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084『女将さんと駆ける!』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
084『女将さんと駆ける!』
上州名物 かかあ天下に空っ風
古い言い回しの通り白絹屋の女将さんの行動は俊敏だった。
バシ! バシッ! ビシバシ! バシビシ!
赤城下ろしの空っ風は砂埃どころか、地道の砂礫をも石ツブテのように巻き上げ銃砲弾のように人馬を叩くが、自分の身と馬の首が一体となるくらいに低くし、馬の目や耳に当りそうな砂礫を大刀で弾き飛ばしていく。
パシ! パシッ! ピシパシ! パシピシ!
わたしも負けじとオリハルコンを振う。
砂礫を払う音がわたしの方がするどく響く。
日本刀とソードの違いか、気性の違いか、流儀の違いか分からぬが、歴戦の戦友と共に吶喊しているように小気味いい。この人とならばヴァルキリアの戦いも面白いかもしれないと思った。
このままでは赤城山に呑み込まれるのではないかというところまで近づいた。
「こっちに身を寄せて!」
お女将さんと二騎で岩陰に身を寄せる。
岩の形がいいのか、空っ風がそよ風ほどに勢いが弱まる。
「風除けの岩でござんす。こういう時の為に、風を凌げるところを設けてあるんです。ここで様子を見て亭主の好きを窺いやす」
「クロノ……ご亭主はどこに?」
「目の前でござんすよ」
「目の前……?」
ゴーグルを確かめて前方を窺うと、夕日を背に受けた赤城山が夕陽の紅に縁どられ黒々と聳えて迫って来る。
「まさに山が迫ってくるような……さすがは赤城山ですね」
「ような……ではなく、迫って来るんでござんすよ」
「え……?」
「赤城山に憑りついているんですよ、亭主と手下が」
「山に憑りつく?」
「クロノスは元々は巨神族でござんす。神々との戦いで力を失ってからは並の大きさに戻って人交わりしておりますがね、赤城山とは相性がいいんでござんしょうねえ、山と合体して手が付けられなくなります。もっとも、あれは奥の手でござんしてね、時間を過ぎてしまえば二度と人の姿には戻れなくなってしまいます」
「哀れな……しかし、ご亭主は山と合体して何をしようと?」
「息子たちを喰らいに行くんですよ」
「え……決着はついているのではないのですか?」
クロノスは、自分と妻のレアの間に生まれた子供が自分にとって代わると思って、生まれた子供を次々に食い殺していったが、レアの奇計と神々の力で封印されたはず。
「性根は直っておりません、あの男はゼウスとポセイドンが憎いんでござんすよ。この時空変異に事寄せて、息子二人を亡き者にしようと……ひるでさんを巻き込んだのも、このため……回り込んで正体が見えればダイダラボッチの姿もござんす」
「そうか、ダイダラボッチも……で、どのように対応するのですか?」
「これでござんすよ」
女将さんは背中に背負った風呂敷包みを示した。
「これは?」
「握り飯でござんす」
女将さんの目がへの字になった……。
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