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40『噴水の縁に腰掛ける』

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RE・かの世界この世界

40『噴水の縁に腰掛ける』  

 


 あれだけ寄って来た子どもたちが見向きもしない。

 無辺街道で出くわしてから、ずっと『ブリ』と呼んでいるが、それは、ただの短縮形、あるいは愛称だ。

 正しくはブリュンヒルデで、厳密にはブリュンヒルデ姫。呼びかける時は『殿下』あるいは『ユアハイネス』を付けなければならない。

 囚われの身であることを考慮しても、最低『様』は付けなければならないだろう。

 トール元帥が『ュンヒルデ』を取ったのは、ヴァルハラに着くまでの心得くらいに思っていたのだが、本営を出てからのムヘンブルグの人たちは一向に関心を示さない。

「たいした力なのだなあ、トール元帥は」

「これなら、ブァルハラに着くまで誰にも気づかれないかもね。元帥はおっかなかったけど、ちゃんとブリのこと思ってくれてるんだね( ´∀` )」

 ケイトは、早くも目的を果たしたかのように気楽になっている。

「ムヘンブルグの先は分からない」

 タングリスは、おだやかに言うが、ずっとポーカーフェイスだ。

 で、肝心のブリは、なにやらキョロキョロ。揺れているツインテールがまでが触覚かレーダーアンテナになって探っているように見えてくる。

「ちょっと買い物をしてくるぞ」

「買い物?」

「勇者の旅立ちには必要なものがあるのだ」

「あまり荷物にならないように願います」

「分かっておるわ」

 タングリスの忠告をテキトーに聞いてバザールの方へ駆けていくブリ。まるで、これから遠足にいく小学生のようだ。

「テル、わたしも行きたい!」

「いいけど、お金持ってないだろが」

「勇者の旅立ちへの喜捨は功徳があるとされています。弓はもって行ってください、ケイトが勇者である証ですから」

「うん、分かった! おーい、ブリ! わたしも行くぞーーー!」

「二人とも、おやつは300円までなあーー」



 半ば冗談のような注意をして、わたしとタングリスは、バザール手前の広場で待つことにした。

 

 広場は、心持ち周囲よりも小高くなっていて、バザールやら居住区が小間物屋さんの陳列棚のように見える。

 折しも、秋の日差しが傾き、穏やかなオレンジ色に陳列棚を染め始めている。

「しっかり味わってください。こんな、世界の平和が約束されたような穏やかさは、当分は味わえませんからね」

「ああ、そうさせてもらうよ……」

 思えば、始まりの草原に立って以来、ブリのテントでまどろんだ以外は、緊張の連続だった。

 二人で噴水の縁に腰掛けると、噴水の水音とバザールのさんざめきにうつらうつらしてくる。

 
 キャラキャラキャラ……

 
 居住区に隣接する警備隊屯所の方角から、石畳をこすりながら近づいてくる音につかの間の微睡みが霧消してしまった。

 

☆ ステータス

 HP:250 MP:150 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)
 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル
 装備:トールソード 剣士の装備レベル1  トールボウ 弓兵の装備レベル1

☆ 主な登場人物

    テル(寺井光子)        二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)      今度の世界の照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる
 ブリ              ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス              トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
 タングニョ-スト        トール元帥の副官 タングリスと共にブリの世話係
 トール元帥           主神オーディンの将軍
 ペギー            峠の万屋
 二宮冴子           二年生、不幸な事故で光子に殺される
 中臣美空           三年生、セミロングの『かの世部』部長
 志村時美           三年生、ポニテの『かの世部』副部長 
   
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