せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
61 / 432

061『めっさ、縁起悪い』

しおりを挟む
せやさかい

061『めっさ、縁起悪い』 

 

 
 ベキボキ!

 この世界に背骨があったとしたら、まさしく、その背骨が複雑骨折したような音がした。

 
 お父さんが帰ってこーへんようになって一か月ほどのころ、お母さんも帰りが遅なって、夕暮れの寂しさから泣いてしもたことがあった。お昼寝から目が覚めたら、リビングのソファーに一人寝かされてて、灯りも点いてへんかった。

「お母さん……」

 お母さんもおらんようになった……そない思たら、ものすごい怖なって、泣きだしたら止まらんようになってしもた。
 やっと、お母さんが帰ってきて、うちはお母さんに飛びついて泣きじゃくった。

「ごめんな、さくら、よう寝てたから、ほんのちょっとの間や思て、仕事の打合せいってた、かんにんな、かんにんな……」

 ギューって、抱っこしてくれて、ようやく落ち着いたら。お母さんがくれた筆箱。

「これ、お母さんが小学校入る時に、お婆ちゃんがくれてん。世界で一番丈夫な筆箱。象さんが踏んでも壊れへんねんで。お母さん、もったいないから一回も使わんとおいといてん、これあげるさかい」

 桃色で、真ん中にお姫様の笑顔。
 お母さんが、床に置いて踏んだけどビクともせえへんかった。むろん、あたしが踏んでも。
 お気にやったんで、筆箱としては使わんと、お守りとか入れる宝箱に使ってた。
 夕べ、部屋の片づけしてたら出てきて、しみじみしてたら、そのまんま寝てしもた。
 目覚ましで起きて、ベッドから下りたとこで、その筆箱を踏んでしもた。

 

 え、ええーーーー!?

 

 めっさ、縁起悪い。
 お姫様の顔をバラバラにして、筆箱は割れてしもてた!
 涙チョチョ切れる! せやけど、かもてられへん。

 急いで身支度!

 スカートを手に取って――あ、これやない――
 夕べ、片づけの最中にコーヒーをこぼしてしもた。
 そんで、予備のスカートを出してた。
 予備と言うのは、お母さんが履いてたやつで、うちの中学は制服そのままやから、予備に置いといたんや。

 
 ブツ!

 
 ウ、ホックがはじけ飛んだ!

 入学式の前に確認した時は、楽々穿けたのに。

「ことはちゃ~ん!」

 向かいの部屋のコトハちゃんに声をかけるが、コトハちゃんは、もう出てしもたあと。
 たとえ従姉でも、勝手に入ってタンスやらクローゼットをあさるわけにはいかへん。

 仕方ないんで、安全ピンで止めて学校へ。

 歩きながら思た……エディンバラでもヤマセンブルグでもご飯は美味しかった。
 十三歳の中一女子は、色気よりも食い気や。それに、あたしは食べても太らんたちやから、油断してたかなあ。

 
「それは違うわよ」

 
 部活のティータイム。「あ、今日はスコーンはええですわ」と遠慮したことで、頼子さんに問い詰められた。
 それで、説明すると、頼子さんはキッパリと言うた。友だち思いの留美ちゃんは笑いをこらえてる。

「それはね、さくらが成長したからよ。中学生になったし、ちょっとずつ女らしい体に成長してるのよ」
「そやかて、筆箱は?」
「強いと言っても、プラスチックでしょ。経年劣化というやつで、十年も経ったら脆くなるわよ」

 そ、そうやったんか。

「そうだ、隣が保健倉庫だから……」

 頼子さんの提案で、隣の保健倉庫に入って、文芸部三人だけの発育測定を行った。
 結果、あたしは、身長が1・5センチ、体重は、なんと1キロ増えてただけ。
 さすが、頼子さんの目は確かや!

「じゃ、ここも計っとこ!」

 それが、余計やった。

 あたしのバストは1センチ縮んでた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

親愛なる後輩くん

さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」 雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。 同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。 さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。

それぞれの道

真田直樹
現代文学
主な登場人物 藤川優斗(ふじかわ ゆうと) 高校野球部ショート。堅実な守備と冷静な判断力が武器。チームの精神的支柱。 丹羽雅人(にわ まさと) 野球部エースピッチャー。豪速球と強気の性格。優斗とは中学からの親友。 尾上紀子(おのえ のりこ) 吹奏楽部トランペット担当。県大会常連校の中心メンバー。優斗に密かな想い。 富田さゆり(とみた さゆり) 演劇部。表現力が高く、舞台では別人のようになる。クラスのムードメーカー。

漆黒の闇から

一宮 沙耶
ホラー
邪悪な霊が引き起こす事件の数々 若い頃から霊が見え、精神を病んでいた私が事件を解決していく ただ、自分も黄泉の世界に巻き込まれてしまう

幼き改革者、皇孫降臨 〜三歳にして朝廷を震わせる〜

由香
キャラ文芸
瑞栄王朝の皇孫・凌曜は、わずか三歳。 泣かず、騒がず、ただ静かに周囲を見つめる幼子だった。 しかしその「無邪気な疑問」は、後宮の不正を暴き、腐敗した朝廷を揺るがしていく。 皇帝である祖父の絶対的な溺愛と後ろ盾のもと、血を流すことなく失脚者を生み、国の歪みを正していく凌曜。 やがて反改革派の最後の抵抗を越え、彼は“決める者”ではなく、“問い続ける存在”として朝廷に立つ。 これは、剣も権謀も持たぬ幼き改革者が、「なぜ?」という一言で国を変えていく物語。

処理中です...