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031『衣替え』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

031『衣替え』   




 六月に入ったので衣替え。


 一日の夕刊なんて『今日から衣替え!』の見出しで、有名女子高の登校風景の写真をデカデカと載せている。

 女子高ってのは私学だから、制服も凝っていて新聞にはうってつけ。

 令和の時代は、有名デザイナーの制服がいっぱいあって、SNSなんか見てると外国の人からは羨ましがられてる。「まるで、アニメの世界!」「あんなの着て学校に行きたい!」「日本に留学したい!」てなコメントやら『いいね!』がいっぱいついていたりする。

 1970年は、そこまでじゃないけど、やっぱり私学はカッコいい。

 昼休みの窓際で机を寄せ、ロコのスクラップ帳を見ながら自分たちの制服を論じている。

「しかし、すごいね……」

「よく集めたねぇ……」

「一つ一つ寸評まで……」

「なになにぃ……」

 カトリック系のS女学院は建学の精神にパリの有名デザイナーが賛同してデザインした。大正の開校時からだっていうジャンパースカートにボレロ。ボレロは襟元をフックで留めるだけ。

「サウンドオブミュージックのマリアが着ていた修道女見習いの制服って、同じコンセプトなんですよ!」

「そうなんだ」

「やっぱミッションスクールだねえ……」

「ウィンプルっていうの、あの三角巾みたいなのしたら」

「まんま修道女見習いだねぇ」

「T女学館もなかなかですよ!」

「どれどれ?」

「「「「おお!」」」」

「三線のセーラー服なんだけど襟は小ぶりで胸当がないんです」

「え、ほんと。胸元がつぼまってキリリとしてる」

「襟のつぼまりなんてと思うかもしれませんけど、全然違うんです。特に、合服のセーラーがすごくいいんです。あ、これこれ、襟と袖口以外は淡いクリーム色で、襟元のつぼまりがいっそう際立ってグッドなんです!」

「でも、わたしは似合わないなあ」

「どうしてですか、真知子さん?」

「だって、この襟だと顔が大きいと……」

 なるほど、つぼまった襟元だと顔が大きく見える?

「そんなことないです!」

 そう言って、ページをめくるとT女学館のクラス写真。

「ほら、いろんな顔の人がいるけど、似合ってます!」

「むむむ……」

 ふだんクールな真知子がまじまじと見ているのもおかしい(^_^;)。

「それでそれで、これが……ジャーーン!」

 次のページは、デザイン画。タッチは見慣れたロコのなので、ロコが写したものだろう。

「「「「「ええ、なになに!?」」」」

「MM女学院が、来年から改定する制服のデザイン画です!」

「なんか、万博のコンパニオンの人みたい!」

 上着の下はジャンパースカートなんだけど、なんとミニスカ! 

「ベルトの位置ですよ!」

「「「「おお……」」」」

 太めのベルトは、普通よりも5センチは低い位置で、丸いバックルは制服と同じグレーなんだけど腕輪かっちゅうくらいに大きい。

「色さえ変えれば、そのままパビリオンでコンパニオンできちゃうね」

「思い切ったモデルチェンジよねえ」



 で、眼下の中庭、お昼のひと時を過ごしている同輩たちに視線を向ける。



 我が宮之森はS女学院に似た、一見ジャンパースカート。

 胸から上のベストになってるところは取り外し式で、外せば、そのまま夏服になる。襟は丸襟でささやかなボータイが付く。

 完全な夏服だと、半袖ブラウスにスカート、ブラウスは毎日着替えるから、丸襟でない市販の白のでもOKなのさ。

 けして有名デザイナーさんのじゃないんだけど、こういう使いまわしの良さを考えた人はエライ!

 これが良くって、わざわざ令和からこの時代の宮之森に来たんだしね。

 宮之森は私学のように一斉の衣替えはやらない。

 五月の半ばから『合服期間』になって、制服なら、どんな組み合わせでもOKになる。

 さすがに上着を着てる人はいないんだけど、ボレロ付き、ボレロ無し、長袖、半袖、それに、ボータイ有、ボータイ無し、と色々。

「うん、うちも、まあまあね」

「ね、あんまりやかましいこと言われないしね」

 副委員長のたみ子が真知子と並んで締めくくる。

 

 そんな話に花の咲く昼休、十円男が隣の窓辺でボソリと呟く。



「囚人服のバリエーションを楽しんでもなあ……」

「なんか言ったぁ?」

 こういう場合、黙ってしまっては、かえって気まずい。相手は十円男だし。

「すまん、個人的感想だから」

 絡むこともなく、十円男は廊下に出て行った。

「一言多いです、加藤君は!」

 ロコが口を尖らせる。

「でも、加藤君の言うことにも一理あるかなあ……」

「え、そうなの?」

 真知子の感想にみんな驚く。

「ファッションとかは、個人の自由だと思うのよ。欧米じゃ学校の制服なんてないし、制服強制されるって軍隊とか、それこそ囚人よ」

「うん、でも、制服だったら着るものに気持ちもお金も使わなくっても済むから、いいんじゃないかなあ」

 たみ子の言うことも正論だ。

「うん、わたしが言うのは理想ね。そんなファッションのことばっかり考えていたら、高校時代なんてあっと言う間に過ぎちゃうからね。今は――ほんとは違うんじゃないか――て思ってるだけでいいと思う」

「真知子って、いつも、そんな風に考えてるの?」

「うん……かなあ……でも、じゃあ、どうすればいいかって具体的には無くってさ。対案の無い否定って、ただの文句言いでしょ」

「そうか、そういうとこが、加藤君たちと違うとこなんですね!」

 ロコが尊敬のまなざしを向ける。

「あ、そんな、なんとなくの姿勢だから(^_^;)」

「真知子って、どんなレベルから疑問持ってるの?」

「うん……宗教や政治信条とかは完ぺきに個人の自由でしょ?」

 うんうん(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)、みんな頷く。

「ファッションとかも同じだと思うのよ、もっと言うと、結婚したら同じ苗字になるでしょ、ほとんどは男の苗字になっちゃうし……」



 キンコーンカーンコーン キンコーンカーンコーン



「あ、五時間目体育ですよ!」

「続きは、またこんど!」

 みんな体育の着替えを持って更衣室に走る。

 6月最初の体育、そう、今日から体操服も衣替え。

 で、半袖の体操シャツに、下はブルマ!

 ほんとは、これが一番嫌で、本日最大の関心事なんだけど、だれも口にすることは無かった。



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子             1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館
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