」を突き付けられるのが辛いんだろ。直葉の気持ちは谷口の押し方次第というのが、わたしの読みだ。だから、押せよなあ、谷口!

 
「やっぱり居ないねえ」

 
 鳥居の前で待つこと十五分。ニ十分で「もう来ないねえ」に変わった。

 けっきょく直葉と二人お参りして、おみくじひいて帰ってきた。

「駅前で谷口君見かけたわよ!」

 うちに帰ったらお母さんが、開口一番に吠えた。

「なんか、しでかしたのお?」

「交差点でお婆さんが倒れて、谷口君、一人で介抱して救急車もいっしょに乗って行ったのよ。おかげで、お婆さんは一命をとりとめたって、もう、評判よ」

「ほう、さすがは福祉科だね」

 
 同調はしたが、やつの腹は読めた。

 
 たまたま、婆さんがひっくり返るのを見て率先して助けたんだ。そうすれば、合理的にブッチできるもんな。

「な、谷口、そうなんだろ」

 あくる日、たまたま出くわした交差点で谷口に問いただす。谷口は、分かりやすく顔を赤くしやがる。

「その控え目すぎる性格直せよなア」

「う、うん……」

 あっさり認めやがる。

「じゃね、また機会があったらね……」

「会いたくなかったのは、直葉とちゃうねん!」

「あん?」

 意味わからなくって、立ち止まる。

「会いたくなかったのは、牟田口さんや……」

「そーか、ずいぶん嫌われたもんだなあ」

 アッタマに来て、数歩踏み出して気が付いた。

 
「それって……」

 
 横断歩道を挟んで、赤くなったのは信号だけではなかった……。

 
 今日の意味はなんだ?

 ねね子に聞く。

「あそこから三角関係になって、谷口君と直葉の恋はドラマ二本分くらいの展開を経て強いものになっていくニャ!」

「なんか、損な役回りじゃないか、あたし?」

「これで八幡様も喜ぶニャ」

「ところで、ねね子はどこにいた?」

「あ、谷口君が助けたお婆さんニャ(^▽^)/」

 
 ねね子、楽し過ぎ。
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