かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお

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143『ユグドラシルを目指して・1』

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RE・かの世界この世界

143『ユグドラシルを目指して・1』タングリス 

 


 ロキの元気がない。

 
 ひとり、船尾の手すりに寄り掛かってウェーキ(船の航跡)ばかり見ている。

 ウェーキと言っても時間が停まっているので、ほんの十メートルほどで立ち消えているのだが、見てさえいればウェーキが伸びて、自分の記憶も戻るのではないかと祈っているようにも感じられる。

 
 トール元帥がパラノキアとクリーチャーを引き受けてくださったので、やっとユグドラシルを目指して進めるようになった。

 
 しかし、いざ目指すことになると、ユグドラシルについての知識が致命的に乏しいことに気づいた。四号の乗員の誰もユグドラシルには行ったことが無いのだ。

 島の中央には世界樹ユグドラシルが生えていて、その麓の泉には時を司る三姉妹の女神が住んでいる。

 過去を司る長女のウルズ  現在を司る次女のヴェルサンディ  未来を司るスクルド

  ヘルムの守護神ヤマタが力を失って、それを補うためにヴェルサンディだけは姿を現したが、ウルズ、スクルドは消息不明だ。

 
 だからロキに聞いてみた。

 
 ロキはウルズの子どもなのだ。この旅の目的の一つがロキを母親の元に帰すことだった。先の大戦で戦災孤児になったロキはシュタインドルフの孤児院に従弟妹のフレイ・フレイア共々預けられていた。狭い四号に三人は乗せられないので、とりあえずロキ一人を預かったのだ。

 しかし、ロキが母親とはぐれたのは、ほんの幼児のころだ。

「うん、ユグドラシルというのはね、大きな泉があって、お母さんや叔母さんが水を汲んではユグドラシルの樹にやるんだ。空気は澄んで、小鳥たちは夜明けとともに囀りだして、オレたちに『早く遊びに出ておいで』って呼びかけるんだ。お母さんは長女だから、一番ユグドラシルの幹に近いところに住んでいて、ユグドラシルに水をあげたあとは、オレの事を抱っこして、ゆっくりユグドラシルの見回りをするんだ。所々に休憩するところがあって、遅れてやって来る叔母さんたちと待ち合わせ、その日一日の予定を話し合ったりしてね、ブルーベリ-とかストロベリーとかが実っていたりしたらジュースにして飲ませてくれたりしたんだ(^▽^)」

 楽し気に話してはくれるのだが、では、そこに行くにはどこを通ればいいのか?

「えと……えと……それはね……(-_-;)」 

 肝心なことを聞くと、ロキは答えられない。

 ヴァィゼンハオスで、フレイとフレイアと喋っているうちに故郷ユグドラシルの思い出が出来あがってしまったのではないだろうか。バイゼンハオスに引き取られたのはほんの赤ちゃんのころだ。

 毎日話しているうちに、ほんとうにそうであったかのように思い込んでしまい。行き方や詳しい様子を聞いてみると詰まってしまって、なにも答えられなくなる。

 そして、自分は何も知らないことに気づいて、落ち込んで、短すぎるウェーキを見ているというわけだ。



「でも、世界樹っていうくらい大きいんだったら、かなり遠くからでも見えるんじゃない?」



 ケイトが気楽に言う。

 ちょっと唖然だ。

「ユグドラシルというのはよほど近くに寄らなければ目には見えないものなのだぞ」

「そうなの?」

「それに島はね、世界樹ユグドラシルの根が絡まったもので出来ていて浮かんでいるだけのものだから、ヘルムの島のように一定のところには居ないのよ」

 ユーリアが補足してくれる。

 姫とわたしは――そういうものだろう――とイメージが湧くのだが、テルとケイトは少し置いてけぼりを食った表情をしている。

「世界の中心はオーディンの住むブァルハラとかじゃないの?」

「世界の軸がもう一本あるということなのか?」

 思い出した、ケイトとテルは異世界の住人なのだ。この数か月の旅で完全に仲間になってしまったのだが、この世界では微妙に常識が違うはずだ。

 はてさて、取りあえずはチームワークの醸成であろうか。

 気づくと、ポチが寄り添って元気づけてくれている。

 日が暮れることのない航海だが、夕飯までには元気になってくれるだろう。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


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