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138『花びらの山』
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せやさかい
138『花びらの山』
山門脇の桜が散り始めたのは、お花まつりのあくる日。
昨日の雨で、どっさりと花が散って、朝から境内の掃除。
べつに言いつけられて掃除してるんとちゃう。コ□ナで学校にも行かれへんし、外に出るのも憚られる。ずっと家の中に居ったら腐ってしまうしね。
それで、詩(ことは)ちゃんと分担して、あちこちを掃除してるというわけです。詩ちゃんは本堂の縁側を拭き掃除、わたしが境内に散った花びらの掃除。
先週は、満開の桜に誘われてダミアが一番大きな枝に上って下りてこられへんようになって、助けに行ったあたしも枝に跨ったまま下りられへんようになって、たまたま見てた小学生が工事のおっちゃん呼んで助けてくれた。また一ページ酒井さくらの黒歴史が増えてしもたのは記憶にも新しいでしょ。
ま、ええけどね。
地面の花びらをあらかた掃除して気が付いた。山門の屋根の上にどっちゃり花びらが残ってる。風でも吹いたら、また飛び散って掃除した甲斐がなくなる。
桜の木に登って、箒を伸ばしたら届きそうやねんけど、黒歴史が、さらにもう一ページ増えそうなんで止めとく。
よし、これで終わりにするか。
決心して塵取りを取りに行くと、ザワザワっと一陣の風が境内を吹き抜ける。
ああ……
掃き集めた花びらが吹き散らされるう!
塀に囲まれた境内のせいか、風はクルクルと渦を巻いて花びらを巻き上げる。
花びらは半分近くを吹き飛ばされて、残りがクルクル舞って柱のようになり、やがて人の姿になった。
あ……三方?
ひな祭りの時。欠けてた三人官女の真ん中、三方と呼ばれるお局さんが現れた!
「お久しぶりさんどす」
こないだは、お寺の外で、今風のオネエサンの姿やったけど、今日は緋の袴を着けた本来の姿。本来の姿は眉毛は剃ってるし、お歯黒やから、ちょっと違和感。
「えと、今日はフォーマルなんや」
「はい、今日はやんごとなきお方からの伝言を申し付かっておりますのんえ」
「偉い人?」
「はい、オオササギノミコトのお言葉どす」
「オオササ……?」
「さくらさんは、偉いお方やと思といてくれはったらよろしおます」
「うん、あ、はい……」
「お父さんのお葬式を出すことをオオササギノミコトは勧めてあらっしゃいます」
「お父さんのお葬式……」
「もう、一年も前に失踪宣告もなされとりまっしゃろ。ここらでケリをお付けやすのが上策やろとミコトは思召されといやす」
「せやけど……」
「歌さん(お母さん)は、また長期のお仕事に出はります。さくらさんも、ここへ来て一年になりまっしゃろ、潮時と思召されよ。以後の事は、畏れ多くもオオササギノミコトもお気に停められてあらっしゃいます。歌さんには先ほどお伝えしましたさかい。さくらさん、お覚悟だけ召されよ、この三方はさくらさんの味方どす。では、よろしゅうに……ごきげんよう……あなかしこあなかしこ……」
そこまで言うと、三方さんは元の花びらの柱に戻った……フッと風が凪いだあとには、行儀よく山になった桜の花びらだけが残った。
「さくらちゃん、終わったらお茶にしよ!」
本堂の縁から詩ちゃんの声がして我に返った。
138『花びらの山』
山門脇の桜が散り始めたのは、お花まつりのあくる日。
昨日の雨で、どっさりと花が散って、朝から境内の掃除。
べつに言いつけられて掃除してるんとちゃう。コ□ナで学校にも行かれへんし、外に出るのも憚られる。ずっと家の中に居ったら腐ってしまうしね。
それで、詩(ことは)ちゃんと分担して、あちこちを掃除してるというわけです。詩ちゃんは本堂の縁側を拭き掃除、わたしが境内に散った花びらの掃除。
先週は、満開の桜に誘われてダミアが一番大きな枝に上って下りてこられへんようになって、助けに行ったあたしも枝に跨ったまま下りられへんようになって、たまたま見てた小学生が工事のおっちゃん呼んで助けてくれた。また一ページ酒井さくらの黒歴史が増えてしもたのは記憶にも新しいでしょ。
ま、ええけどね。
地面の花びらをあらかた掃除して気が付いた。山門の屋根の上にどっちゃり花びらが残ってる。風でも吹いたら、また飛び散って掃除した甲斐がなくなる。
桜の木に登って、箒を伸ばしたら届きそうやねんけど、黒歴史が、さらにもう一ページ増えそうなんで止めとく。
よし、これで終わりにするか。
決心して塵取りを取りに行くと、ザワザワっと一陣の風が境内を吹き抜ける。
ああ……
掃き集めた花びらが吹き散らされるう!
塀に囲まれた境内のせいか、風はクルクルと渦を巻いて花びらを巻き上げる。
花びらは半分近くを吹き飛ばされて、残りがクルクル舞って柱のようになり、やがて人の姿になった。
あ……三方?
ひな祭りの時。欠けてた三人官女の真ん中、三方と呼ばれるお局さんが現れた!
「お久しぶりさんどす」
こないだは、お寺の外で、今風のオネエサンの姿やったけど、今日は緋の袴を着けた本来の姿。本来の姿は眉毛は剃ってるし、お歯黒やから、ちょっと違和感。
「えと、今日はフォーマルなんや」
「はい、今日はやんごとなきお方からの伝言を申し付かっておりますのんえ」
「偉い人?」
「はい、オオササギノミコトのお言葉どす」
「オオササ……?」
「さくらさんは、偉いお方やと思といてくれはったらよろしおます」
「うん、あ、はい……」
「お父さんのお葬式を出すことをオオササギノミコトは勧めてあらっしゃいます」
「お父さんのお葬式……」
「もう、一年も前に失踪宣告もなされとりまっしゃろ。ここらでケリをお付けやすのが上策やろとミコトは思召されといやす」
「せやけど……」
「歌さん(お母さん)は、また長期のお仕事に出はります。さくらさんも、ここへ来て一年になりまっしゃろ、潮時と思召されよ。以後の事は、畏れ多くもオオササギノミコトもお気に停められてあらっしゃいます。歌さんには先ほどお伝えしましたさかい。さくらさん、お覚悟だけ召されよ、この三方はさくらさんの味方どす。では、よろしゅうに……ごきげんよう……あなかしこあなかしこ……」
そこまで言うと、三方さんは元の花びらの柱に戻った……フッと風が凪いだあとには、行儀よく山になった桜の花びらだけが残った。
「さくらちゃん、終わったらお茶にしよ!」
本堂の縁から詩ちゃんの声がして我に返った。
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