巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

武者走走九郎or大橋むつお

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189『岬の灯台でアリヨールを偲ぶ』 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

189『岬の灯台でアリヨールを偲ぶ』   




『し』の字の宮之森線の脇ををなぞるように南に下ると『し』の字の底を曲がったあたりから灯台の先っぽが見えてくる。

 うわぁ……

 狙い通りにナースチャが感動の声をあげてくれる、ちょっと嬉しい。


 学年末試験も終わって、ナースチャと二人、自転車で岬の灯台を目指している。

 例の結婚式も無事に終わった。カセドラルで式を挙げ、インペリアルホテルでド派手な披露宴。写真も撮りまくったけど何事も無く済んで、もう少し行動半径を広げてもいいだろうと思ったんだ。

 チリリリリリリリリ……

 車とか電車では分からなかったけど『し』の字の角を曲がったところからは緩い下りになってペダルを漕がなくても自転車は進む。微妙に潮気を含んだ風が頬を撫でて、とっても雰囲気だ。

「アハハ、魔法少女になったみたい~~(^▽^)」

 ペダルから放した足をピンと突っ張らかし、プラチナブロンドの髪を靡かせるナースチャはもう反則ってくらい可愛い。ロコがいたら「エメロンシャンプーのCMですねえ!」とか言いそう。

 
「うわぁ……印象派の風景画だわぁ……」


 灯台のゲートで立ち止まるもんだから少し追い越してしまって、自転車ごと振り返るとアニメの主人公みたく感動の皇女殿下。

「まるでモネ……」

「モネ?」

「モネよ、光の芸術家、印象派の……」

「ああ、印象派ぁ……」

 名前は知ってるけど、なんだったっけ?

 こっそりMSスマホに聞いてみると見覚えのある絵が次々に出てくる。

 ああ、モネとかマネとかゴッホとか……うう……知らんのもいっぱい……

「あら、スマホ?」

「え( ◎Д◎)!!?」

 口から心臓が飛び出しそうになる! いつの間にかナースチャが覗いてる!  昭和にスマホなんて無いし、ナースチャはそもそも1910年代のロシア皇女だよ!

「あ、ペコさんやタキさん持ってるから……だいじょうぶ、この時代の人には言わないから(^_^;)」

「あ、ああ、よろしくお願い(;'∀')」


 ――あらあ、グッチじゃないのぉ!


 官舎の窓から恵さん(灯台守の奥さん)が手を振ってくれて、こっちも手を振って自転車を押して走る。

「お久しぶりです、あ、こちらクラスメートのアナスタシアです。灯台守の奥さんの恵さんだよ」

「アナスタシアです。ナースチャと呼んでください」

「まあ、日本語お上手、ソ連の人なの?」

「え……あ、はい。家の事情でしばらく日本でお世話になっています」

「そうなのぉ、あ、ちょうど手が空いたところだから、さ、入って、お茶でも入れるわ」

「え、あ、すみません(^_^;)」

 実は前もってタキさんに話したら『11日の午前にせえ』と言われていた。ひょっとしたら、段取りを組んでもらってたのかも。

「やあ、いらっしゃい」

 中に入ると、ちょうど灯台から下りて来た勲さんが横っちょのドアから入って来て四人でお茶。

「あら、サモワール!?」

「あ、さすがはソ連の人だ、一発で分かるんだね」

「横須賀の古道具屋さんで一目ぼれして買って来ちゃったのよ、たった二人の所帯にナンセンスだって言ったんだけどね」

「いつまでも二人じゃないかもしれないじゃないか」

 ああ……恵さんは去年流産してる……勲さんは、こんな形で恵さんを励ましてるんだ(^_^)。

「サモワールってなんですか?」

 旦那さんの気持ちは分かっても、二段重ねの優勝カップって感じのが分からない、キッチンには微妙にそぐわない気がする。

「湯沸かし器のことよ。ロシアの家にはたいていあるものなのよ」

 ナースチャが、ちょっと誇らしげに指を立てる。

「でも、蛇口がありませんねえ」

「アハハ、だから格安で。こんど、これに合う蛇口を探そうと思ってるんだ」

「規格がね日本のとは違うからねえ、要はポンコツなんだけどね」

「ポンコツはひどいよ、恵さ~ん(^▭^;)」

 アハハハハハハ

 ごっついガタイでしょげる勲さんが可愛くて、女子三人で笑ってしまう。

「ナースチャはロシアのどこなの?」

「サンクトペテ……レニングラードです」

「あ、ああ……って、どのあたり(^_^;)?」

「ああ、このあたりだよ」

 広告の裏側にちゃちゃっと地図を描く勲さん。社会科の先生よりもうまいよ(^▭^;)

 それから、学校のことや直美さんのことを喋って盛り上がって、お茶のお代わりをしながら勲さんがネタを振ってくれる。

「この南の沖にロシアの船が沈んでるんだ」

「ロシアの船がですか?」

「うん、オリヨールって戦艦。日露戦争で鹵獲されて日本の海軍に編入されたんだけど、大正時代に標的艦にされて沈められたんだ」

「オリヨール……双頭の鷲、ロシアの紋章ですね」

「房総半島が霞んで見えるから、そういうのを偲びながら眺めて見ると雰囲気かもしれないよ」

「そうね、お天気もいいし、よかったら灯台に上ってみる?」

「え!」「いいんですか!?」


 お言葉に甘えて灯台に上る。


「おお……」「うわぁ……」

 日ロそろって感嘆の声。

「ひねもすノタリノタリだねえ……」

「むつかしい表現知ってるねえ!」

 ナースチャの日本語は飛躍的に進歩してる!

「タキさんに教えてもらった、ヨサノブソン」

「そうなんだぁ……ヒネたモス……なんだろうねえ?」

 ヒネたモスラがのたくら泳いでるのが頭に浮かんだ。

「日がな一日って意味らしいわよ、オールデイロング、一日中」

「そ、そうなんだ(#^_^#)……あ、あっちに見えるのが大浜の港でね、横に伸びてるの軍艦防波堤って言って……」

 この前来た時の情報で精一杯背伸びをしてみる(123『軍艦突堤もしくは防波堤』)。

「そうなんだ……ちょっと寂しいけど、いいお話ね……旦那さんがおっしゃってたアリヨールはどのあたりかなあ……」

 ナースチャ、自分の身の上をアリヨールに重ねてるんだ……。

「うん、えと……こっちの方角!」

 ちょっと閃くものがあって、自分でも驚くほどのきっぱりした声が出た。

「こっち……」

 ふたりで、そのあたりの海を眺めていると、まるでゴジラが浮上して来たみたいに海が湧いて盛り上がってきた。

 ザザザザザ~~~~~

「「ええ!?」」

 なんと、百年も前に沈んだアリヨールが浮上してきた!

 え? ええ!?

 ひょっとして、わたし、またやっちゃった!?

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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