かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
33 / 230

33『ゆるキャン△とツインテールの戒め』

しおりを挟む
RE・かの世界この世界

033『ゆるキャン△とツインテールの戒め』  




 無辺街道の真ん中に至り、五十坪ほどの草原でキャンプを張った。


 ブリが魔法でテントを出してくれた。

「キャンピングカーがいいのにぃ」

 ケイトが口を尖らせる。

「もんく言うなあヽ(`Д´)ノ!」

「いいじゃないか『ゆるキャン△』の雰囲気で、わたしは好きだぞ」

「あ……そう言えばそんな感じ」

 ケイトは暗示に弱い。


『ゆるキャン△』の雰囲気に納得させてキャンプ飯。食べ終わると、とても『ゆるキャン△』的な境遇ではないことが夜露と共に沁みてくるので、そそくさと寝ることにする。

 少しは微睡んだが、なんせ一人用のテントに三人。体が痛くなってくる。それでも露天よりはましと膝を抱えると、テントの隙間からこぼれ入る月光が頬をくすぐって目が覚めてしまう。

 傍らではケイトが女を捨てたような姿で寝息を立てている。

「あられもない……」

 おっぴらげた脚を閉じてやり、右を下にした姿勢に変えてやる。これなら多少はましになるだろう。

 キリ キリキリ キリ……

「ひどい歯ぎしりだなあ」

 顎をグリグリして歯ぎしりを止めてやる。

 PU~~~~~~~

 こんどはオナラだ。

「ほんと、まるで男だ……って、本来は男だったよな……なんだか忘れかけてる……名前は? ケイト……いや、ケントだったか……字は? 思い出せない……記録しておいた方がいいな」

 右手を目の高さにもってきてウィンドを開く。

「ケイトは……」

 記録しようとしたら、テントの外でカサリと音がする。

「なんだ?」

 後ろで寝ているはずのブリに目をやると、姿がない。

 起きたのか?

 テントの外に出ると、月を仰いでシルエットになっているブリ。



「ブリも眠れないのか?」



 声を掛けると、小さな肩がピクリとした。

「テル(てりゅ)か……ケイトは?」

「ああ、素敵な寝相で眠って……」

 たったいま、ケイトについて大事なことをメモしようとしていた……だが思い出せない。

 まあいい、いまはブリだ。

「テル(てりゅ)にだけは伝えておきたいことがありゅのだ」

「なんだ、改まって?」

「ツインテールを解いてくれにゃいか」

「じぶんで解けばいいだろ、リボンの端を引っ張ればいいだけのことだ」

「バトル以外自分では解けにゃい、ツインテールは主神オーディンの戒めらのりゃ」

「そか、分かった」

 ブリの後ろに迫り、胸の高さにある頭のリボンを解いてやる。

 
 ガキ!! 

 イテ!!

 
 いきなり顎に衝撃が来て目から星が出る。

「お、おまえ……!?」

 後姿のブリは、わたしと背丈が変わらなくなっていた。急に伸びた勢いでブリの頭がわたしの顎を直撃したのだ。

 ブロンドのロンゲをサワサワとなびかせつつ振り向いたブリ。

「な、なんちゅう美少女……」

「これが本来の姿だ。主神オーディンはツィンテールの戒めで、わたしを無辺街道に閉じ込めたのだ」

「オーディンの怒りに触れるようなことをしたのか?」

「詳しくは申せぬが、まあ、そういうことだ。ここまでの無辺街道は、わたしのための牢獄。これから先の無辺街道は、そのわたしを見張る獄卒たちのテリトリー。ここから先、わたしの力は限定的になる。それを承知で旅立ってほしいのだ」

「それは、遠まわしに――自分のことは自分でやれ――ということだな」

「むろん、わたしも力は尽くす。ただ、ここを超えればお尋ね者の脱獄囚であるから」

「……その脱獄の手伝いをする覚悟も持てということか」

「いやなら、わたしを置いて二人だけで旅立て。そのことを、テルにだけは伝えておきたかったのでな」

「わかった。これもなにかの縁だ、よろしく頼むよ」

 握手しようと手を出すと、ブリは一瞬ためらった。

「どうした?」

「もう一つ……とりあえずの目的地をヴァルハラに定めてはもらえぬだろうか」

「ブァルハラ……主神オーディンの居城だな」

「ああ、そうだ」

「……わかった、いいだろう」

 詳しくは聞かなかった、言える範囲なのだろうが、ブリは正直に話してくれた。それを持って了として、あらためて握手した。

「かたじけない、それでは、改めてツインテールにしてくれ、オーディーンの戒めを解いては旅ができぬからな」

「わかった、後ろを向け」

 艶やかなブロンドを愛しむように櫛けずってやって二つのリボンを結んでやる。

 音もなく背が縮んでいく……が、元の四五歳の背丈ではなかった。十二三歳の中一くらいの少女になった。

「オーディンほどではないが、どうやら、テルにも立派な魔力があるようだな」

「そうなのか?」

「この背丈に縮んだだけで済んでおる」

「わたしの力なのか?」

「ああ、なんというか……前に進む力とでも言おうか」

「そ、そうか……」

 ケイトと三人並んだら、いい組み合わせになりそうだ……そう感じて月を見上げた。



☆ ステータス

 HP:200 MP:100 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)
 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル
 装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

☆ 主な登場人物

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる
 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 ペギー        峠の万屋
 二宮冴子       二年生、不幸な事故で光子に殺される
 中臣美空       三年生、セミロングの『かの世部』部長
 志村時美       三年生、ポニテの『かの世部』副部長 
   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...