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209『吉村先生の脱線宣言』
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
209『吉村先生の脱線宣言』
今日の令和は木曜日だけど、昭和では月曜日で一週間の始まり。
「今日は授業の前に話しておきたいことがあります」
そう言うと、担任であり政経の先生である吉村先生は話を始めた。ちょくちょく話が脱線する吉村先生だけど、最初から脱線を宣言するのは初めてだ。いや、話があると言われて即脱線と思うのも不謹慎なんだけどね(^_^;)
「今日は何の日か知ってますか?」
微妙な関西訛で先生は話を続ける。教室のみんなはさすがに――ああ――という顔になる。
そう、昭和47年の今日は正式に沖縄が返ってくる日なんだ。
元来が令和少女のわたしは、分かってなかったんだけどね。こないだ中城(なかぐすく)さんの結婚式で思い知った。
203『先勝の結婚式・1』 204『先勝の結婚式・2』
昭和47年は学園紛争とかも下火になって、二年前には大阪万博もあったりして、大方の高校生は政治とか社会とかの枕詞の付くことには無関心になった。だれが言ったのか、この時代の高校生は三無主義とか五無主義とか言われるけど、さすがに沖縄返還を知らない者は居なくて――あ、そうだった――という顔をしている。
「あの沖縄戦では、沖縄出身の兵隊や沖縄の民間人が大勢亡くなったんですが。実は、他府県出身の兵隊が一番多く亡くなってるんです。沖縄を防衛するために北は北海道から南は九州台湾まで、大勢の兵隊が動員されて亡くなりました……」
そう言うと先生は眼鏡をはずして、ちょっと遠い目になる。
日ごろは、おおかた禿げあがった頭に数本の毛がそよいで、眼鏡で鼻の下にチョビ髭だったりするので――波平さん――で通っているけど、今の先生はちょっといいかもしれない。
「……僕は、当時は大阪の部隊におったんですが、部隊の大半は沖縄に送られて半分以上が亡くなりました。僕は、19年の冬から胸を患ってましたからねえ、他の病気はともかく胸の病気は人に伝染るんで、ハネラレたんですなあ……」
それから、軍隊時代の話を少しして、核心に入った。
「僕の本業は政経ではなくて世界史なんですがね。世界史的な規模で今回の沖縄返還を見ると、ちょっと奇跡に近いと思います。古来、戦争で失った領土が戦争によらないで返って来ることはあり得ないんです。取られた領土は力で取り返す、つまり戦争でしか取り返せなかった。これを平和的に実現したことについては今の政府を褒めてもええと思います」
ちょっと微妙な空気になって、男子がひとり発言した。
「でも、米軍基地が残ってるじゃないですか」「核抜き本土並みって嘘ですよね」とかね。
からむというほどではないけど、寝た子が起きた感がある。
「うん、それはね……」
言葉を選んで、先生は続けた。
「なにごとも、100%の実現はむつかしい。とりあえず、一歩、大きな一歩を踏み出したということで喜んでええと思う。学校の進級もそうでしょ、多少単位は不足してても仮進級で上がったら、とりあえずは嬉しい、喜ばしい。で、新学年の追認試験で無事に赤点を解消して完全な進級になる。そうとちゃうかなあ」
不足を言った男子はうつむいてしまう。たぶん仮進級だったんだ。
そのウブな反応に、ちょっとだけ10円男を思い出す。あいつは留年を乗り越えて、最初こそはつっぱってたけど、近ごろはやっと普通の高校生っぽくなってきた(^_^;)。
「本土復帰と言うても、一気には進みません。ドルと円の切り替えもあるし、学校とかの仕組みも変わる。何よりも目に付いて変わるのは、交通規則。沖縄では車は右側通行やったからねえ」
「それも、今日から変わるんですか?」
女子のAさんが訊く。
「ああ、それは、7月の29日から30日にかけて8時間でやるんやそうです」
え、そんなのお巡りさんが立って笛吹いたら一発……と、わたしでも思ってしまう。
「そら、大変だっせ。信号機やら道路標識やらぜんぶ変えならあきませんからねえ。それも、事故やら混乱やらなしにね。僕は、沖縄の警察やら役所が、どうこれをこなしていくのか、ちょっと楽しみですねえ。たぶんテレビのニュースとかでもやるでしょうから見ておくといいですね。おそらく日本の道路交通法に切り替わる瞬間を大勢の人が見てるでしょう。式典とかの様子よりも沖縄の人たちの気持ちがよう分かると思います」
それから先生は、来年で定年になること、定年になったら沖縄に行ってみるつもりだと話をした。
さっきの仮進級が「沖縄で戦ったわけでもないのにですか?」と質問。
先生は「大勢の仲間が沖縄で亡くなったんです、最後の場所ぐらい見ておこうと思って。あかんかなあ?」と応えて勝負はついた。
お昼にナースチャとロコと話したけど、それは、また今度ね。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女)
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人
209『吉村先生の脱線宣言』
今日の令和は木曜日だけど、昭和では月曜日で一週間の始まり。
「今日は授業の前に話しておきたいことがあります」
そう言うと、担任であり政経の先生である吉村先生は話を始めた。ちょくちょく話が脱線する吉村先生だけど、最初から脱線を宣言するのは初めてだ。いや、話があると言われて即脱線と思うのも不謹慎なんだけどね(^_^;)
「今日は何の日か知ってますか?」
微妙な関西訛で先生は話を続ける。教室のみんなはさすがに――ああ――という顔になる。
そう、昭和47年の今日は正式に沖縄が返ってくる日なんだ。
元来が令和少女のわたしは、分かってなかったんだけどね。こないだ中城(なかぐすく)さんの結婚式で思い知った。
203『先勝の結婚式・1』 204『先勝の結婚式・2』
昭和47年は学園紛争とかも下火になって、二年前には大阪万博もあったりして、大方の高校生は政治とか社会とかの枕詞の付くことには無関心になった。だれが言ったのか、この時代の高校生は三無主義とか五無主義とか言われるけど、さすがに沖縄返還を知らない者は居なくて――あ、そうだった――という顔をしている。
「あの沖縄戦では、沖縄出身の兵隊や沖縄の民間人が大勢亡くなったんですが。実は、他府県出身の兵隊が一番多く亡くなってるんです。沖縄を防衛するために北は北海道から南は九州台湾まで、大勢の兵隊が動員されて亡くなりました……」
そう言うと先生は眼鏡をはずして、ちょっと遠い目になる。
日ごろは、おおかた禿げあがった頭に数本の毛がそよいで、眼鏡で鼻の下にチョビ髭だったりするので――波平さん――で通っているけど、今の先生はちょっといいかもしれない。
「……僕は、当時は大阪の部隊におったんですが、部隊の大半は沖縄に送られて半分以上が亡くなりました。僕は、19年の冬から胸を患ってましたからねえ、他の病気はともかく胸の病気は人に伝染るんで、ハネラレたんですなあ……」
それから、軍隊時代の話を少しして、核心に入った。
「僕の本業は政経ではなくて世界史なんですがね。世界史的な規模で今回の沖縄返還を見ると、ちょっと奇跡に近いと思います。古来、戦争で失った領土が戦争によらないで返って来ることはあり得ないんです。取られた領土は力で取り返す、つまり戦争でしか取り返せなかった。これを平和的に実現したことについては今の政府を褒めてもええと思います」
ちょっと微妙な空気になって、男子がひとり発言した。
「でも、米軍基地が残ってるじゃないですか」「核抜き本土並みって嘘ですよね」とかね。
からむというほどではないけど、寝た子が起きた感がある。
「うん、それはね……」
言葉を選んで、先生は続けた。
「なにごとも、100%の実現はむつかしい。とりあえず、一歩、大きな一歩を踏み出したということで喜んでええと思う。学校の進級もそうでしょ、多少単位は不足してても仮進級で上がったら、とりあえずは嬉しい、喜ばしい。で、新学年の追認試験で無事に赤点を解消して完全な進級になる。そうとちゃうかなあ」
不足を言った男子はうつむいてしまう。たぶん仮進級だったんだ。
そのウブな反応に、ちょっとだけ10円男を思い出す。あいつは留年を乗り越えて、最初こそはつっぱってたけど、近ごろはやっと普通の高校生っぽくなってきた(^_^;)。
「本土復帰と言うても、一気には進みません。ドルと円の切り替えもあるし、学校とかの仕組みも変わる。何よりも目に付いて変わるのは、交通規則。沖縄では車は右側通行やったからねえ」
「それも、今日から変わるんですか?」
女子のAさんが訊く。
「ああ、それは、7月の29日から30日にかけて8時間でやるんやそうです」
え、そんなのお巡りさんが立って笛吹いたら一発……と、わたしでも思ってしまう。
「そら、大変だっせ。信号機やら道路標識やらぜんぶ変えならあきませんからねえ。それも、事故やら混乱やらなしにね。僕は、沖縄の警察やら役所が、どうこれをこなしていくのか、ちょっと楽しみですねえ。たぶんテレビのニュースとかでもやるでしょうから見ておくといいですね。おそらく日本の道路交通法に切り替わる瞬間を大勢の人が見てるでしょう。式典とかの様子よりも沖縄の人たちの気持ちがよう分かると思います」
それから先生は、来年で定年になること、定年になったら沖縄に行ってみるつもりだと話をした。
さっきの仮進級が「沖縄で戦ったわけでもないのにですか?」と質問。
先生は「大勢の仲間が沖縄で亡くなったんです、最後の場所ぐらい見ておこうと思って。あかんかなあ?」と応えて勝負はついた。
お昼にナースチャとロコと話したけど、それは、また今度ね。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
ユリア ナースチャを狙う魔法少女
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女)
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
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