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ユグドラシルの双子の主・和泉鏡香(第8話)
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ーー鏡香視点ーー
モリガンは、どうやら自身の魔法で幽世から「魔眼」を召喚したようだ。蟲の「核」を見定めるためだろう。
私は、「魔眼」なしで蟲の「核」を判別できる。というより、この肉眼そのものに「魔眼」の力が直接宿っているようなものだ。仮にも害蟲駆除専門のチームを率いるマスターともなれば、これくらいのことができないといささか苦しい。
かなり上の方に、それは位置していたようだ。ここがこの蟲の本体ということになる。
モリガンの放った巨大な針状の魔法は、見事に蟲の「核」を貫いた。なかなかのコントロールだ。伊達に「秋の領域最大最強の魔女」を名乗ってはいない。
そして、「核」を失った蟲ーというか、もはや蟲達は、まさしく蜘蛛の子を散らすといった感じで辺りに拡散を始める。だが、それを逃がすようなモリガンではなかった。
モリガンは「核」を魔法で貫く都同時に、目にもとまらぬ速さで次の術式を展開した。蟲達が可能な限り逃げ出さないように閉じ込めるための「帳」を下したのだ。別な言い方をすれば結界か。そして・・・。
「これでは逃げることはできまい。しまいじゃ」
閉じ込められた蟲達は、モリガンの放った光属性の魔法により焼かれた。「正確には、光の中に消し去られた」というべきか。帳で覆いつくしているとはいえ、さすがに森の中で炎属性の魔法を使うのは危険だ。光属性の魔法なら、害蟲の弱点でもあり、また、可能な限り周囲の環境にも影響を及ぼさないため、確かにこれだけの害蟲を駆除するにはうってつけだろう。
どうやら、今回は私の出る幕はなかったようだ。
「お見事です、モリガンちゃん」
私は拍手をして彼女を労った。やはり、領域最大の魔女を自称するだけあり、並の魔力の持ち主ではないということが、今回の一件で分かった。
「あっはっはー!どんなもんじゃ」
自慢げに胸を反らしながら笑い続けるモリガンを見て、
「今回は、私の出る幕はなかったようですね。さすがはこの領域最大の魔女さんです」
と、素直に褒めることにする。
「そうじゃろそうじゃろ」
・・・まだまだ子供らしく、すぐにうぬぼれるところもなんだか可愛らしかった。
「これでこの領域での一件は無事解決ですね」
目的の蟲も退治したし、あとはチームのところに戻るだけ・・・と。
「そうだ」
私は、両手を軽く合わせると、
「モリガンちゃんのその魔法の腕前を見込んで、ぜひともお願いしたいことがあるのですが」
私は笑顔で尋ねたつもりだったが、何やら不安そうな顔でモリガンがこちらを見た。
「お、お願いじゃと?」
モリガンは後ずさりながら、
「お主の場合は、お願いという名の「強制」じゃろうが!」
そういう風に思われていたのかしら。だとしたら、さっきの「お尻ぺんぺん」がよっぽど効いたのね。
「そんなに構えなくても大丈夫ですよ。私のお願いというのは、チームの皆さんにあなたを紹介したいので、もしよかったら、私たちが暮らしている「日向荘」まで一緒に行きませんかということですので」
「紹介とな?」
「そうです」
今回の蟲退治の立役者だ。それに可愛らしい子でもあるし、ぜひともチームのメンバーに紹介したい。本音を言えば、彼女の魔力は確かに強大なので、できることなら私の手の届く範囲でこの子を見守りたいといったところか。
私たちのチーム《ユグドラシル》の住人達は、「日向荘」という、もともと温泉旅館だった場所で暮らしている。もう旅館ではないので営業はしているわけではないが、私はそこの女将さんみたいなことをやっているのだ。
「もちろん、あなたにもいろいろ他にやることもあるでしょうし、無理にとは言いませんよ。あなたには、この森の中にアトリエもあるみたいですし、そちらの管理もしなくてはならないでしょう」
蟲を退治する前に、いくらか彼女の境遇について伺った。彼女がアトリエと呼ぶ小柄な家がこの森の中にあるらしい。「魔女のアトリエ」とは、なかなかしゃれている。
私の提案に、モリガンは頭をかきながら、
「確かにアトリエを放置しておくわけにもいかんが、一応これでも転移魔法は使えるから、まあ、必要とあればすぐに戻れるし、紹介されるくらいなら別に構わんぞ」
意外なことに、すぐに申し出をOKしてくれた。
「なにより、こんな片田舎よりも都会の方が面白いものがたくさん見れそうじゃしな」
それが本音なのね。
「いいじゃろう、ずーっと一人で今まで退屈していたところじゃ。外の領域の見聞を広めるいい機会にもなろう」
悪戯っ子みたいな笑みを浮かべると、
「少し待っておれ、すぐにアトリエに戻り、準備してくるわ」
モリガンはそう言い放つと、すぐに術式を展開し始めた。これは転移魔法のものだ。結構高度な術式を必要とするはずだが、彼女にとっては容易に扱えるものらしい。さすがはこの領域最大の魔女といったところか。
「それではな、和泉ーいや、下の名前の方が呼びやすいか。鏡香、すぐに戻ってくるから案内を頼む」
「わかりました」
術式が完成すると同時に、彼女の姿が消える。自分のアトリエに戻ったようだ。用意が整うまではここで待っていることにしよう。
ーーこうして、わがチーム《ユグドラシル》に、可愛らしい魔女モリガンが加わることになったのだった。
モリガンは、どうやら自身の魔法で幽世から「魔眼」を召喚したようだ。蟲の「核」を見定めるためだろう。
私は、「魔眼」なしで蟲の「核」を判別できる。というより、この肉眼そのものに「魔眼」の力が直接宿っているようなものだ。仮にも害蟲駆除専門のチームを率いるマスターともなれば、これくらいのことができないといささか苦しい。
かなり上の方に、それは位置していたようだ。ここがこの蟲の本体ということになる。
モリガンの放った巨大な針状の魔法は、見事に蟲の「核」を貫いた。なかなかのコントロールだ。伊達に「秋の領域最大最強の魔女」を名乗ってはいない。
そして、「核」を失った蟲ーというか、もはや蟲達は、まさしく蜘蛛の子を散らすといった感じで辺りに拡散を始める。だが、それを逃がすようなモリガンではなかった。
モリガンは「核」を魔法で貫く都同時に、目にもとまらぬ速さで次の術式を展開した。蟲達が可能な限り逃げ出さないように閉じ込めるための「帳」を下したのだ。別な言い方をすれば結界か。そして・・・。
「これでは逃げることはできまい。しまいじゃ」
閉じ込められた蟲達は、モリガンの放った光属性の魔法により焼かれた。「正確には、光の中に消し去られた」というべきか。帳で覆いつくしているとはいえ、さすがに森の中で炎属性の魔法を使うのは危険だ。光属性の魔法なら、害蟲の弱点でもあり、また、可能な限り周囲の環境にも影響を及ぼさないため、確かにこれだけの害蟲を駆除するにはうってつけだろう。
どうやら、今回は私の出る幕はなかったようだ。
「お見事です、モリガンちゃん」
私は拍手をして彼女を労った。やはり、領域最大の魔女を自称するだけあり、並の魔力の持ち主ではないということが、今回の一件で分かった。
「あっはっはー!どんなもんじゃ」
自慢げに胸を反らしながら笑い続けるモリガンを見て、
「今回は、私の出る幕はなかったようですね。さすがはこの領域最大の魔女さんです」
と、素直に褒めることにする。
「そうじゃろそうじゃろ」
・・・まだまだ子供らしく、すぐにうぬぼれるところもなんだか可愛らしかった。
「これでこの領域での一件は無事解決ですね」
目的の蟲も退治したし、あとはチームのところに戻るだけ・・・と。
「そうだ」
私は、両手を軽く合わせると、
「モリガンちゃんのその魔法の腕前を見込んで、ぜひともお願いしたいことがあるのですが」
私は笑顔で尋ねたつもりだったが、何やら不安そうな顔でモリガンがこちらを見た。
「お、お願いじゃと?」
モリガンは後ずさりながら、
「お主の場合は、お願いという名の「強制」じゃろうが!」
そういう風に思われていたのかしら。だとしたら、さっきの「お尻ぺんぺん」がよっぽど効いたのね。
「そんなに構えなくても大丈夫ですよ。私のお願いというのは、チームの皆さんにあなたを紹介したいので、もしよかったら、私たちが暮らしている「日向荘」まで一緒に行きませんかということですので」
「紹介とな?」
「そうです」
今回の蟲退治の立役者だ。それに可愛らしい子でもあるし、ぜひともチームのメンバーに紹介したい。本音を言えば、彼女の魔力は確かに強大なので、できることなら私の手の届く範囲でこの子を見守りたいといったところか。
私たちのチーム《ユグドラシル》の住人達は、「日向荘」という、もともと温泉旅館だった場所で暮らしている。もう旅館ではないので営業はしているわけではないが、私はそこの女将さんみたいなことをやっているのだ。
「もちろん、あなたにもいろいろ他にやることもあるでしょうし、無理にとは言いませんよ。あなたには、この森の中にアトリエもあるみたいですし、そちらの管理もしなくてはならないでしょう」
蟲を退治する前に、いくらか彼女の境遇について伺った。彼女がアトリエと呼ぶ小柄な家がこの森の中にあるらしい。「魔女のアトリエ」とは、なかなかしゃれている。
私の提案に、モリガンは頭をかきながら、
「確かにアトリエを放置しておくわけにもいかんが、一応これでも転移魔法は使えるから、まあ、必要とあればすぐに戻れるし、紹介されるくらいなら別に構わんぞ」
意外なことに、すぐに申し出をOKしてくれた。
「なにより、こんな片田舎よりも都会の方が面白いものがたくさん見れそうじゃしな」
それが本音なのね。
「いいじゃろう、ずーっと一人で今まで退屈していたところじゃ。外の領域の見聞を広めるいい機会にもなろう」
悪戯っ子みたいな笑みを浮かべると、
「少し待っておれ、すぐにアトリエに戻り、準備してくるわ」
モリガンはそう言い放つと、すぐに術式を展開し始めた。これは転移魔法のものだ。結構高度な術式を必要とするはずだが、彼女にとっては容易に扱えるものらしい。さすがはこの領域最大の魔女といったところか。
「それではな、和泉ーいや、下の名前の方が呼びやすいか。鏡香、すぐに戻ってくるから案内を頼む」
「わかりました」
術式が完成すると同時に、彼女の姿が消える。自分のアトリエに戻ったようだ。用意が整うまではここで待っていることにしよう。
ーーこうして、わがチーム《ユグドラシル》に、可愛らしい魔女モリガンが加わることになったのだった。
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