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231(最終回)『 また明日』
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RE・かの世界この世界
231(最終回)『 また明日』テル
「アハハ、嘘よ、嘘(*^ω^*) 」
目をへの字に、口をωにする美空先輩。
清楚で真面目一方の先輩が、こんなお道化た表情をするのは初めてなので、この表情だけで上手くいったんだと分かった。
「もー、先輩」
「ごめんごめん、時美はね、あそこ」
先輩が指差したのは模式図の左側、ちょっと不安定でチラチラしているやつだ。
「あそこって……」
「うん、なんとか峠は越えたし、ミッチャン一人に任せておくのも申し訳ないって……」
「一人で飛び込んだんですか?」
「うん、時美、ベテランだしね。心配ないわよ」
「そうだったんですか」
安心した。
でも、ちょっと申し訳ない。
ムヘンと日本神話と二つの異世界を経巡って、どちらも完全には取り戻せてはいない。もう一度あの世界に戻れと言われたら、正直、尻餅ついて立ち上がれないだろう。
それに、あの、キリリとした時美先輩なら大丈夫だろうし。
頭を切り替えた。
「ちょっと、外に出てきます」
「それなら、もう帰った方がいいわよ。わたしも、ミッチャンが元気になったら帰るつもりでいたから」
そうだ、先輩は丸二日、わたしに付き添ってくれていたんだ。
「じゃあ、いっしょに」
「ありがとう、でも後始末があるから、構わないで先にいって」
「そうですか、それでは、お先に失礼します」
お茶のお点前みたいにお辞儀をして、部室を、旧校舎を出た。
日差しが傾き始めた中庭は、大団円を予感させるように、微かにセピアが混じる。校舎も木々も草花も穏やかに影を伸ばし、飛行機雲は風に千切れてfineの崩し文字を描きそう。
なべて世はことも無し。
「「ワ!」」
中庭を出てピロティーに向かおうとしたら、校舎の向こうから急に人が出てきて、互いにビックリ!
「光子ぉ、もう捜したんだからねぇ」
「さ、冴子……」
「もう、カバンほっぽり出していっちゃうんだもん。ホレ」
グイッとカバンんを押し付ける。
見ると、冴子はカバンの他にサブバッグと傘を持っている。
あの時、階段を転げ落ちて胸を貫いた、あの傘……ちょっと頬が引きつる。
「そんな呪物を見るような目で見ないでよ。てっきり夕方からは雨だと思ったのよ。天気予報も当てにならない、ほら、天気予報、まだ雨のままだよ」
スマホのお天気画面を見せる冴子。
「あれ、マチウケ変えたの?」
冴子のは、高校に入って以来、和風アニメの『まほろば戦記』のキャラだった。新キャラが出るたびに変更してお守りのようにしていた。
「なに言ってんの、そんなのは一年で卒業。来年は、もう三年なんだしさ、いつまでも成ろう系やってらんないって、光子が言い出したんじゃない」
「え……」
言われて、自分の心を探る。
ブリュンヒルデ……トール……ラグナロク……主神オーディン……タングリスとタングニョ-スト……世界樹ユグドラシル……懐かしい単語とイメージがフワフワ浮んでは消えていく。
なにかの拍子で、熱中したアニメとか思い出して――そんな時代もあったんだ――と、瘡蓋をカリカリ触ったような感覚。
「あ、ヤックンだ……」
冴子が呟いたのは、降りたばかりのローカル、二両前に乗り込むヤックンに気が付いたんだ。
電車のドアは『ドアが閉まります』のアナウンスのと共に閉まって、発車ベルが鳴って、ゴミ収集車が次に行くような感じでローカルは出て行った。
「ヤックンも大変ねえ……ね、光子」
「あ、え?」
「神社、工事中だからさぁ、お神楽の練習市民会館でやってるそーよ。交通費は出るらしいけど大変ねえ、去年で終わってて正解だったねぇ、うちらは」
お神楽しなくていいんだ……それに『ヤックン』ていう冴子の声にはお友だち以上の熱が無い。
まあ、いいか。
とにかく、平和なリアルに戻ってきたんだ。
これが、わたしのリアルなんだ。
微妙な寂しさはあるけど、それは、レールの彼方、カーブを曲がって姿を消そうとしているローカルのお尻を見ているせいだろう。
ゴロゴロゴロ……
ローカルが曲がった向こうで雷が鳴った。
「お、天気予報当たったじゃん」
「でも、こっちに来る頃には家についてるね」
ヤックンは傘を持っていなかった。
でも、あいつはモテるから、きっと大丈夫。
改札を出ると、ロータリーの信号が点滅。
冴子は――エイ!――と渡って、わたしは渡れなかった。気の早い軽自動車が動き出していたからね。
「先に行ってぇ!」
手をメガホンにして叫ぶと、冴子は傘を振って行ってしまった。
うん、どうせ信号を渡ったら家は逆方向。『また明日』とか言って分かれるんだもんね。
RE・かの世界この世界 第一期 終わり
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
ペギー 異世界の万屋
ユーリア ヘルム島の少女
その他 フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
日本神話の神と人物 イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
231(最終回)『 また明日』テル
「アハハ、嘘よ、嘘(*^ω^*) 」
目をへの字に、口をωにする美空先輩。
清楚で真面目一方の先輩が、こんなお道化た表情をするのは初めてなので、この表情だけで上手くいったんだと分かった。
「もー、先輩」
「ごめんごめん、時美はね、あそこ」
先輩が指差したのは模式図の左側、ちょっと不安定でチラチラしているやつだ。
「あそこって……」
「うん、なんとか峠は越えたし、ミッチャン一人に任せておくのも申し訳ないって……」
「一人で飛び込んだんですか?」
「うん、時美、ベテランだしね。心配ないわよ」
「そうだったんですか」
安心した。
でも、ちょっと申し訳ない。
ムヘンと日本神話と二つの異世界を経巡って、どちらも完全には取り戻せてはいない。もう一度あの世界に戻れと言われたら、正直、尻餅ついて立ち上がれないだろう。
それに、あの、キリリとした時美先輩なら大丈夫だろうし。
頭を切り替えた。
「ちょっと、外に出てきます」
「それなら、もう帰った方がいいわよ。わたしも、ミッチャンが元気になったら帰るつもりでいたから」
そうだ、先輩は丸二日、わたしに付き添ってくれていたんだ。
「じゃあ、いっしょに」
「ありがとう、でも後始末があるから、構わないで先にいって」
「そうですか、それでは、お先に失礼します」
お茶のお点前みたいにお辞儀をして、部室を、旧校舎を出た。
日差しが傾き始めた中庭は、大団円を予感させるように、微かにセピアが混じる。校舎も木々も草花も穏やかに影を伸ばし、飛行機雲は風に千切れてfineの崩し文字を描きそう。
なべて世はことも無し。
「「ワ!」」
中庭を出てピロティーに向かおうとしたら、校舎の向こうから急に人が出てきて、互いにビックリ!
「光子ぉ、もう捜したんだからねぇ」
「さ、冴子……」
「もう、カバンほっぽり出していっちゃうんだもん。ホレ」
グイッとカバンんを押し付ける。
見ると、冴子はカバンの他にサブバッグと傘を持っている。
あの時、階段を転げ落ちて胸を貫いた、あの傘……ちょっと頬が引きつる。
「そんな呪物を見るような目で見ないでよ。てっきり夕方からは雨だと思ったのよ。天気予報も当てにならない、ほら、天気予報、まだ雨のままだよ」
スマホのお天気画面を見せる冴子。
「あれ、マチウケ変えたの?」
冴子のは、高校に入って以来、和風アニメの『まほろば戦記』のキャラだった。新キャラが出るたびに変更してお守りのようにしていた。
「なに言ってんの、そんなのは一年で卒業。来年は、もう三年なんだしさ、いつまでも成ろう系やってらんないって、光子が言い出したんじゃない」
「え……」
言われて、自分の心を探る。
ブリュンヒルデ……トール……ラグナロク……主神オーディン……タングリスとタングニョ-スト……世界樹ユグドラシル……懐かしい単語とイメージがフワフワ浮んでは消えていく。
なにかの拍子で、熱中したアニメとか思い出して――そんな時代もあったんだ――と、瘡蓋をカリカリ触ったような感覚。
「あ、ヤックンだ……」
冴子が呟いたのは、降りたばかりのローカル、二両前に乗り込むヤックンに気が付いたんだ。
電車のドアは『ドアが閉まります』のアナウンスのと共に閉まって、発車ベルが鳴って、ゴミ収集車が次に行くような感じでローカルは出て行った。
「ヤックンも大変ねえ……ね、光子」
「あ、え?」
「神社、工事中だからさぁ、お神楽の練習市民会館でやってるそーよ。交通費は出るらしいけど大変ねえ、去年で終わってて正解だったねぇ、うちらは」
お神楽しなくていいんだ……それに『ヤックン』ていう冴子の声にはお友だち以上の熱が無い。
まあ、いいか。
とにかく、平和なリアルに戻ってきたんだ。
これが、わたしのリアルなんだ。
微妙な寂しさはあるけど、それは、レールの彼方、カーブを曲がって姿を消そうとしているローカルのお尻を見ているせいだろう。
ゴロゴロゴロ……
ローカルが曲がった向こうで雷が鳴った。
「お、天気予報当たったじゃん」
「でも、こっちに来る頃には家についてるね」
ヤックンは傘を持っていなかった。
でも、あいつはモテるから、きっと大丈夫。
改札を出ると、ロータリーの信号が点滅。
冴子は――エイ!――と渡って、わたしは渡れなかった。気の早い軽自動車が動き出していたからね。
「先に行ってぇ!」
手をメガホンにして叫ぶと、冴子は傘を振って行ってしまった。
うん、どうせ信号を渡ったら家は逆方向。『また明日』とか言って分かれるんだもんね。
RE・かの世界この世界 第一期 終わり
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
ペギー 異世界の万屋
ユーリア ヘルム島の少女
その他 フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
日本神話の神と人物 イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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