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075『バイト許可願を出しに行く』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

075『バイト許可願を出しに行く』   




「あのう……若杉先生の机はどこでしょうか?」


 一番近い席の先生に聞いてみる。

「あ、向こうの三番目。でも、めったにこっちには来られないから国語の部屋か生活指導行った方がいいわよ」

「あ、はあ……」

 生返事になるのは、国語準備室も生活指導室にも行って、似たようなことを言われて、職員室に周ってきたからだ。

 中学も小学校も、先生と言えば職員室に居た。

 用事があったら職員室、それでたいがい間に合った。

 ところが、宮之森高校の先生は一筋縄ではいかない。職員室以外にも教官室とか教科別の準備室とか、先生によっては分掌(進路指導とか生活指導とか保健とか)の部屋があって、そこに籠ってる。かと思ったら、図書室とかで油売ってる先生も居て、一度で掴まえられることは少ない。

「ああ、一年五組の写真屋さん」

「え、あ、はい(;'∀')!」

 奥の教頭先生に声を掛けられ、ちょっとビックリ。

「ひょっとしてバイト許可だろ?」
「はい」

 反射的に返事して教頭先生のところに足を運ぶ。

「どうせ、僕の所に周って来る書類だから、受け取っておくよ」

「え、そうなんですか?」

 教頭先生が指差したところには捺印の欄があって、担任、生活指導、教頭、校長の順に並んでいた。

「すみません、それじゃお願いします」

「須之内写真館は長いの?」

「去年の四月から……あ」

 言って、しまったと思った。ほとんど十カ月無届だったんだから。

「ほとんど結婚式場の仕事でしょ?」

「あ、はい。希望が丘の公民館の結婚式場です」

「そうか、あそこなら手堅い仕事だねえ」

「はい、マスターなんかもそう言ってます」

「マスター……ああ、お父さん……須之内も結婚式の写真が一番いいって言ってたなあ」

「その須之内って、宮之森連隊の?」

「うん、同年兵でね同じ班にいたんだ。除隊したらお目出度専門の写真屋になるって言ってた。現在は姪の直美ちゃんが継いでるみたいだね」

「はい、外回りは。写真館の中はマスターです」

「そうか、まあ、勉強との両立を忘れずに励みなさい」

「ありがとうございます。じゃ、失礼します」


 ちょっとかたいお辞儀をして教室に戻る。

 よかった、教頭先生の配慮が無かったら昼休みがつぶれるのを覚悟していたからね。

 それで、昼休はいつものようにお仲間と学食へ飛んでいく。

 
 あれぇ?

 ちょっと拍子抜け。いつも混んでる学食がガラガラ。


「あ、明日から三年は学年末テストだから、今日は午前中だけですよぉ!」

 ロコが喜んでガッツポーズ。

 そうか、高校は三年間ていうけど、三年生は十カ月しかないんだ。

 A定食をトレーに載せて窓際の席へ。

 窓際と言っても、二階まで吹き抜けのガラス張り。それが厨房からの熱気とストーブの熱で曇ってる。ここから見える景色は大きくて学校で一番のオキニ。

 だから、ちょっとだけ魔法を使って曇りを取ってみる。

 見上げた空は、いつの間にか鈍色になって、けっこうな雪が降り始めていた。昭和の空は気合いが入ってると思った。

 

☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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