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098『クソ坊主と阿弥陀さん』 

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せやさかい

098『クソ坊主と阿弥陀さん』 

 

 
 発見はあった。

 留美ちゃんは中島みゆきが好き、お酒が入ると歌が上手くなる。

 
 この発見から導き出される結論は。

 歌のテストには、お酒を飲んで中島みゆきの歌を唄えば合格間違いなし。

 しかし、中島みゆきの歌を唄うのはともかく、学校でお酒を飲むわけにはいかへん。

 それに、間違ってテイ兄ちゃんのコークハイを飲んでしもたとは言え、お酒を飲んでしまったことにショックの留美ちゃん。

 
「ああ、もうこの世の終わりだよ~( ノД`)」

 嘆くのもむべなるかな……。

 
 この件について、いちばん反省、もしくは落ち込まならあかんのはテイ兄ちゃんや。

 不可抗力とは言え、未成年、それも十三歳の女子中学生にお酒を飲ませたんやから!

「留美ちゃん、意外とお酒に強いねんなあ」

 留美ちゃんは、ほんの十分ほど気絶と言うか寝てしもたんやけど、目が覚めてペットボトルのお茶を一気飲みしたら、だいぶマシになって、帰りの車に乗ってもヘッチャラやった。

 なんも考えんとコークハイ作ってしもたテイ兄ちゃんやったけど、帰りの運転を考えて飲むのんはやめてた。やめてたからこそ、留美ちゃんは自分のコーラと間違うて飲んだんやけどね。

 それに、留美ちゃんのヘッチャラいうのは体調のことで、ほんで、心配かけたらあかんという健気さからやから。

 せやから、あとで電話した時の留美ちゃんは、正直に落ち込んでたんや。

「まあ、音楽のテストやろ、なんとかなるで」

 他人事みたいに言いながらおっぱん(仏さんに供えるごはん、おぶくさんともいう。夕方にお供えして夜にはお下げする)を片付ける。

「もう、気楽に言うてさかいに」

 これが留美ちゃんと違て、頼子さんやったらテイ兄ちゃんの反応は違てたと思うぞ。

「まあ、心配やったら、阿弥陀さんにお願いしとくんやなあ」

「阿弥陀さんが受け合うてくれはるんは極楽往生だけや、世俗の願い事は効き目ないやろが」

「いやいや、ここ一番は別やと思うで。檀家のお年寄りなんか、みんなお願いしていかはるで」

「そんなん……」

「ナマンダブ ナマンダブ ちょっとさくらの願い事を聞いてってください」

 ご本尊に手ぇ合わせるテイ兄ちゃん。

「ほら、阿弥陀さんにこっち向いてもろたから、お願いしとき」

 それだけ言うて、テイ兄ちゃんは庫裏のほうへ戻っていく。ええかげんな坊主や。

 こないだの見返り阿弥陀さんが思い出される。

 うちの阿弥陀さんは、最初から前向いてはるけど、なんや、あたしのことを見てくれてはるような気がしてきた。

 座って手を合わせる。

「クソ坊主が、へんなこと言うてすみません。せやけど、できることならお願いします……ナマンダブ ナマンダブ……」

 
『わかった、なんとかしたげよ』

 
 え!?

 阿弥陀さんがしゃべった。

 
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