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024『サウンドオブミュージック』 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

024『サウンドオブミュージック』   




 似た者同士なのかなあ……。


 そう思うのには、まだ付き合いが浅いのかもしれないけど。

 ほら、身体測定で仲良くなった四人とわたし。

 ロコ(宮田博子) 吉本佳奈子  辻本たみ子  横田真知子



 ロコは合格者説明会で知り合って、どこが気に入ったのか、その日から友だちにカテゴライズしてくれている。令和でいうオタク的なところがあって、人づきあいが苦手な印象だったけど仲間内では自分のポジションを持っているみたい。

 佳奈子はヘアバンドで思いっきりオデコを出してる通り、オープンマインドの体育会系。身体測定でも、シャキシャキ仕事をこなして、移動するときも「つぎ、座高ね!」と指示して他のクラスよりも早く周れた。目の前のことをやりながら全体にも目が届く、いまのところ保健委員。

 辻本さんは委員長の高峰君とは同じ中学だったみたいで、高峰君の指名で副委員長をやっている。「170!」って身体測定で言われて「ああ、とうとう……」と呟いていた。高身長なのを気にしている感じ。70年代でも珍しいオカッパ頭なのは、少しでも幼く=低身長に見せたい気持ちなのかも。

 横田さんはショートボブの良く似合う知性派女子。リーダーの授業(うちの担任の教科)で教科書の英文読んだら、もうほとんどネイティブって感じで、感心した先生は四ページのセクション全部読ませた。「いやあ、洋画が好きだから、なんかそれらしく読んでるだけよ(^_^;)」と頭を掻いていた。



 城址公園に行こうと誘ったら、あっという間にこの五人になったのは、たまたまなのかもしれないけど、天守台のところで写真撮ったときは、もう友だちの距離になっていた。身体測定から二時間もたってないんだけど、人間関係にアグレッシブな人たちで良かったよ。

 そう、このアグレッシブなところが似た者同士その一。

 その二は、連休になったというのに、まだ誰もクラブに入ってないこと。

 宮之森がそうなのか、1970年という時代がそうなのか、部活は盛ん。

 登校時間には野球部とかテニス部とかは、もうグランドの整備にかかってるし、昼休には部長会議とかがあって『新入部員獲得についてのルール確認』とか『予算請求のガイダンス』とかやっていた。放課後は、あちこちで、運動部の掛け声やら、ブラバンのパート練習、演劇部の発声練習なんかが聞こえる。

 特に目当ての部活が無くても、放課後は、なんかソワソワする。

「みんな部活には入ったかぁ?」

 ホームルームで担任が聞いた時の反応で、過半数は入部あるいは仮入部しているっぽい。

 そんな中で、五人揃って仮入部もしていないっていうのは、やっぱ似てるんだと思う。



「ねえ映画観に行かない?」



 横田さんが手を上げた。

「株主優待券が二枚あるの、三枚だけチケ買って、割り勘にしたらお得!」

「あ、いいですねえ! 今年から封切館は50円の値上げでしたからね、仇がとれます!」

 ロコも情報が早い。

「あ、『サウンドオブミュージック』!?」

「そうなのよ、五年前にロードショーやったリロードだから、観た人いたら、ちょっと残念かもしれないけど」

「ロコ観てません!」「わたしも観てない」「わたしも」

 という感じで似た者同士。

 五人揃って子どもの日に出かけた。



 え、一時間もある!



 ミリオン座前で集合して、ちょっとビックリ。上映どころか開場時間に一時間もある。

 でも、お仲間は――あたりまえ!――という顔をしている。

「もうちょっと早くても良かったかなあ」

 横田さんが爪を噛む。

 確かに、もう百人近くが並んでいる。

 映画って、小さいころに『ドラえもん』と『コナン』を見た切りだけど、こんなに人は並んでいなかった。

 熱というか愛というか、映画への思い入れが違う。

 一時間もどうしようって思ったけど、五人で無駄話していたらあっと言う間だった。

 なんせ、他の人たちも並びながら喋ってる。70年は万博もやってるし、なんかエネルギーが50年後とは違う感じ。

「ねえ、みんな下の名前で呼び合おうぜ!」

 吉本さんが提案して全員が賛成、無駄話は五人の距離を縮めた。じっさい、開場が近くなると人が多くなってギュウギュウ。

 

「いくぞ!」「おお!」「あ、ちょ……」「やったー!」「ワ、よかった!」



 開場の合図で突進! ちなみに「あ、ちょ……」がわたし。なんか正月の戎まつりで一番福を争ってるみたい。

 まあ、それくらいの勢いで突入しないと、五人揃って席が取れない。

 で「ワ、よかった!」と歓喜の声を上げたのは辻本……いえ、たみ子さん。

 なんせ170センチ、平場の客席だと後ろの席に気を遣う。

 ミリオン座の客席はすり鉢状になっていて、フランス料理のシェフでもない限り後ろの人の邪魔にはならない。



 オオ……!



 映画が始まって、思わず唸ってしまった。

 シネコンしか知らないわたしは、市民会館か!? というくらいの客席にも驚いたけど、超ワイドスクリーンに映し出された『サウンドオブミュージック』の迫力に圧倒されてしまった!

「何を見るか」じゃなくて「どう見るか」で全然違うのはVRのネトフリとかで知ってるんだけど、この巨大観客席で観る巨大シネスコスクリーンはハンパない!

 それと、仲間と一緒に息を呑むっていうのは初めての体験!

 感動の密度が違う!



 帰りは、みんなでレコード屋さんに寄って、みんなであれこれ試聴して、真知子さんがLPを、他の四人はSPを買って帰ったよ(^▽^)。

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
宮田 博子             1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明             留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 妹尾先生:グラマー
須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

  
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