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18『相席』
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RE・かの世界この世界
018『相席』
B駅へ向かうために下りのホームへ。
B駅は下りの先頭方向に改札があるので、ホームの前の方、一両目の印があるところに立つ。
電車がやって来る上り方向を覗うと、三十年前のお母さんとお祖母ちゃんが現れた。
同じ電車に乗るんだ。
嬉しくなって少しだけ寄ってみる。
―― あの娘さんのお蔭ね ――
―― そうね、クーポン券、今日が期限。気が付かなきゃ、そのまま帰ってた ――
お母さんがヒラヒラさせているのは令和でもB駅近くにあるBCDマートだ。昭和六十三年だったら新規開店で間もないころかな。素敵な靴が手ごろな値段で手に入るので有名。三十何年後のお母さんもちょくちょく利用しているご贔屓の量販店だ。
ウキウキしているお母さんが新鮮で、わたしは、やってきた下り電車の一両隣の車両に乗った。
連結部分のガラス窓を通して―― お母さん可愛い ――くすぐったく見ているうちにB駅に着いてしまった。
改札の位置が違う。
三十年前のB駅は改装前で、改札に続く跨道橋は中央寄りにあった。
わたしは、お母さんとお祖母ちゃんの後姿を愛でながら改札を出た。
―― あ、クレープ屋さん! ――
お母さんがロータリー端っこに停まっているキッチンカーに気づいた。
女子高生らしい勢いで突進すると。十人ほどの列の最後尾について、お祖母ちゃんにオイデオイデをしている。
なんだか可愛い。あんな無邪気なお母さんは初めてだ。
おっと、ミカドを探さなきゃ。
首を半分回したところで発見。ロータリーに繋がる商店街の角に、これまた新規開店のミカドが見えた。
三十年後はたこ焼きのお店があるはずの場所だ。
先輩に言われた時間まで一分あるかないかで窓際のシートに座る。
わたしの後ろから入って来た学生風のお兄さんが―― おっと ――という感じで窓際の席を諦めて、奥の四人掛けに収まった。
ミカドは流行っているようで、カウンター以外の席は埋まってしまっている。
むろん窓際は四人掛けなので、その気になれば相席できる。満席に近いのに四人掛けを占拠していることに収まりの悪さを感じる。
オーダーした紅茶を待っているうちに営業見習いって感じの女性が入って来た。
「すみません、ここ、いいですか?」
わたしの四人掛けの向かいを指して笑顔を向けてきた。
「あ、ええ、どうぞ」
斜め前に座った見習女史は、ぶっといシステム手帳とA4の書類や紙袋やメモの束を出して仕事を始めた。
これなら四人掛けでなきゃならないはずだと納得。営業の仕事なんて分からないけど、令和だったら、スマホかタブレット一つで済むんだろうね。何の仕事だろう……紙袋から覗いているのは原稿用紙の束、色鉛筆で直しが入ってる……作家の原稿? 気が付いて「おっと」と呟いて紙袋の口を閉めた。置かれた手帳にはわたしでも知ってる作家の名前やら日程、時程が書き込まれて……出版社の編集見習い?
わたしも冴子も作家とかに憧れはあるけど、じっさいは出版社の編集とかに成れたら御の字とか思ってる。だけど、リアルの編集さんを目の前にすると、いや、これも大変な仕事だ……複数の作家の担当やって、やっと原稿もらって、社に帰るまでに、原稿のチェックやら仕事の段取りをつけてるんだ。
紅茶を飲み終えたころ、見習い女史は席を立ってカウンターのピンク電話に向かった。
ピンク電話の傍が、さっきの学生さん。
学生さんは、チラリと女史を見る。微妙に笑顔になった。
女子は電話が終わると「お邪魔してごめんなさい」。にこやかな笑みをコーヒー代といっしょに残して出て行った。
さあ、約束の三十分が過ぎた。わたしもお勘定を済ませてミカドを出る。
キキキーーーーグワッシャーーーーン!!
ロータリーの方でクラッシュ音。
セダンが歩道に乗り上げて、ベンチや花壇やらをなぎ倒し、バス停に激突して停まっている。
交通事故!?
愕然とした。
セダンの前方に、捻じれたように転がっているのはお母さん! お祖母ちゃんがへたり込んで呆然としている。
おい! 警察! 救急車! すごい血! だめかもな! 早く救急車!
目の前の風景が急速に色彩を失い、次に輪郭が無くなり、わたしは白い闇に投げ出されてしまった。
☆ 主な登場人物
寺井光子 二年生
二宮冴子 二年生、不幸な事故で光子に殺される
中臣美空 三年生、セミロングの『かの世部』部長
志村時美 三年生、ポニテの『かの世部』副部長
018『相席』
B駅へ向かうために下りのホームへ。
B駅は下りの先頭方向に改札があるので、ホームの前の方、一両目の印があるところに立つ。
電車がやって来る上り方向を覗うと、三十年前のお母さんとお祖母ちゃんが現れた。
同じ電車に乗るんだ。
嬉しくなって少しだけ寄ってみる。
―― あの娘さんのお蔭ね ――
―― そうね、クーポン券、今日が期限。気が付かなきゃ、そのまま帰ってた ――
お母さんがヒラヒラさせているのは令和でもB駅近くにあるBCDマートだ。昭和六十三年だったら新規開店で間もないころかな。素敵な靴が手ごろな値段で手に入るので有名。三十何年後のお母さんもちょくちょく利用しているご贔屓の量販店だ。
ウキウキしているお母さんが新鮮で、わたしは、やってきた下り電車の一両隣の車両に乗った。
連結部分のガラス窓を通して―― お母さん可愛い ――くすぐったく見ているうちにB駅に着いてしまった。
改札の位置が違う。
三十年前のB駅は改装前で、改札に続く跨道橋は中央寄りにあった。
わたしは、お母さんとお祖母ちゃんの後姿を愛でながら改札を出た。
―― あ、クレープ屋さん! ――
お母さんがロータリー端っこに停まっているキッチンカーに気づいた。
女子高生らしい勢いで突進すると。十人ほどの列の最後尾について、お祖母ちゃんにオイデオイデをしている。
なんだか可愛い。あんな無邪気なお母さんは初めてだ。
おっと、ミカドを探さなきゃ。
首を半分回したところで発見。ロータリーに繋がる商店街の角に、これまた新規開店のミカドが見えた。
三十年後はたこ焼きのお店があるはずの場所だ。
先輩に言われた時間まで一分あるかないかで窓際のシートに座る。
わたしの後ろから入って来た学生風のお兄さんが―― おっと ――という感じで窓際の席を諦めて、奥の四人掛けに収まった。
ミカドは流行っているようで、カウンター以外の席は埋まってしまっている。
むろん窓際は四人掛けなので、その気になれば相席できる。満席に近いのに四人掛けを占拠していることに収まりの悪さを感じる。
オーダーした紅茶を待っているうちに営業見習いって感じの女性が入って来た。
「すみません、ここ、いいですか?」
わたしの四人掛けの向かいを指して笑顔を向けてきた。
「あ、ええ、どうぞ」
斜め前に座った見習女史は、ぶっといシステム手帳とA4の書類や紙袋やメモの束を出して仕事を始めた。
これなら四人掛けでなきゃならないはずだと納得。営業の仕事なんて分からないけど、令和だったら、スマホかタブレット一つで済むんだろうね。何の仕事だろう……紙袋から覗いているのは原稿用紙の束、色鉛筆で直しが入ってる……作家の原稿? 気が付いて「おっと」と呟いて紙袋の口を閉めた。置かれた手帳にはわたしでも知ってる作家の名前やら日程、時程が書き込まれて……出版社の編集見習い?
わたしも冴子も作家とかに憧れはあるけど、じっさいは出版社の編集とかに成れたら御の字とか思ってる。だけど、リアルの編集さんを目の前にすると、いや、これも大変な仕事だ……複数の作家の担当やって、やっと原稿もらって、社に帰るまでに、原稿のチェックやら仕事の段取りをつけてるんだ。
紅茶を飲み終えたころ、見習い女史は席を立ってカウンターのピンク電話に向かった。
ピンク電話の傍が、さっきの学生さん。
学生さんは、チラリと女史を見る。微妙に笑顔になった。
女子は電話が終わると「お邪魔してごめんなさい」。にこやかな笑みをコーヒー代といっしょに残して出て行った。
さあ、約束の三十分が過ぎた。わたしもお勘定を済ませてミカドを出る。
キキキーーーーグワッシャーーーーン!!
ロータリーの方でクラッシュ音。
セダンが歩道に乗り上げて、ベンチや花壇やらをなぎ倒し、バス停に激突して停まっている。
交通事故!?
愕然とした。
セダンの前方に、捻じれたように転がっているのはお母さん! お祖母ちゃんがへたり込んで呆然としている。
おい! 警察! 救急車! すごい血! だめかもな! 早く救急車!
目の前の風景が急速に色彩を失い、次に輪郭が無くなり、わたしは白い闇に投げ出されてしまった。
☆ 主な登場人物
寺井光子 二年生
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