かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
200 / 230

201『鬼ノ城・3』

しおりを挟む
かの世界この世界

201『鬼ノ城・3』テル





「あ……いや……あなた方でしたか……」


 解れるように太刀先を下ろしたのは、ついさっきカーラジオで消息を聞いたばかりの屋島の英雄だ。

「与一さん、どうしてここに……」

「あ、いやはや、お恥ずかしい」

 あまりのことに、わたしの言葉に続く者はいない。イザナギさんでさえ、意外な再会に目を丸くしている。

「事情があるようだな。ここで会ったのもなにかの縁だ、よかったら聞かせてくれ」

 最初に口を開いたのはヒルデだ。

 自分自身ラグナロクに向けて悩み多いヴァルキリーの姫騎士、屋島の英雄に想いを重ねるところがあるんだろう。

「お恥ずかしい話ですが、壇ノ浦から逃げてきました」

「逃げてきただって!?」

「!?」

 子ども二人の目が三角になる。

 イザナギさんが二人の後ろにまわり、そっと抱き寄せた――こういう時は、そっと話を聞け――という姿勢だ。この神さまは、学校の先生に向いているのかもしれない。

「屋島でもお話しましたが、わたしには十人の兄が居ります」

 そうだ、与一という名前の由来は十一男という意味なんだ。

 落語風に言うと与太郎で、日本人にはこちらの方が通りがいいが、ひとかどの侍としては間が抜けすぎている。

 それで、ちょっと工夫して『与一』という、ちょっとカッコいい名乗りにしたんだ。

 おそらくは、那須の大田舎から出征するにあたり、母親がそう名乗るように言ったんだろう。

「兄たちは、ことごとく平家の郎党です。わたしのことなど眼中にない兄たちでしたが、その兄たちが、こぞって平家に与力するように言ってくるのです。一番上の兄などは、すでに平家の敗北を予見して『いざという時は、与一の才覚で一家の存続と繁栄を計れ』と申してきました」

「板挟みなのだな……」

「悪目立ちしすぎました。源氏の方でも――与一に一方の大将を任せてみては――という推挙の声も上がりました」

「うむ、それは頷ける。与一には人気と時の運がついている。それに、その謙虚な姿勢。武将として並みの力を持っていれば、壇ノ浦でも名前に相応しいだけの手柄は立てられるだろう」

「ご推挙の先頭に立っておられたのは梶原景時殿、景時殿は源氏の軍監です。梶原殿は鎌倉殿の軍監として義経様のお手柄を快く思ってはおられません」

「それで、逃げてきたっていうのかよ!」

「最後まで聞きなさい、桃太郎二号くん」

「御大将、義経様にも相談いたしましたが『与一君の良いようにしたらいい』とおっしゃいます」

「それは……与一がどちらに付こうと自分の勝利に変わりはない……義経の自信の現われだな?」

「義経様は『どちらに付こうと、与一君が扇の的を落として源氏の意気を高めてくれた手柄は古今無双だ。それだけで、那須の本領を安堵してお釣りが出る』とおっしゃいました」

「そうか」

「そして『与一、君は鎌倉で軍団を結成して以来一日も休暇を取っていないなあ、有給休暇溜まりまくってるから、ちょっと休暇をとればいいよ。去年の使い残しも含めて40日。それだけあれば、壇ノ浦なんて片付いてしまう。都の凱旋パレードには出て欲しいかなぁ。よし、たった今から与一は休暇だ!』と笑って送り出してくださいました」

「タイプは違いますが、トール元帥がおやりになりそうな気配りです」

「そうだな、爺の若いころはそんなだったかもしれんな……しかし、だったら、なんで、こんな鬼ノ城で身を隠しているんだ?」

「わたしのことを快く思わない者が、源平双方に居ります。先に陣を畳んで戻るのは、なにか企んでいるに違いないと邪推され、追手を差し向けられて……いやはや、これも与太郎の浅はかさ、考えの及ばぬところでした……しかし、まあ、良いのです。この身はどうなろうと、手柄は手柄、那須の領地と母の暮らしはなんとかなるでしょう」

 なんとか微笑もうとするが、目に光が灯らない。ちょっと痛々しい。

「なるほどなるほど……そういうことだったのか……」

 一通りの事情を聞くと、ヒルデは「うぅ~~~ん」とノビをして与一さんの方に顔を向けた。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・500 マップ:30 金の針:100 福袋 所持金:440000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎二号 因幡の白ウサギ

 
 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...