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233『恥ずかしがりの朝顔』

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せやさかい

233『恥ずかしがりの朝顔』さくら     




 終わってしもた!

 ……と言うたら、なに連想しますぅ?


 オリンピック? 勉強しよ思たら切れてしもてるシャーペンの芯? 日々更新されるコ□ナ感染者数?

 水上バイクかっ飛ばして殺人未遂で訴えられたオッサンら? 食べよ思て出したら一年前に賞味期限の過ぎてたパスタ?

 だれかの人生(うそうそ(^_^;))?


 正解は留美ちゃんの宿題。


 朝ごはん食べて、今日も雨なんで散歩は諦めて、宿題をやろう!

 昨日までは、ダイニングのテーブルに並んで宿題やってた留美ちゃんは、文庫を取り出して読み始める。

「え……もしかして、終わった?」

「え、あ……うん……終戦記念日だしね(^0^;)」

 うまいこと言う。

 うちら中学生にとっては、夏休みの宿題は、まさに戦い。

 それをやり終えたんやさかい、まさに終戦。

 せやけど、テーブルの向こうとこっちではニュアンスがちがう。

 留美ちゃんは予定通りやり終えて、ミッションコンプリート、勝利者の終戦。

 うちは、その留美ちゃんの前で、シコシコ戦闘を続けてる。宿題戦線敗残者の終戦。


 便利な言葉やねえ、終戦いうのは。

 単に戦争が終わったいう意味で、勝った方でも負けた方でも使える。

「終戦記念にお茶しよか」

「え?」

「シュウセンキネン」

「あ、ああ……」

 お寺と言うのは、お八つというかお茶うけというか、ちょっと食べるものには困りません。

 檀家さんから頂いたスィーツ(たいてい饅頭的な)を持ってきてお茶にする。

「あら、もうティータイム?」

 詩(ことは)ちゃんが来て、ちょっと驚く。

「うん、終戦記念」

「え、ああ……」

「留美ちゃん、宿題やり終えたさかい、その記念!」

「アハハ、さくらはなんでも記念にしちゃうんだ」

「「アハハ」」

「じゃ、わたしはお茶だけにしとく」

 冷蔵庫の麦茶を取りに行く詩ちゃん。

 詩ちゃんは、ちょっと気にしてる。

 中学生いうのは、少々食べ過ぎてもデブにならへんし、ちょっとくらい肥えても「ブタやあ!」とは言われへん。

 大学に入ったころから、ちょっと食べるものに気ぃつこてる。

 高校までは、饅頭三つくらい平気で食べてたのに、このごろは二個にしてる。

 わずか三つ違いやけど、新陳代謝がちがうんやねえ。

 留美ちゃんが読んでる文庫(将棋指しのラノベ)の話題で盛り上がる。

「将棋会館建て替わるんだよね」

「うん、今までは福島区あったけど、高槻に建て替えるそうです」

「藤井壮太って、同年配だけど、なんだか異世界の人って感じ……」

「そうなんですよ、ただの名人じゃ……」

 うちは、将棋の会館があるのも、藤井なんちゃらいう名人もわかりません(^_^;)


「ねえ、朝顔咲いたのね」


 おばちゃんが、回覧板持って現れる。

「え、うそ?」

「蕾が二つ開いて赤い花つけてたわよ」

「「「ええ!」」

 この声だけは揃った。

 この雨なんで、昨日も今日も水はやってないねんけど、様子は見てる。

 今朝は、まだ蕾が並んでただけで、開くとこまではいってへん。


「朝顔って、早朝に開いて、日が上るころには萎びちゃうんだよね」

 三人、プランターの前で首をひねる。

「雨が続いてるせいですかねえ」

「きっとね、恥ずかしがりの朝顔やねんわ……ええねんよ、うちらは家族みたいなもんやさかい、明日からは、恥ずかしがらんと咲いてね(^▽^)」

 よしよししてやると、二人に笑われてしまいました。

 
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