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029『教職員名簿とプラモ屋さん』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

029『教職員名簿とプラモ屋さん』   




 中学までは朝礼と終礼があった。

 朝、いちばんに顔を合わせるのは、門番当番の先生を除いては朝礼の担任の先生だった。

「おはようございます」の挨拶から始まって、出欠点呼、諸連絡。終礼でも諸連絡があって、先生が「今日の掃除当番はA班」とか確認して、先生に監督されながら掃除していた。

 昭和45年の宮之森高校では昼礼ということになっている。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったら、生徒は教室に入る。で、担任の先生がやってきてSHR(ショートホームルーム)って建付けになってるんだけど、先生はめったにやってこない。だから、このごろは五時間目の予鈴が鳴らないと生徒も教室に入らない。

「必要なことは自分の授業で連絡するからいいんだ」

 謹厳実直そうなうちの藤田先生でも、そう言う。

 これって、良くないと思う。

 不慮の事故とかで生徒が居なくても(交通事故とか、無断欠席とか、家出とか)学校は気づかない。

 自主性の尊重とか言うけど、手抜きの一種だと思う。



 ま、いいけど。



 今日は珍しく、その昼礼があって、藤田先生が『職員・生徒名簿』を配った。

 文庫本の縦横を逆にしたようなサイズの小冊子で、教職員と生徒全員の住所と電話番号が載ってる。

 こんなの配って――不幸の手紙は止めよう!――とか言って、ちょっと矛盾だ。

「で、今から配るプリントはクラスの緊急連絡網だ。めったに使うことはないが、大事に保管しておくように」

 みんな、ざっと目を通してカバンにしまう。

 ちなみに、我が家のそれは令和の時代の固定電話。

 まあ、お祖母ちゃんは引退したとはいえ魔法少女。わたしのスマホ同様、たぶん使えるんだろう。

 でも、家庭訪問とかされたらヤバイから、品行方正を心がけよう。

 十円男の加藤高明は、名簿を繰りながら、時どきチェックを入れてる。変なやつ。



「ちょっとクラブ見学したいんで(^_^;)」



 放課後、ロコは、そうことわって本館の方に駆けて行った。

「うん、じゃ、またね」

 と、今日は一人で帰る。

 ロコは、人に依存するタイプだと思っていた。

 ハナから部活はやる気は無いので、放課後はロコとつるんで帰るのがルーチン化していた。

 オタク気質の子だけど、さすが、昭和の女の子だと、ちょっと嬉しい。がんばれロコ!



 駅に向かって歩いていると、ちょっと……いや、相当に香しい臭いがしてくる。

 

 どこかで浄化槽が爆発した!?

 角を曲がって見えてきたのは、宮之森市のマークを付けたバキュームカー。

 令和でも、たまに見かけるけど、ここまでの臭いはしない。

 そうか、この時代は下水が完備してないんだ。バキュームカーも消臭機能とかは充実してないんだよね。

 道幅は4メートルほど、ちゃんと左に寄せてくれているんで、バイクだって通れるんだけど、申しわけないけど手前のところで横道に入る。

 だいたいの見当をつけて商店街に入る。

 商店街は映画館があるところで曲がっているので、その先やら枝分かれした道は初めてだ。

『服部模型店』というのが目に留まる。

 プラモ屋さんだ。

 叔父さんがガンプラ趣味なんで、プラモのプの字くらいは分かる。

 ランドセル背負った小学生が三人、ショーウィンドウに張り付いている。

 チラ見すると、戦艦大和やらの軍艦や飛行機、自動車のプラモの完成品が並んでいる。

 え、ガンプラ無いんだ。

 叔父さんに連れられて行った電気街のプラモ店は、全店ガンプラ。ソフマップにも行ったけど、半分くらいはガンプラで、プラモ=ガンプラだと思っていた。

 並んでる完成品は、どれもピカピカ。

 塗装はしてあるんだけど、なんというか、キレイ。

 大和は竣工したばかり、ゼロ戦はこれから試験飛行しますって新品の感じ。

 ウェザリングって叔父さんは言ってた。

 ラッカー系の塗料で塗った後、エナメル系の塗料で汚しを入れて、エナメルの溶剤でボカシたり滲ませたりして実感を出す。仕上げはファンデみたいなので、まさにお化粧の感覚。

「ちょっと、アヤシイ」

 そう言うと「い、いや、こういうものなんだって、プラモは(^_^;)」と弁明していた。

「おねえちゃんも、模型やるの?」

 小学生が、首を捻って聞いてくる。

「アハハ、親類の叔父さんがね……ここって、安いの?」

 値段が5円とかの端数が付くものが多いので、そんな気がした。

「うん、5%引き」

「向こうの店は10%引きだぜ」

「え、向こうにもあるの?」

 教えてもらって脇道に入ると、文具屋を兼ねた店があって、服部模型店よりも微妙に安い値段がついていた。

 映画館といい、プラモ屋といい、写真館といい、令和では見かけなくなったお店が元気。

 というか、商店街自体が、すごく元気。

 三波春夫の『こんにちは~こんにちは~』をいつの間にか口ずさみながら電車に乗った。

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子             1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館
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