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059 : 切通しの上の樹叢の魔物
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待ての勇者と急ぎの姫騎士
059 : 切通しの上の樹叢の魔物
四日目の朝、ようやく応急修理の終わったシュプルーデ橋を渡って先に進んだ。
二本のヘルチェ-ンに瓦礫の板を敷いただけなので、馬や荷馬車は通れないので諦めた者もいるが、シャイロック一人だけは居付いて商売を始めた。
「なかなか逞しい方でしたね」
エマの——逞しい——というのが三人共通の評価なんだが『逞しさ』の中身は微妙に違う。
エマは「お風呂屋さんを始めただけではなくて、みんなのお世話もしておられました。立派でございます」と手放しで褒める。じっさい、橋が渡れない大荷物の者からは荷物を買い取ってやったり。北の状況に怖れをなした者たちを風呂屋や付属の売店の従業員に雇ってやったりしている。それから、急いで川を渡ろうとして魔物に食われたり水に流されたりした者たちの慰霊のミサまでやった。
「あの尼さんもお残りになったんですねえ」
商売人のお祈りでは有難みが無いので、シャイロックは尼さんにミサを主催してもらっていた。目の前で亡くなった者たちの弔いだったので、みんな真剣にお祈りを捧げ、なかなか敬虔な雰囲気だった。
「あのまま、あそこで教会をお造りになるかもしれません。麗しいことです(^^)」と目をへの字にする。
ヒルデは「根っこのところは商売、自分の儲けだ。儲けの機を見る才覚は大したものだが、立場を変えれば……例えば軍を指揮させても相当な力を発揮するだろう。だが、勝利のためならばなにをやってもいいという功利主義的なものを感じる。シャイロックの勝利は儲けだ。儲けることに様々な装飾をしているに過ぎん」と一見、身もふたもない。
「ヒルデさまぁ」
「あ、すまんすまん。たしかに、あれで大勢の者が救われたり希望を繋いだりできたんだ、それについては大いに評価しているぞ。言い方が適切でなかったかもしれんな、許せ」
俺の評価は少し違う。彼が本当にヴェニスのシャイロックなら、心の淵はガイストターレンの谷よりも深いはずだ……まあ、ハンドルネーム的なものなら、それこそ、彼の逞しさの発露なんだろう。ふたりの思いを聞くだけにして、俺は街道の先に目を据えて前に進んだ。
先に進むと切通しの曲がり角で人だかりがしている。
「なにかあったんですか?」
河原の先行組の者たちだったんで、声をかけてみる。
「あ、勇者の皆さん、あれですよ」「むごいねえ……」「かわいそう……」
「ム、あれだ!」
ヒルデが先に見つけて指を指した。
切通しの上、雑木が密生しているところに人が引っかかっている。ピクリピクリと動いているところを見ると、まだ生きているように見える。
「先に渡った冒険者の人ですよ……」「魔物に襲われたんだろうねえ……」「助かるといいんだけど……」
「助けに行っているのか!?」
ヒルデが色を成した!
「はい、二人……」
「あれは囮だ!」
ヒルデが叫んで、俺と二人切通しの崖を上がる……くそ!
ク、なんということだ!
助けに行った者のうちの一人を含め三人が魔物に食われていた。一人は右手に剣を構え左手には火炎魔法の余熱を残して一匹の魔物と対峙している。もう一匹は枝の切れで死体をつついて動かしている。下の人間も呼び込んで餌にするつもりだったんだ!
「やるぞ!」「おお!」
ビシ! バシ! ズビュン!
ヒルデの声で剣を抜き、五匹いた魔物を数合でブチのめす!
魔物たちは待ち伏せに特化しているようで、下半身が樹叢に癒着している。樹叢の木々たちも魔物たちのおこぼれを養分にしているんだろう、やせ地や深海でみられる、一種の共生だ。
生き残った一人を助けて道に降りた。
「シュプルーデ川の北は過酷だ、自信のない者は戻った方がいいぞ」
犠牲者たちを弔ったあと、ヒルデが注意すると半分の者たちが引き返した。
「わたしたちは独自に進む、おまえたちも勝手にいけ」
ちょッと突き放した言い方。
分かる。ついてこられると足手まといになるからな。
そいつらも「こちらこそ!」と肩をいからせるが、俺たちが先に進む。
そいつらも顔には出さないが——助かった!——と思ったんだろう、文句も言わないで、俺たちに先を譲った。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物
059 : 切通しの上の樹叢の魔物
四日目の朝、ようやく応急修理の終わったシュプルーデ橋を渡って先に進んだ。
二本のヘルチェ-ンに瓦礫の板を敷いただけなので、馬や荷馬車は通れないので諦めた者もいるが、シャイロック一人だけは居付いて商売を始めた。
「なかなか逞しい方でしたね」
エマの——逞しい——というのが三人共通の評価なんだが『逞しさ』の中身は微妙に違う。
エマは「お風呂屋さんを始めただけではなくて、みんなのお世話もしておられました。立派でございます」と手放しで褒める。じっさい、橋が渡れない大荷物の者からは荷物を買い取ってやったり。北の状況に怖れをなした者たちを風呂屋や付属の売店の従業員に雇ってやったりしている。それから、急いで川を渡ろうとして魔物に食われたり水に流されたりした者たちの慰霊のミサまでやった。
「あの尼さんもお残りになったんですねえ」
商売人のお祈りでは有難みが無いので、シャイロックは尼さんにミサを主催してもらっていた。目の前で亡くなった者たちの弔いだったので、みんな真剣にお祈りを捧げ、なかなか敬虔な雰囲気だった。
「あのまま、あそこで教会をお造りになるかもしれません。麗しいことです(^^)」と目をへの字にする。
ヒルデは「根っこのところは商売、自分の儲けだ。儲けの機を見る才覚は大したものだが、立場を変えれば……例えば軍を指揮させても相当な力を発揮するだろう。だが、勝利のためならばなにをやってもいいという功利主義的なものを感じる。シャイロックの勝利は儲けだ。儲けることに様々な装飾をしているに過ぎん」と一見、身もふたもない。
「ヒルデさまぁ」
「あ、すまんすまん。たしかに、あれで大勢の者が救われたり希望を繋いだりできたんだ、それについては大いに評価しているぞ。言い方が適切でなかったかもしれんな、許せ」
俺の評価は少し違う。彼が本当にヴェニスのシャイロックなら、心の淵はガイストターレンの谷よりも深いはずだ……まあ、ハンドルネーム的なものなら、それこそ、彼の逞しさの発露なんだろう。ふたりの思いを聞くだけにして、俺は街道の先に目を据えて前に進んだ。
先に進むと切通しの曲がり角で人だかりがしている。
「なにかあったんですか?」
河原の先行組の者たちだったんで、声をかけてみる。
「あ、勇者の皆さん、あれですよ」「むごいねえ……」「かわいそう……」
「ム、あれだ!」
ヒルデが先に見つけて指を指した。
切通しの上、雑木が密生しているところに人が引っかかっている。ピクリピクリと動いているところを見ると、まだ生きているように見える。
「先に渡った冒険者の人ですよ……」「魔物に襲われたんだろうねえ……」「助かるといいんだけど……」
「助けに行っているのか!?」
ヒルデが色を成した!
「はい、二人……」
「あれは囮だ!」
ヒルデが叫んで、俺と二人切通しの崖を上がる……くそ!
ク、なんということだ!
助けに行った者のうちの一人を含め三人が魔物に食われていた。一人は右手に剣を構え左手には火炎魔法の余熱を残して一匹の魔物と対峙している。もう一匹は枝の切れで死体をつついて動かしている。下の人間も呼び込んで餌にするつもりだったんだ!
「やるぞ!」「おお!」
ビシ! バシ! ズビュン!
ヒルデの声で剣を抜き、五匹いた魔物を数合でブチのめす!
魔物たちは待ち伏せに特化しているようで、下半身が樹叢に癒着している。樹叢の木々たちも魔物たちのおこぼれを養分にしているんだろう、やせ地や深海でみられる、一種の共生だ。
生き残った一人を助けて道に降りた。
「シュプルーデ川の北は過酷だ、自信のない者は戻った方がいいぞ」
犠牲者たちを弔ったあと、ヒルデが注意すると半分の者たちが引き返した。
「わたしたちは独自に進む、おまえたちも勝手にいけ」
ちょッと突き放した言い方。
分かる。ついてこられると足手まといになるからな。
そいつらも「こちらこそ!」と肩をいからせるが、俺たちが先に進む。
そいつらも顔には出さないが——助かった!——と思ったんだろう、文句も言わないで、俺たちに先を譲った。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
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