漆黒のブリュンヒルデ

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
81 / 84

081『ダイダラボッチ・2』

しおりを挟む

漆黒のブリュンヒルデ

081『ダイダラボッチ・2』 

 

 
 山の上で途方に暮れてしまった。

 
 クロノスの爺さんは居ないし、ダイダラボッチには逃げられてしまうし。

 ブァルキリアからこの異世界に来て、元の半分ほどしか力を発揮できないわたしだが、時空移動能力がゼロなのは堪える。以前、時空を超えて全国の八幡を巡る旅に出たが、あれはスクネ老人の力で八幡の煙道を使ったからだ。

 こんな海進期の縄文時代に放り出されては、元に戻るすべがない。

 まあ、焦っても仕方がない。

 待っていれば、一休みしたクロノスが戻って来るだろう。元々は、クロノスが頼んできた仕事なんだからな。

 名も知らない広葉樹の根元で横になる。

 リスやウサギたちがチョロチョロ現れる。どいつも令和の時代のよりも大きい。きっと縄文の気候があっているんだろう。みんな目がクルクルしていて可愛らしい。

 そんな小動物たちを見ているうちにウトウトしてしまう。

 まあいい、クロノスも時計店に戻って休んでいるんだ……

 
 夢を見た。

 
 どこかの田舎だろう。囲炉裏を囲んで三人の子どもたちとお婆ちゃんが秋の夜長を過ごしている。

「むかーしむかーし、ここいらへんにはダイダラボッチいう大男がおったげな。身の丈こそは雲を突くようだったけんど、根はやさしいやつでな、毎朝起きてはお日様に手を合わせて、自然の恵みに感謝してから海の方にノッシノッシと歩いていったがじゃ。人の村やら、獣の住み家は気を付けて避けながらな。そいで、半日かけて海に行っては、両手で海の水をすくって口に含むと、器用に貝やら魚を濾して食べよった。そいで、貝やら魚を口に入れたまま、自分の住み家まで戻りよる。戻ったころには、口の中は貝殻と骨ばかりになっとる。途中で吐き出したら、みんなに迷惑が掛かるっちゅうんで、吐き出さんのじゃなあ。なんせ大男なもんじゃけ、そんなもんを吐き出されたら、道はふさがり、谷は埋まったり、川を堰とめたり、運が悪いと人や動物が下敷きにしてしまうかもしれん」

「やさしいんだね、ダイダラボッチ」

「そうだよぉ、そいで、住み家に戻ったダイダラボッチは、周りに人や獣がおらんことを確かめてから、プププと口の中のもんを吐き出しよる。プププってなあ」

「ププププ」

「プププ」

「「「アハハハ」」」

 ダイダラボッチの真似をして子どもたちが喜ぶ。

「んじゃから、ここいらの山の中から貝殻がドッチャリ見つかるってわけなんさ」

「それが、お山の貝塚なんだね」

「アハハ、そうさそうさ……」

 孫と婆ちゃんが暖かく笑っていると、風呂から上がった一番上の孫が腰を下ろして、こう言った。

「それは違う」

「え、どう違うんじゃ、兄ちゃん?」

「昔は、縄文時代言うて、今よりもうんと暖かい時代があって、ここらへんまで水に浸かっとたんじゃ。それで、昔の人が採った貝殻やら魚の骨を捨てたのが積もり積もって貝塚になったんじゃ」

「そんな、海がここまで来とったなんて、おかしな話じゃ」

「モースいう外人の先生が大森貝塚を発見なさって、研究が進んでな。今じゃ確かなことと認められとる。その証拠にな、貝塚からは土器の欠片や、釣り針の折れたのやらも見つかって、明らかに人のゴミダメちゅうことが分かっちょるんだ」

「ええ、そうだったんか?」

「婆ちゃんの言うたんは、迷信なんじゃな」

「迷信は言い過ぎじゃが、まあ、お伽話じゃ」

「なんじゃ、お伽話か」

「兄ちゃんの話の方が、おもしろいじゃ!」

「他にも、遺跡の話とかもあるぞ」

「聞かせて聞かせて!」

「よし、そんじゃ、みんな俺の部屋にこい」

「「「うん!」」」

 婆さんは囲炉裏の傍で一人ぼっちになってしまった。

 
 そうか……それで、ダイダラボッチは居場所が無くなったというわけか。

 
 目が覚めたわたしは、群馬県にダイダラボッチを探しに行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

処理中です...