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093『はじめてのおつかい』
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せやさかい
093『はじめてのおつかい』
今日は文芸部の活動は無い。
お祖母さまが来日する件で頼子さんが学校を休んでる。
来日されるのは来月やけど、準備やら打合せやらで東京の大使館に行ってる。
なんちゅうてもお祖母さまはヤマセンブルグの女王陛下、頼子さんは二重国籍の状態とは言えヤマセンブルグの王位継承者、つまり王女様。「やあ、お祖母ちゃん!」「あら、頼子!」てな具合にはいかんのんやそうです。
じゃ、あたしも……留美ちゃんは病院の定期検診に行ってる。
残ったわたしは、一人で部活やっても仕方がない。なんせ、部室はうちの本堂裏の和室やし。頼子さんと留美ちゃんが不在の部室におっても、自分の家でボサーっとしてるだけやし。それに、ダミアも居てるさかいに、一人でおったら絶対遊んでしまう。
それで、放課後のあたしはお使いに出てる。
天王寺にあるお寺に届け物。
「明日、部活ないよって、用事あったら手伝うし」
お祖父ちゃんに言うといたから。
「そんなら、届け物頼めるかなあ」
おなじ浄土真宗の専光寺に持っていく落語会の資料をあれこれ頼まれた。久々に大和川を超えるんでお小遣いに五千円もらったし(^▽^)/。
五千円も出すんやったら、宅配で送った方が安いし確実やねんけど、身内のもんが運んだ方が念が届くし、孫に小遣いを渡す口実にもなるとお祖父ちゃんは言う。
ほんまは、わたしに気晴らしをさせたいという優しさやねん。
三月の末から酒井の家の子ぉになって、むろんお母さんの実家やさかいに遠慮もなんもいらんねんけど、折に触れてお祖父ちゃんは言う。
「もっと我がまま言うてええねんで」
「うん、ありがとう。でも、たいがい好きなようにやらせてもろてるよ」
ダミアも飼わせてもろたし、本堂の裏を部室に使わせてもろてるし。
たぶん、お祖父ちゃんはお母さんのこと気にしてる。仕事ばっかしで、ほとんど家に居てへん。一回だけやけど、お祖父ちゃんがお母さんに説教してるのを見てしもた。
「なんにも言わん子やけど、さくらは、いろいろ辛抱しとんねんで。いちばんの辛抱は親が傍に居らへんことや。十三歳は、まだまだ親が、母親が必要や。仕事も大事やろけど、さくらのことも考えたりや」
真正面から言われると、お母さんは黙って聞いとくしかない。
うちの親は忙しいのが当たり前思てたから、平気のつもりでおった。
平気のつもりやのに、立ち聞きしてた廊下で、零れる涙を持て余してしもた。
顔洗いに行ったら、おばちゃんが居たので気づかれたと思う。話は、きっと家中に知れ渡ってたと思う。
「専光寺は、ご本尊がユニークやさかい、行ったついでに手ぇ合わせて拝んどいで」
お祖父ちゃんは五千円といっしょに数珠をかしてくれた。
「ご本尊を拝ませていただきたいんですけど」
頼まれものを渡したあと、坊守さん(ぼうもりと読む、ご住職の奥さん)にお願いする。
「それはそれは、ほんなら、本堂へ」
あたしも坊主の孫「おもしろいご本尊見せてください」とは言わへん。
手を合わせて、ビックリした。
「『見返り阿弥陀』さんて言いますのん。お浄土への道すがら、はぐれた者はおらへんかと、後ろに続く衆生を気遣っておられるんです。同じものが、言うても、向こうの方が有名ですねんけど、京都の永観堂に居てはります」
なるほど……。
ありがたく手を合わせておいたけど、正直な第一印象は、これや。
顔背け阿弥陀!
そやかて、外陣のこっちから見たら―― おまえなんか見たない ――と、顔を背けられてるような気がする。
ヘーーホーー
あたしもヘーホー組になってしもた。
その帰り道、意外な人を見かけたんやけど、それは、この次にね。
093『はじめてのおつかい』
今日は文芸部の活動は無い。
お祖母さまが来日する件で頼子さんが学校を休んでる。
来日されるのは来月やけど、準備やら打合せやらで東京の大使館に行ってる。
なんちゅうてもお祖母さまはヤマセンブルグの女王陛下、頼子さんは二重国籍の状態とは言えヤマセンブルグの王位継承者、つまり王女様。「やあ、お祖母ちゃん!」「あら、頼子!」てな具合にはいかんのんやそうです。
じゃ、あたしも……留美ちゃんは病院の定期検診に行ってる。
残ったわたしは、一人で部活やっても仕方がない。なんせ、部室はうちの本堂裏の和室やし。頼子さんと留美ちゃんが不在の部室におっても、自分の家でボサーっとしてるだけやし。それに、ダミアも居てるさかいに、一人でおったら絶対遊んでしまう。
それで、放課後のあたしはお使いに出てる。
天王寺にあるお寺に届け物。
「明日、部活ないよって、用事あったら手伝うし」
お祖父ちゃんに言うといたから。
「そんなら、届け物頼めるかなあ」
おなじ浄土真宗の専光寺に持っていく落語会の資料をあれこれ頼まれた。久々に大和川を超えるんでお小遣いに五千円もらったし(^▽^)/。
五千円も出すんやったら、宅配で送った方が安いし確実やねんけど、身内のもんが運んだ方が念が届くし、孫に小遣いを渡す口実にもなるとお祖父ちゃんは言う。
ほんまは、わたしに気晴らしをさせたいという優しさやねん。
三月の末から酒井の家の子ぉになって、むろんお母さんの実家やさかいに遠慮もなんもいらんねんけど、折に触れてお祖父ちゃんは言う。
「もっと我がまま言うてええねんで」
「うん、ありがとう。でも、たいがい好きなようにやらせてもろてるよ」
ダミアも飼わせてもろたし、本堂の裏を部室に使わせてもろてるし。
たぶん、お祖父ちゃんはお母さんのこと気にしてる。仕事ばっかしで、ほとんど家に居てへん。一回だけやけど、お祖父ちゃんがお母さんに説教してるのを見てしもた。
「なんにも言わん子やけど、さくらは、いろいろ辛抱しとんねんで。いちばんの辛抱は親が傍に居らへんことや。十三歳は、まだまだ親が、母親が必要や。仕事も大事やろけど、さくらのことも考えたりや」
真正面から言われると、お母さんは黙って聞いとくしかない。
うちの親は忙しいのが当たり前思てたから、平気のつもりでおった。
平気のつもりやのに、立ち聞きしてた廊下で、零れる涙を持て余してしもた。
顔洗いに行ったら、おばちゃんが居たので気づかれたと思う。話は、きっと家中に知れ渡ってたと思う。
「専光寺は、ご本尊がユニークやさかい、行ったついでに手ぇ合わせて拝んどいで」
お祖父ちゃんは五千円といっしょに数珠をかしてくれた。
「ご本尊を拝ませていただきたいんですけど」
頼まれものを渡したあと、坊守さん(ぼうもりと読む、ご住職の奥さん)にお願いする。
「それはそれは、ほんなら、本堂へ」
あたしも坊主の孫「おもしろいご本尊見せてください」とは言わへん。
手を合わせて、ビックリした。
「『見返り阿弥陀』さんて言いますのん。お浄土への道すがら、はぐれた者はおらへんかと、後ろに続く衆生を気遣っておられるんです。同じものが、言うても、向こうの方が有名ですねんけど、京都の永観堂に居てはります」
なるほど……。
ありがたく手を合わせておいたけど、正直な第一印象は、これや。
顔背け阿弥陀!
そやかて、外陣のこっちから見たら―― おまえなんか見たない ――と、顔を背けられてるような気がする。
ヘーーホーー
あたしもヘーホー組になってしもた。
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