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204『自転車で並走』
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せやさかい
204『自転車で並走』さくら
留美ちゃんと並んで自転車を走らせる。
いつもやったら自転車の並走なんかせえへん。
学校の安全指導でも言われてることやねんけど、バイクや自動車で檀家周りしてるおっちゃんとかテイ兄ちゃん知ってるさかい。
横並びの自転車は、すれ違うにしても追い越すにしてもメッチャ気を使う。この頃は自転車保険も義務化されてきてるし、取り締まりもキツなってる。こないだもネットニュースが自転車同士の事故で6000万円の補償を求められたて出てた。
そのうちが、掟破りの並走やってるのは、留美ちゃんの目がイッテしもてるから。
「お母さ……!!」
スマホのメッセを見た瞬間、留美ちゃんは口に手を当てたけど、悲鳴同然の声が漏れてしもた。
「病院?」
「うん」
同居してから姉妹同然に暮らしてる二人にややこしい言葉はいらへん。
すぐに自転車を出して山門を飛び出した。
お母さんが転院したH病院には自転車で行くのが一番早い。
「赤信号!」
これで二回目や。
テンパってる留美ちゃんにはろくに信号も見えてへん。
「う、うん」
いま変わったばっかりの赤信号。
産業道路で、車歩行者分離式やから、一分以上青にはなれへん。
落ち着かせるためにも質問をする。
「お母さん、どないやのん?」
「転院させるって、お父さん……」
とりあえず最悪の知らせではなかった。
「まだ、お母さんの顔見てないのに……」
コ□ナ患者を受け入れてる病院の看護師をやってるお母さんは感染してしもて、重篤な状態が続いてる。
分かれて暮らしてるお父さん(どうもよう分からへん人やねんけど)が色々手配して、お母さんの入院中の事はやってくれて、留美ちゃんに負担がかかることは無い。無いどころか、留美ちゃんは、お母さんが重篤になってからは面会もできてへん。
それが、メール一本で転院させると連絡が来て、とても冷静ではおられへん。
せやさかい、うちは、掟破りの並走をやってる。
「青になった」
「あ」
促されてペダルを踏む留美ちゃん。
信号待ちしてる間に、不安に押しつぶされそうになって信号が見えてへん。
交差点渡ると、前から並走して喋りながらのオバハン二人。
「チ!」
舌打ち……したのはオバハンの方。
せやけど、迫力負けして道を譲ったのはオバハンの方。
「303号室に入院してる榊原瑠璃の娘です!」
通用口のインタホンに食いつくように叫ぶ。
『少々お待ちください……』
くぐもった声がして、三十秒ほど。
『さっき転院されました』
「そんな……」
『申し訳ありませんが、転院先、その他のことは追って連絡されるということです。大変申し訳ありませんが、ここではお伝えできません』
「そんな……そんな、そんなあ!」
『申し訳ありません』
プツン
「もしもし! もしもし!」
インタホンは、それっきり切られてしもた。
留美ちゃんは、もう自転車に乗る気力も残ってへん。
病院の外壁に背中を預けてホロホロと涙を流してズルズルと崩れてしまう。
「ちょ、ちょ、留美ちゃん」
うちも、どないしてええんか分からんようになって、いっしょに泣いてしまう。
「あなたたち、どうかした?」
何十秒か、何分かして声が降ってきた。
見上げると、女性警官のおねえさん。
うしろに停まってるミニパトには堺中央のロゴがあって、運転席にはもう一人の女警さんが無線連絡。
「じ、じつは……」
事情を説明すると、女警さんはインタホンに警察バッジを突き付けて病院と話しをしてくれはる。
数秒話すと、カチャリとドアが開いて、マスクに手袋した看護師さんが出てくる。
二人とも、二メートルほどのソーシャルディスタンスをキッチリとって、テキパキと会話。
見ると、看護師さんもメッチャくたびれた感じ。
一分もかからんと話しは終わって、通用口の扉は再び閉められる。
「やっぱり無理みたい。お家の人に連絡とれるかなあ」
「あ、いえ……大丈夫です。自分で帰れますから」
留美ちゃんも、わずかに落ち着いて自分で返事。
パトカーを見送って、留美ちゃんと二人自転車を押して帰る。
家に着くと、留美ちゃんはペシペシと自分の頬っぺたを叩いて、うちといっしょに晩ご飯の手伝いをしに行きました。
204『自転車で並走』さくら
留美ちゃんと並んで自転車を走らせる。
いつもやったら自転車の並走なんかせえへん。
学校の安全指導でも言われてることやねんけど、バイクや自動車で檀家周りしてるおっちゃんとかテイ兄ちゃん知ってるさかい。
横並びの自転車は、すれ違うにしても追い越すにしてもメッチャ気を使う。この頃は自転車保険も義務化されてきてるし、取り締まりもキツなってる。こないだもネットニュースが自転車同士の事故で6000万円の補償を求められたて出てた。
そのうちが、掟破りの並走やってるのは、留美ちゃんの目がイッテしもてるから。
「お母さ……!!」
スマホのメッセを見た瞬間、留美ちゃんは口に手を当てたけど、悲鳴同然の声が漏れてしもた。
「病院?」
「うん」
同居してから姉妹同然に暮らしてる二人にややこしい言葉はいらへん。
すぐに自転車を出して山門を飛び出した。
お母さんが転院したH病院には自転車で行くのが一番早い。
「赤信号!」
これで二回目や。
テンパってる留美ちゃんにはろくに信号も見えてへん。
「う、うん」
いま変わったばっかりの赤信号。
産業道路で、車歩行者分離式やから、一分以上青にはなれへん。
落ち着かせるためにも質問をする。
「お母さん、どないやのん?」
「転院させるって、お父さん……」
とりあえず最悪の知らせではなかった。
「まだ、お母さんの顔見てないのに……」
コ□ナ患者を受け入れてる病院の看護師をやってるお母さんは感染してしもて、重篤な状態が続いてる。
分かれて暮らしてるお父さん(どうもよう分からへん人やねんけど)が色々手配して、お母さんの入院中の事はやってくれて、留美ちゃんに負担がかかることは無い。無いどころか、留美ちゃんは、お母さんが重篤になってからは面会もできてへん。
それが、メール一本で転院させると連絡が来て、とても冷静ではおられへん。
せやさかい、うちは、掟破りの並走をやってる。
「青になった」
「あ」
促されてペダルを踏む留美ちゃん。
信号待ちしてる間に、不安に押しつぶされそうになって信号が見えてへん。
交差点渡ると、前から並走して喋りながらのオバハン二人。
「チ!」
舌打ち……したのはオバハンの方。
せやけど、迫力負けして道を譲ったのはオバハンの方。
「303号室に入院してる榊原瑠璃の娘です!」
通用口のインタホンに食いつくように叫ぶ。
『少々お待ちください……』
くぐもった声がして、三十秒ほど。
『さっき転院されました』
「そんな……」
『申し訳ありませんが、転院先、その他のことは追って連絡されるということです。大変申し訳ありませんが、ここではお伝えできません』
「そんな……そんな、そんなあ!」
『申し訳ありません』
プツン
「もしもし! もしもし!」
インタホンは、それっきり切られてしもた。
留美ちゃんは、もう自転車に乗る気力も残ってへん。
病院の外壁に背中を預けてホロホロと涙を流してズルズルと崩れてしまう。
「ちょ、ちょ、留美ちゃん」
うちも、どないしてええんか分からんようになって、いっしょに泣いてしまう。
「あなたたち、どうかした?」
何十秒か、何分かして声が降ってきた。
見上げると、女性警官のおねえさん。
うしろに停まってるミニパトには堺中央のロゴがあって、運転席にはもう一人の女警さんが無線連絡。
「じ、じつは……」
事情を説明すると、女警さんはインタホンに警察バッジを突き付けて病院と話しをしてくれはる。
数秒話すと、カチャリとドアが開いて、マスクに手袋した看護師さんが出てくる。
二人とも、二メートルほどのソーシャルディスタンスをキッチリとって、テキパキと会話。
見ると、看護師さんもメッチャくたびれた感じ。
一分もかからんと話しは終わって、通用口の扉は再び閉められる。
「やっぱり無理みたい。お家の人に連絡とれるかなあ」
「あ、いえ……大丈夫です。自分で帰れますから」
留美ちゃんも、わずかに落ち着いて自分で返事。
パトカーを見送って、留美ちゃんと二人自転車を押して帰る。
家に着くと、留美ちゃんはペシペシと自分の頬っぺたを叩いて、うちといっしょに晩ご飯の手伝いをしに行きました。
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